今、日本でもっとも予約の取れない日本料理店のひとつが東京・神宮前の「傳」。そんな人気店を切り盛りする長谷川在佑さんが、野生食材を、探して、捕って、自由自在に料理!
雑キノコの奥深さを知ったのは郷土料理
流通に乗らない「雑キノコ」の深い世界を私に教えてくれたのは、山中の宿や郷土料理のお店でした。季節になると山奥に出むき、キノコの名前と食べ方をひとつずつ学んでいきました。もうひとつの先生はヨーロッパの料理人たちです。彼らは野生キノコに本気なので、出かけるたびに現地のシェフと共に山を歩き、知識を交換しています。山に住む人の知識、西欧の知識、そして日本食。それらが私のキノコ料理を作っています。
「雑キノコ」と侮るなかれ。雑とくくられる多様なキノコにこそ、キノコの魅力があるのです。雨降りの数日後、狙いを定めて向かった山では、10種を超えるキノコを収穫できました。
ハナイグチ
チャナメツムタケ
アカモミタケ
クリフウセン
タマゴタケ
袋にしまう前に汚れを取る
汚れたキノコを一緒にすると他のキノコに汚れが移るので、カゴに入れる前に汚れを取る。ブラシ付きのキノコ用ナイフを使うと便利。
キノコは使う種類が増えるほど味の深みが増す
こんな日に作りたいのが、多種を一緒に使う料理。キノコは種類ごとに旨味成分が異なるので、使う種類が増えるほど味が重層的になり、深みが出ます。とくに、炊き込みご飯は雑キノコの深みが味わえる料理です。煮ることで味が出る種類は米と一緒に炊き合わせ、炒めることで味が出るキノコは、別に炒めて炊き上がりの寸前に合わせる。
隠し味は炒めるときに使う鴨の脂。この動物質の脂が、キノコの旨味成分を引き出します。そして、最大のコツはキノコをケチらないこと。量の多寡でまるで印象が変わります。噛むたびに口のなかでそれぞれのキノコが弾け、自分の存在を主張する。こんな炊き込みご飯には、キノコ狩りをもう一度楽しむような喜びがあります。
キノコの盛期は春から秋ですが、厳冬期に出る種類もある。山峡の道の駅などでは、そんなキノコに出会えるので見かけたらぜひ挑戦を。深く広いキノコの世界を垣間見られるはずです。
雑キノコの炊き込みご飯
材料
雑キノコ(アカモミタケ、クリフウセンタケ、タマゴタケ、チャナメツムタケほか)・・・適量
醤油・・・小さじ1
米・・・1合
鰹出汁・・・180ml
鴨脂(もしくはバター)・・・10g
作り方
炊き込みご飯
① キノコは石づきをはずし、汚れを掃除しておく。
② 土鍋に洗った米1合を入れ、濃く引いた鰹出汁を合わせ、そこにアカモミタケなどを入れ、醤油を入れて、蓋をして、強火にかける。
③ クリフウセンタケ、 チャナメツムタケ、タマゴタケを鴨の脂で炒める。鴨の脂が無ければ、バターなど動物質の脂でも代替できる。
④ 土鍋の蓋を時々開けて確認し、水分が飛んだら、③を上に載せて、蓋をして少し蒸らす。
キノコとネギの汁
鰹出汁と醤油、みりん、鴨脂で調味。ユズとセリをくぐらせて香りをつける。
美味しく仕上げるコツ
煮込むと食感が悪くなるタイプのキノコは、炒めてから合わせることで、本来の風味や歯触りを生かす。
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※取材・文/藤原祥弘 撮影/宮沢豪(収穫)、宮地工(料理)
この記事は、『BE-PAL』2019年1月号からの再掲です。長谷川在佑さんが、野生食材の収穫法とその調理を指南する連載「直傳野食料理」は、現在第4回が本誌掲載中!