以前、『ビーパル』本誌の取材で、故・芦沢一洋さんのご自宅を訪ねて、残されたアウトドア道具を見せていただいたことがある(2009年2月号)。芦沢さんといえば、70年代にアメリカのアウトドアライフやフライフィッシングを日本に紹介した人であり、コリン・フレッチャーの名著『遊歩大全』の訳者としても知られている(日本版は1978年刊行)。いくつかバックパックが残されていたが、すべてがお宝のように思えて、撮影用にどれをお借りするかしばし迷った。まずはトレイルワイズのフレームパックを選んだ。芦沢さんのヨセミテでのトレッキングの写真にもこのパックが写っていたからだ(ちなみにコリン・フレッチャーが愛用していたのもトレイルワイズのフレームパックである)。奥様によれば、フレームパックはヤブに引っかかりやすいため、しだいに使われなくなり、フレームなしのバックパックの出番が多くなっていったという。そして見せてくれたのが、ウィルダネス・エクスペリエンスのバックパック2つである。ひとつはオーソドックスなデイパックで、もうひとつはサイドポケットの大きな40~50lくらいの中型パックだった。どちらも柿みたいな色をしていた。もともとあざやかなオレンジ色だったのが、色あせたのだと思う。しかし、ナイロンの生地や縫製はしっかりしていて、まだ現役で使えそうな感じだった。白地に茶色の文字で「WILDERNESS EXPERIENCE」と書かれたロゴも渋くてかっこよく、この2つも借りて撮影をした。
取材した当時は、ウィルダネス・エクスペリエンスの現行品は売られていなかったので、しばらく記憶から消えていたが、ここ数年、あの印象的なロゴのバックパックを背負った人を見かけるようになって驚いた。調べてみると、当時のデザインを生かしつつ、日本製造で復活したとのこと。
今回紹介する「ベタークレッタースモール」も、いまどきめずらしいシンプルなデザイン。見たところロゴの大きさやデザインが昔のものとほとんど変わっていないのがうれしい。芦沢さんの著作(私が好きなのは『アーヴィングを読んだ日』だ)を雨蓋のポケットに差し込んで、野山を歩きたくなってくる。
10,800円