イギリスを歩いて横断?!
イギリスの大きさをロクに知らないものの、「アメリカ横断ウルトラクイズ」世代である私は、「横断」という言葉を聞くだけで、条件反射で、ワクワクしてしまう。
それはイギリスのアイリッシュ海側から北海側まで、約14日間かけて公式距離として309km(だいたい東京から仙台の距離)とされているコースト•トゥ•コースト(以下C2C (Coast to Coast) )という、まさに「そのまんま」の名前が付いたロングトレイルのことだった。
「C2Cを歩く際にはいくつかの儀式があるんだ。まずはスタート時点であるSt. Beesで出発前に海に登山靴を海に浸す。そして海岸でお気に入りの石を探し、それを携えて、ひたすら東へ、北海を目指す。ゴール地点のRobin Hood’s bayに着いたら足を海に浸し、その石を海に返すんだよ」と2年前にそこを歩いたアリーは言った。
アリーはパンケーキのように真っ平らのオランダで生まれ育った、私の相棒。ちなみにオランダの国土の26パーセントは海抜ゼロメートル以下で最高峰のVaals山は標高322メートルに過ぎない。山歩きをしたい場合はわざわざ海外に行かなくてはならない。そんな彼が高校生の修学旅行でイギリスに行った際に目の当たりにした彼からみたらおじさん達(おそらく今の彼の年齢に近い40代半ば)がやっていた前出の「儀式」を目撃し、それが脳裏に焼きつき、さらに内容について知って以来、「カッコイイ!いつかは自分も!」と想いを抱き、ついに何十年越しの夢を2年前に叶えたのだった。
行程の2/3が国立公園
私は、そんな何ともチャーミングな儀式の話を聞いただけで胸が高鳴った。しかし、サンドイッチでいえば、それはパンの部分に過ぎず、味を左右する「具」の部分、つまりC2Cの中身について聞くと、もうそこを歩かない理由などどこにも見当たらなくなった。このC2Cの中身がいかにおいしいとかというと、まずカンブリア地方(北西部)の西岸の小さな村St. Beesから東岸のRobin Hood’s Bayまでトレイルの3分の2は3つの個性豊かな国立公園(湖水地方、North York Moors、Yorkshire Dale)で過ごす、ということが挙げられる。
ウォーキング大国であるイギリスは人々が自然と親しめるようフットパス(遊歩道)がそこら中にあり、それらを活用しつつ歩くことができる。また、都会の喧噪から離れたイギリスのカントリーサイドを象徴する羊や牛の放牧風景に溶け込みながら、観光地ではない土地やパブを訪れ土地土地の地ビールを試したり、地元の人々や他のウォーカーたちとの出会いが楽しめるといった、あらゆる魅力が凝縮されているのだ。
次回は、プランニングについてお伝えします!
写真・文/YURIKO NAKAO
プロフィール
中尾由里子 Yuriko Nakao
東京生まれ。4歳より父親の仕事の都合で米国のニューヨーク、テキサスで計7年過ごし、高校、大学とそれぞれ1年間コネチカットとワシントンで学生生活を送る。学生時代、バックパッカーとして世界を旅する。中でも、故星野道夫カメラマンの写真と思想に共鳴し、単独でアラスカに行き、キャンプをしながら大自然を撮影したことがきっかけになり、カメラマンになることを志す。
青山学院大学卒業後、新卒でロイター通信社に入社し、英文記者、テレビレポーターを経て、2002年、念願であった写真部に異動。報道カメラマンとして国内外でニュース、スポーツ、ネイチャー、エンターテイメント、ドキュメンタリーなど様々な分野の撮影に携わる。
休みともなればシーカヤック、テレマーク、ロードバイク、登山、キャンプなどに明け暮れた。
2013年より独立し、フリーランスのカメラマンとして現在は外国通信社、新聞社、雑誌、インターネット媒体、政府機関、大使館、大手自動車メイカーやアウトドアブランドなどから依頼される写真と動画撮影の仕事と平行し、「自然とのつながり」、「見えない大切な世界」をテーマとした撮影活動を行っている。
2017年5月よりオランダに在住。
好きな言葉「Sense of Wonder」
2016 Sienna International Photography Awards (SIPA) Nature photo 部門 ファイナリスト
2017 ペルー大使館で個展「パチャママー母なる大地」を開催