パワースポットって何だ!? 御岩神社を深読み歩き
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    2019.03.07

    パワースポットって何だ!? 御岩神社を深読み歩き

    私が書きました!
    フリーライター兼編集者
    武藤郁子
    出版社を経て独立。文化系アウトドアサイト「ありをりある.com」を開設、ありをる企画制作所を設立する。現在は『本所おけら長屋』シリーズ(PHP文芸文庫)など、時代小説や歴史系小説の編集者として、またライターとして活動しつつ、歴史や神仏、自然を通して、本質的な美、古い記憶に少しでも触れたいと旅を続けている。

    パワースポットの代表格・富士山。何度見ても見事すぎる山容に、思わず手を合わせたくなります。

    パワースポットや聖地の条件は万国共通

    ここ数年「パワースポット」という言葉を、本当によく耳にするようになりました。皆さんはいかがでしょう? 「パワースポット」をどう思いますか? パワースポットを巡る旅をしてるよという方も、パワースポットなんて信じない、何だかあやしいよ、そんなふうにおっしゃる方もいると思います。捉え方は千差万別ですよね。

    私はというと、正直言ってよくわかりません。でも、特別な場所というのはあるんじゃないかと思います。いろいろな場所を旅していると、「ほかとは何か違うぞ」と感じる場所は確かにあるんです。

    ご存じのように、パワースポットの多くは、「聖地」と呼ばれる場所と重なっています。そして面白いことに、民族や宗教が変わっても、「聖地」はずっと「聖地」だということが多いのです。「ずっと」というのはどれくらいかといったら、日本列島で言えば、例えば縄文時代から。あるいは、もっとさかのぼって旧石器時代から。人が介在する土地には、必ず「祈りの場所」がある。その「祈りの場所」とは、つまり「聖地」であり、今風に言えば「パワースポット」なんじゃないかと思います。

    そして、祈りの対象となるものも世界共通です。例えば、巨石や単独峰。火山や洞穴、水源や滝、大木、岬、岬の先にある小さな孤島。そのようなものが、だいたい信仰の対象になるのです。

    面白いですよね。教えてもらったわけじゃないのに、何となくパワーを感じる、ありがたいなと思う。そして思わず、手を合わせて祈ってしまう。人種や言語、文化を超えて同じようなことをしてしまうんですから。共通する「何か」というのは、間違いなくあるなあ、と思わずにはいられません。

    実は、私の周りにもパワースポット巡りをしている友人がいるのですが、ずっと言ってみたいことがあるんです。それは、「せっかく行くなら、どんな場所かをもっと知って、もっともっと『深喜び』してほしい!!」……ということ。

    人間同士でも、相手に興味を持って知ろうとすることって、何より大事だと思うんですが、パワースポットでも、私は同じではないかと思います。せっかくはるばる訪ねてきたんですもの。ただ感じるだけじゃなくって、リスペクトを胸に、「知ろう」としてみる。

    シンプルに「感じる」ことも大切だろうと思います。でもせっかくですから、もっと深くその場所とつながってみたい!と思ってもいいですよね? そのためには、その場所の歴史やそこに暮らす人々のことを知ろうとすることが、そしてそんなスタンスが、とても大切ではないかと思うんです。

    縄文からつながる巨石信仰の聖地

    本連載でもそんなことをお伝えできたらいいなあと思っていたら、ちょうどいい話が飛び込んできました。兄と慕うライター本田不二雄氏が、パワースポットとしても話題の「御岩神社」に取材に行くというのです。私は、渡りに船とばかりに取材に同行させてもらうことにしました。

    「御岩神社」――名前からして、おわかりですよね?「御岩」ですから、ズバリ「巨石」がご神体の聖地でしょう。巨石は、古くから信仰の対象です。その御岩神社が、今はパワースポットとしても大人気だと聞くと、何だか納得しちゃいます。

    上野駅から常磐線特急で、1時間40分。日立駅で下車して、タクシーで御岩神社に向かいます。

    御岩神社は、常陸国(茨城県)最古の名社で、縄文時代の祭祀場も発見されており、神道や仏教、修験道の混淆(こんこう)した姿を今に伝えることで有名です。つまり、縄文時代から始まって、祀られる形が少しずつ変化しながら、今につながっているということがわかる場所ということ。そんな場所は、日本中探してもなかなかありません。

    御岩神社正面。澄んだ空気が気持ちいい。お詣りはやっぱり朝が最高ですね!

    実はこの日、週末に降った雪の影響で、入山できるかどうか微妙でした。案内してくださる巫女・Sさんにご挨拶すると、ドキドキしながら聞いてみます。

    「雪はもう大丈夫かと思います。一般の方が入山しても大丈夫かどうか確認をする必要もありますから、ボランティアガイドのNさんが、いっしょに山頂までいってくださいますので」とにっこり。その笑顔を見て、それまでのドキドキ感は雲散霧消。単純な私は一気にテンションが上がりました。通常、参拝者は標識を見ながら登拝します。ガイドの方と一緒に歩けるだなんて、なんてラッキー! 

    最初の鳥居をくぐると左手にある案内板。これが御岩神社の全景です。

    日本ならではの「神仏混淆」を体感できる境内

    参道を進むと、正面に楼門が見えてきました。なんと、楼門には、仏教の守護神・仁王像が安置されています。

    楼門。しっかりと仁王像が安置されています。

    これ、ぜひ注目していただきたいポイントです。これこそまさに神仏混淆の証。今やほとんど見られませんから!

    前回 https://www.bepal.net/trip/tripinjapan/57290もお話ししたように、明治政府によって、神社と仏教寺院は分離させられましたが、それまでは、お互いを祀り合うような、分かちがたい存在だったんです。ですから、明治以前は、きっとこんな感じで共存していたんでしょう。

    何がいいか悪いか、ということはちょっと置いておきます。でも、明治から現在は150年間ほどですが、それ以前の約1000年間は、神仏を一緒に祀ってきました。一緒に祀っている状態のほうが、日本では圧倒的にスタンダードなんですよね。つまり、御岩神社のこの光景は、不思議でも何でもない。昔ながらのスタンダードな形を見てるんだなあ、と思っていいでしょう。

    神と仏、そして祖霊を祀る「斎神社(さいじんじゃ)」

    さらに進むと、「斎神社回向殿(えこうでん)」が現れました。「回向」というのは、仏教用語ですから、建物の名前も神仏習合です。

    鳥居の右手が斎神社回向殿。左手に少しだけ見えるのが大日堂です。

    そして何より驚いたのは、そのお祀りの方法です。同じ建物の祭壇に、お宮と仏像が入ったお厨子が並んでお祀りされています。

    本田大兄が、思わずうなりました。その気持ちはわかります。このようなスタイルは、私は初めて観ました。お寺で、仏像を本尊として並びに神さまが一緒に祀られているのは、何度か観たことがありますが、神社に横並びでというのは実に珍しい。

    「斎神社では、天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高皇産霊神(たかむすびのかみ)、神皇産霊神(かみむすびのかみ)、八衢比古神(やちまたひこのかみ)、八衢比賣神(やちまたひめのかみ)、5柱の神さまと阿弥陀如来さまをお祀りしております。そして以前は、向かって左手に大日如来さまがいらっしゃいましたが、今は大日堂にお祀りしております」

    確かに、右のお厨子には端正で優しいお顔の阿弥陀如来像がいらっしゃいますね。そうしますと、真ん中のお宮に5柱の神さまがいらっしゃるということ……?

    「中央は祖霊社です。昔、このあたりでは亡くなったら御岩山にいくと考えられていましたから、ご先祖の霊をこちらでお祀りしているんです。この回向殿は拝殿で、奥に本殿があります。5柱の神さまは本殿にいらっしゃいます」

    真ん中は祖霊社!? な、なるほど……。そうすると、阿弥陀如来が隣に祀られている意味がわかったような気がします。阿弥陀如来は、その本願力により、全ての人を救うと考えられ信仰された仏です。もし、私がこのあたりに生まれて、「死んだら御岩山に行くんだなあ」と考えていたとしたら、この光景は心強いですよ。そんな阿弥陀如来が、いつも隣にいてくださるんですもの。

    どんな神仏が祀られているかに注目!

    さてここで、「文化系アウトドアスイッチ」をオン。斎神社にお祀りされている神仏について、ちょっとだけ深読みしてみましょう。

    まず、最初の3柱は、日本神話の天地開闢(世界創造の物語)で最初にあらわれたとされる至高の神々で、とても有名です。このように神格の高い神々がいらっしゃることももちろん重要なのですが、私がここで注目したいのは、八衢比古神、八衢比賣神という神さま。

    私は、このようにたくさんの神々が一緒に祀られている場合、順番の後ろの方にある神さまに注目してみます。聞き慣れない名前だったりするのですが、実はその土地の神だったり、この場所の意味・属性を体現する神であることが多いからなのです。

    八衢比古神・八衢比賣神は、集落や道の要所に在り、邪神や悪霊の侵入を防ぐ神です。境内にあった江戸時代の絵図を見ますと、御岩神社のご神体とも奥の院とも言える御岩山へ登拝する道の入り口に位置していることがわかります。つまり、聖地を邪から守るという役割を、この神々は司っているのかもしれないですね。

    ……しかし、大日如来と阿弥陀如来は、いったいどんな意味合いなんでしょう? 阿弥陀如来は前述したように、祖霊社との関わりがありそうですが、大日如来は……。

    大日如来もまた密教(修験道も)における至高の存在です。最初の3柱と同体と考えてもいいのかもしれません。やはり修験道の世界観から来てるのかな……などと考えながら、あまりに複雑すぎて、私は思わず頭を抱えます。

    斎神社脇にある大日堂。大日如来は秘仏ですが特別に開けてくださいました。〔本田不二雄氏撮影〕

    「鳥居の向こうに大日堂……。こんな写真初めて撮るよ」

    そう言って、また本田大兄がうなりました。大兄は「神仏探偵」としても有名なお方。日本中の寺社を観てきた大兄でも、こんな光景はほとんど見たことがないというのです。その貴重さは推して知るべしです。

    私は周囲をぐるっと見渡して、大きく息を吐きました。鳥居から斎神社まで、普通に歩いたら20分ほどの距離。しかし、たくさんの神仏、様々な要素が次から次へと登場して、すでに頭がパンクしそうです。参拝する前までは、今日のメインテーマは御岩山登拝だと、私は勝手に思っていたのですが、その手前どころか、御岩神社(の本体。実は大きな意味でこの聖域一帯を御岩神社と総称してるんですが、お社単体としても御岩神社があるんです)にも行きついていないというのに、すでにこのありさま……。                                                                                                                                      

    とはいえ、私のポンコツ頭では追いつけないものの、期待はますます高まってきました。今感じているこの混乱も何も、これから登拝するあの御岩山にその源があるんですから。

    (次回は、いよいよ御岩神社、そして御岩山へ登拝します。お楽しみに!)

    私が書きました!
    フリーライター兼編集者
    武藤郁子
    出版社を経て独立。文化系アウトドアサイト「ありをりある.com」を開設、ありをる企画制作所を設立する。現在は『本所おけら長屋』シリーズ(PHP文芸文庫)など、時代小説や歴史系小説の編集者として、またライターとして活動しつつ、歴史や神仏、自然を通して、本質的な美、古い記憶に少しでも触れたいと旅を続けている。

    ★本田不二雄氏と共著で書き下ろした『今を生きるための密教』(天夢人刊)(*リンクをお願いします!)が昨年12月に刊行されました!ぜひお手に取ってみてくださいね!

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