※ 所属や肩書は取材当時のものです。
不要な伐採木を燃料化できる薪ストーブは、すぐれた暖房器具だ。しかし、木は割らないとストーブにくべることができない。意外に手間暇がかかり、収支計算の難しい薪暮らし。それでもなぜ、斧で薪を割り続ける人たちがいるのだろうか。
『Cゾーンから出よ』は、宮城県の栗駒山麓にあるくりこま高原自然学校が掲げてきたスローガンだ。Cゾーンとは、Comfortable(快適)な場所。つまり未知なことや結果が保証されないことにも自分から踏みだそうという意味である。
山村留学、森のようちえん、ひきこもり支援、キャンプ体験などさまざまな事業を展開する同校のプログラムに通底するのは、自分で自分を成長させる自発性の育成。薪割り斧も、そうした力を養うツールである。
「自分で作れるものは自分で作るが基本。うちに滞在する人にはストーブ用の薪を割ってもらいます。石油や電気のエネルギーの流れはわかりにくいものですが、薪だとはっきり見えます」
こう語るのは、2代目校長の塚原俊也さんだ。
薪の原木は地域から出る廃材や伐木の枝。声がかかると、軽トラックで貰いに出かける。
赤い炎と芯から暖まる心地よさ。そして環境への優しさ。薪ストーブの魅力を語る言葉は多いが、よいことずくめでもない。薪を集め、割る作業には、体力も時間もとられる。広がらない理由もよくわかるという。
「でも、光熱費の請求書を見て目を丸くすることもありませんし、エネルギーが自給できることがわかると、人生なんとかなりそうだという根拠のない自信が湧いてきます」(笑)
薪が尽きると長い冬を乗り越えられない。この季節は、預金通帳の残高よりも、ラックに積み上げた薪のかさ高のほうが気になると、塚原さんはいう。
斧は用途ごとに機能性が異なる。薪割り斧の役割は楔だ。刃は鈍角で重い。振り下ろした勢いで食い込ませ、乗った重みと刃角で木の繊維を押し広げる。
危険度の高い刃物なので、はじめて扱う人には安全指導が必要だ。構えは薪に対して真正面。薪は遠心力で割るが、最後はひざを使って腰を落とす。伸ばしたままだと振り子状態になり、目標点がずれたり、刃先が足へ向かってくる、などの注意だ。
「あとは自分で実感してもらいます。醍醐味もリスクも、やってみないとわからないですから。うちの薪は雑木の有効利用なので、割るときの手ごたえや燃やしたときの熱量も毎回違います。ハンノキなどはすごく簡単に割れるので作業能率はよいのですが、あっという間に燃え尽きてしまいます。自然って、そう簡単に楽をさせてくれないしくみになっていますね」
いま塚原さんが力を入れているのは幼児教育だ。人の成長にとって大切なことをよりわかりやすく、と使い始めた言葉が『はひふへほいく』。「は」は刃物。「ひ」は火。「ふ」は歩、すなわち歩くこと。へは「平和」で、思いやる気持ち=コミュニケーションの意味。そして「ほ」は穂。農育であり食育だ。
とりわけ重視するのは、子供には危険だとして公教育が二の足を踏む刃と火からの学び。その重い扉を打ち割るのも、自然学校の役割だと思っている。
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※ 所属や肩書は取材当時のものです。
文/かくまつとむ 写真/大橋 弘
※ BE-PAL 2015年2月号 掲載『 フィールドナイフ列伝 07 エネルギー学校の薪割り斧 』より。
現在、BE-PAL本誌では新企画『 にっぽん刃物語 』が連載中です!フィールドナイフ列伝でお馴染みの『 かくまつとむ&大槗弘 』のタッグでお届けしております!