キノコの下には死体が埋まっている!「アシナガヌメリ」
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    2019.03.02

    キノコの下には死体が埋まっている!「アシナガヌメリ」

    キノコを採って&撮って30年!マッシュ柳澤の知れば知るほど深みにハマる野生菌ワールドへようこそ!

    クロスズメバチの古い巣に発生したアシナガヌメリ(食毒不明)。地中のクロスズメバチの巣を、クマやイノシシなどの獣が掘り起こした跡のようだ。写真左側の小さなキノコの根本に、掘り出された蜂の巣の外殻の残骸がある。

    「櫻の樹の下には屍体が埋まっている!」

    夭折した明治の天才小説家、梶井基次郎の作品『櫻の木の下には』の冒頭の一文だ。
    桜の木の下の死体は、作者の心象風景で、本当に埋まっているわけではない。

    しかし、キノコの下には、本当に死体が埋まっていることがある。

    動物の死体の分解跡に発生するキノコ、アンモニア菌とは?

    イノシシやシカなど、動物が森の中で死ぬと、まず土中の微生物や細菌が死骸を腐らせ、骨や分解しづらい部分以外の、タンパク質などを、アンモニアやリン酸、その他の物質に分解する。
    土中に浸透したアンモニアは、さらに細かく分解され硝酸化合物となり、土壌の窒素栄養分となる。

    このようなアンモニアの土中濃度の高い場所や窒素成分の多い場所に好んで発生して、土壌の浄化に一役買い、樹木や植物が窒素栄養分を利用しやすいようにしているキノコの仲間を、アンモニア菌という。

    だから、キノコの下に死体が埋まっていても、まったく不思議では無いのだ。

    死体分解跡以外では、やはり地中のアンモニア濃度が高い動物の溜め糞の周りや、放尿跡などもからも発生し、実験的には、林内に尿素などの窒素肥料を散布することで発生させることができという。

    窒素肥料を散布した林内に生えたキノコ

    ●ナガエノスギタケダマシ(食べられないキノコ)

    学名:Hebeloma radicosoides Sagara, Hongo & Y. Murak

    尿素肥料を散布した林床から発生したナガエノスギタケダマシ。比較的まれなキノコだ。近縁のナガエノスギタケはモグラの巣の排尿場所からのみ発生し、モグラノセッチンタケの別名がある。

    【カサ】

    直径5cm~12cm。円錐形から中央の突出した市女傘状に開く。表面は放射状の小皺と粘性があり、淡黄色。褐色の鱗片を中央ほど密に付着する。

    【ヒダ】

    上生し密。白色のち帯紫褐色。

    【柄】

    逆棍棒型で髄状。中位に褐色で粘膜質のツバがある。上部は微粉状、中位は細かくささくれ、ツバより下は鱗片に覆われる。白色から淡黄色。基部は偽根状に長く伸びる。

    【肉】

    汚白色で、固く締まり、弱い苦味と異臭がある。

    【環境】

    夏から秋。広葉樹林内の動物死骸の分解跡やし尿跡に発生する。近縁のナガエノスギタケはモグラの排泄所に特異的に発生。本種はモグラの巣との確かな関係は不明と言われるが、基部の地中を掘って見るとモグラの巣があることも多い。ある程度の関係はあるかも知れない。菌根菌。

    【食毒】

    食毒不明。

    動物の死体分解跡に発生するので、生物の遺骸を分解する腐生菌ばかりと思われがちだが実はそうではない。
    アンモニアの分解の初めこそ、腐生菌的なキノコが主流だが、分解が進むとやがて周囲の森の樹木と共生する、いわゆる菌根菌の性質をもったアンモニア菌が発生するようになる。

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    また、多くの腐生菌が、自然界の炭素の還元と循環を担っているように、アンモニア菌は、様々な細菌類とともに、植物の三大栄養素の一つである窒素の還元と循環をスムーズに行わせる、大切な役割を担っている。

    キノコは救世主?菌の地球史に迫る!

    本当にキノコの下に死体が埋まっていて、殺人死体遺棄事件を解決したキノコ。

    今から30年以上前、アメリカでのこと。
    森の中で、あるキノコがたくさん生えている下を掘ったら行方不明だった被害者の死体が発見され、殺人事件が発覚し解明されたという、ほとんどホラー映画のような事件があったという。
    (キノコが人型に群生していたという話もあるが、それは流石に都市伝説の類いだろう)

    アメリカで、コープス・ファインダー(死体発見者)という、異世界もののアニメキャラのような別称で呼ばれるこのキノコは、日本のアシナガヌメリというアンモニア菌と同種か近縁の種と言われる。

    柄が根のように長く伸びるアシナガヌメリは、地中深くの栄養物からも発生することができ、土に埋まった死体だけでなく、地中の古いクロスズメバチの巣などからも発生することが知られている。
    またモグラノセッチンタケ(土竜の雪隠茸)の別名で有名な、ナガエノスギタケ(注)と同じように、モグラの巣のトイレから発生することもあり、菌根性のアンモニア菌の中でも少し変わった生態のキノコだ。

    モグラの巣に発生したアシナガヌメリ。

    ところで、アシナガヌメリは、今のところ食毒不明とされているが、一部に食べている人もいるらしい。ただ、アシナガヌメリを含むワカフサタケ属には、有毒のキノコが多い。はっきり言って食用にすべきではない。
    しかも長く伸びたい柄の先、地中深くにあるかも知れない「なにか怖いもの」を想像してしまうと、正直なところ、ちょっと・・・私は食べる気にはなれない。

    注)ナガエノスギタケは、モグラの巣のみに発生するワカフサタケ属のキノコで、窒素肥料散布場所などからは発生しないので、アンモニア菌ではない。

    ●アシナガヌメリ(食べられないきのこ)

    学名:Hebeloma spoliatum (Fr.) Gillet

    地上に出ている部分は意外に短い。やや稀。

    【カサ】

    直径2cm~15cm 半球形から中高の平に開く。表面は湿時、強い粘性があり、乾くと光沢があり平滑。栗褐色から茶褐色で周辺部淡い。

    【ヒダ】

    上生から直生し、やや密~密。汚白色のち汚褐色。

    【柄】

    中実または髄状、ときに中空。表面は汚白色。ときに一部が汚褐色。基部に向かってやや太く、長く地中の根状に伸びることが多いが、栄養源が地表にある場合は根状にならない。

    【肉】

    汚白色から汚褐色。無味無臭。

    【環境】

    動物の死骸の分解跡、スズメバチの巣、モグラの巣の排泄所、し尿場所などに発生する。菌根菌。

    【食毒】

    食毒不明。

    アシナガヌメリによく似たキノコ

    ●ツエタケ(食べられるキノコ)

    学名:Hymenopellis radicata (Relhan) R.H. Petersen

    照葉樹の森に発生したツエタケ。

    【カサ】

    径3cm~12cm 饅頭形から平に開き、表面は灰褐色から暗褐色、強粘性があるが乾きやすい。放射状の緩やかな小ジワに覆われる。

    【ヒダ】

    幅広く、湾生から直生し疎。白色。

    【柄】

    硬く細長く、下方がやや太く中空。根状の長く地中に伸び、埋れ木や枯れた樹木の根につながる。表面はカサと同色かやや淡色。上部、粉状で下部は条線に覆われる。稀に枯れ木の樹上に発生するがその場合、柄は根状に伸びない。

    【肉】

    白色、無味無臭。

    【環境】

    夏から秋。樹木の根際や林内地上、稀に枯れ木上から発生。

    【食毒】

    可食。柄は硬く消化が悪いので取り除くこと。生食は厳禁。

    文・写真/柳澤まきよし
    参考/
    「日本のキノコ262」(自著 文一総合出版)
    「山溪カラー名鑑 増補改訂新版 日本のきのこ」(山と渓谷社)
    「キノコの不思議」(森毅編 光文社 カッパ・サイエンス)
    「きのこの100不思議」(日本林業技術協会編 東京書籍)
    「北陸のきのこ図鑑」(池内良幸著 橋本確文堂)
    「きのこを手がかりとしたモグラ類の営巣生態の調査法」(相良直彦著 哺乳類科学 38 巻 2号)       
    「桜の樹の下には」(梶井基次郎著 ネット図書館・青空文庫) https://www.aozora.gr.jp/
    「アンモニア菌の増殖機構 一動物の排泄物や死体の分解跡地が浄化される過程に関する実験菌学的研究」(山中高史 京都大学学術情報リポジトリKURENAI)https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/

     

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