日本のミライを明るくする! 園児野生化計画 vol.74
年に一度、お世話になっている保育園の子供達が自分で箸を削ってつくる恒例行事がある。日本人の心の道具といっても過言ではない箸を子供達がひとりひとり魂を込めて削り出すこの時間、ぼくはとても大切にしている。
子供達にとっては竹を見つめて削り上げるまで2時間以上という長時間戦のため、飽きずに楽しい時間になって欲しい。そうなると僕の進行能力を大いに試される日でもあるのだ。
箸づくりは集中の世界に入るため、まずは思いっきり発散してからじっくりとものづくりの世界に入っていく。この集中と発散のバランスが大切なのだ。続いて大切なのが、説明の時間。刃物を使うので、当然のことながら油断をすれば手を切る危ない遊びだ。過不足無く最小限の時間で説明をしなければならない。一通りの説明が終わったらいよいよ作業開始だ。まずはほどよい大きさに切っておいた竹を自分たちで割り、そしてじっくりと自分好みの箸に削り出していく。
ここからはもう先生も僕も我慢の時間だ。ナイフで竹を削る作業は、ナイフを持つ位置、使う刃の場所、刃を入れる角度、力加減などなど、様々な要素が必要になってくる。これは説明しただけでは決して出来るわけがない。ただひたすら自分自身でコツを覚えるしかないので、最大限の愛情で見守り、そして大きな怪我を防ぐことに努めること以外は何もできない。
子供達はただひたすらに竹を削り続ける。ある段階からスイッチが入った子供達は、完全に集中の世界に入ってしまいナイフの刃にほど近いところを掴んでいても気づかないくらいになってしまう。こんな時は、いったん休憩時間をつくって少し発散の遊びを入れていく。
「あ〜〜!!」
「手に力が入らね〜!」
「先生どうしても削れない!!」
作業をしているホール内は、自分なりの発散をしている声や、ヘルプの声だけが静かな時間の中で反響する。この我慢の時間が過ぎていくと、いよいよ待ちに待った声が教室内でポツポツ生まれてくる。
「長谷部先生できたよ!」
「長谷部先生、これどう?」
「長谷部ちゃん!ちょー(ここだけ高音)いいのができたよ!」
完成を知らせる声と達成感で満たされた顔が教室中で生まれはじめるこの時間は、僕にとって幸せな時間だ。ここからはラストスパートで、まずは自分の箸で竹の削りカスをとってみて、その使い具合を試してみる。満足できなければもう少し削り、満足できたら少しヤスリで削って整えたら完成だ。
今日のメインはここからで、自作の箸で一緒にお給食を食べるのだ。ランチルームに移動したら、自分の箸を洗いいよいよ実食タイムが始まった。彼らがお給食を食べているときの顔をみたら結果はもう明らかで、自分の箸に大満足している様子。彼らはきっとこの箸をもって春から小学校へ登校する。毎日自分で作った箸で美味しいお給食を食べて、心も身体もグングン育ってくれたら嬉しいな。
<注意>
・この活動は、園の協力のもと安全管理をしっかりとしながら行っています。