日本全国のゲストハウスを訪ね、その土地おすすめのアウトドアスポット・アクティビティとお店を紹介してもらう連載です。
今回は、88 house Hiroshima(広島市)にご紹介していただき、Sen Guesthouse(香川県小豆島)を訪問しました。
プライベートビーチつき、夕日のきれいな旅人のためのゲストハウス
香川県、瀬戸内海に浮かぶ小豆島は、「小」さい「豆」と書きますが、実は香川県内では一番大きい島です。島には港が6つあり、神戸や岡山、高松からのフェリーが通っていて便利なアクセスです。
今回伺った「Sen Guesthouse」へは、島の南側にある「坂手港・草壁港」が最寄りの港。草壁港からバスに乗って約20分、坂手港からは約10分、海沿いの道を進むと到着します。
ここは、アイエアナロン・マシューさんと範子さんによる家族経営です。2歳のかわいいお子さんもいます。ふたりはもともと愛媛県松山市で同じ名前のゲストハウスを営んでいましたが、2018年5月、ここ小豆島に引っ越して来ました。
「多くの方がファンになってくれて、何度も利用してくださるゲストもいて、松山での6年半もとても楽しかったのですが、ひとつ上のステップに進みたいと思って。ゲストルームとプライベートが同じ建物内にあって、外で自由に過ごせる場所があって、という理想の環境を考えたときに、条件に当てはまっていた場所が、小豆島だったんです」
ゲストハウスに着いた時は、共同スペースで、すでに範子さんと和気あいあいと話すゲストがいました。聞けば、その方は松山の時のファンで、今回は、新しいゲストハウスの様子を見るために、泊まりに来てくれたのだそうです。
Sen Guesthouseの玄関を入ると、目の前にはゲストルームにつながる階段があり、右手の扉からはキッチンとダイニング、畳のリビングルームに繋がります。
「安心してくつろげる、旅人のためのゲストハウスにしたい」という範子さんの言葉通り、建物はとても清潔で快適。白い壁のところどころの壁紙が柄物になっていたり、絵が飾られていたりして、旅に疲れた気持ちもゆるみます。
ダイニングとリビングルームから出られるベランダから、瀬戸内の海を一望できるのも、魅力のひとつ。とくに夕方には、キラキラと反射する水面と海に浮かぶ島々のコントラストがとてもきれいです。伺った日は真冬でしたが、ベランダの椅子に座って、いつまでも眺めていたいくらいでした。
「家の前の道路から、プライベートビーチへ行けますよ」という範子さんの言葉に従って行ってみると、ハンモックとカヤックがありました。カヤックはマシューさんのもので、半日かけてゲストハウスがある田ノ浦半島を回ったりするのだとか。経験者であれば、カヤックを貸し出してもくれるそうですよ!
アイエアナロン夫妻は現在、小豆島お遍路を多くの人に知ってもらうための地図をつくっています。
「松山のゲストハウスも、外国から来たゲストに四国八十八ヶ所めぐりの情報を伝えたいと考えながらやっていました。いまは、小豆島の八十八ヶ所をめぐるお遍路をまとめています。島内には、絶壁に沿って建っている寺院など、外国人が気に入りそうなお寺がたくさんあるんですよ」
実際に島内を歩いていると、道のあちこちに寺院の所在を伝える案内板が掲げられています。全部を回るのに1週間ほどあれば十分だそうなので、ゲストハウスを拠点に、挑戦してみるのもおすすめです。
この他にも、サイクリングやトレッキングなど、小豆島のアウトドアはたくさんあります。Sen Guesthouseではバーベキューもできるので、アウトドアを満喫しにぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
facebook:https://www.facebook.com/senguesthouse
〒761-4424
香川県小豆郡小豆島町田浦乙687番地15
TEL:0879-61-9980
MAIL:info@senguesthouse.com
醤油と木桶で「おいしい醤油」の未来をつくる醤油蔵
日本食の基本的な調味料である醤油は、小豆島では400年の歴史があり、島内でも21の醤油の製造元があります。「ここに行くとよいですよ」と範子さんにおすすめしてもらったのが、醤油蔵の「ヤマロク醤油」。5代目となる山本康夫さんが、当主を務めます。
ヤマロク醤油は、バス通りから川沿いにのぼり、小道に入ったところにあります。近づいてくるほどに強まる醤油の香り。香ばしさに、少しだけ甘さが混じります。
ここで製造している醤油は2種類。醤油につけて大豆を発酵させる再仕込み醤油の「鶴醤(つるびしお)」と大粒の丹波黒豆を原料に使用した「菊醤(きくびしお)」。この醤油は、4代目である山本さんのお父さんが、そのお父さん、つまり3代目の再仕込み醤油を、ご自身の記憶を頼りに商品化したものです。
製造している醤油は2種類ですが、その他にもめんつゆやポン酢などもつくっています。その場で販売もしているので、気に入ったら購入して持ち帰ることもできます。
「父の味を引き継ぎましたが、それを元に原材料の選定や配合など、自分のアレンジを加えました。ポイントはいろいろありますが、簡単に言うと、塩分を下げて旨味成分を多くし、甘みが残るように工夫しています」
4代目から受け継ぎ、醤油をつくって15年。諸見、発酵・熟成、火入れ、殺菌、充てんまで、全部ひとりでやっているのだそう。
「力作業は大変ですが、醤油は基本的に、環境を整えたらあとは菌がつくってくれます。でも、人が近づくのを感じて活発になる菌ですから、作業をしている人の考えていることがわかってしまう。例えば、今日は仕事したくなぁと考えていると、美味しい醤油をつくってくれません。だからこそ蔵では、まるで子どもを育てるような気持ちで菌に接します。なかなか思い通りに行かないですが、それが楽しいんです」
できあがった鶴醤は、旨味の甘さが舌にのこり、醤油の香りが鼻に抜けます。
「おすすめの食べ方は、肉にかけることです。醤油と肉の旨味がよく合います。それから、バニラアイスにかけても美味しいです。キャラメルの味になります」
味が気になったら、併設している「やまろく茶屋」で試食しましょう。
さっぱりとした甘さの菊醤は、卵かけご飯にかけてもよく合います。
山本さんは、昨年、新規事業として、木桶屋の技術を受け継ぎ、自ら木桶をつくる「木桶職人復活プロジェクト」を始めました。2018年は、7本の木桶をつくりました。できあがった木桶は、日本全国の醤油蔵や酒蔵に届けられます。
山本さんの願いは、木桶で醤油をつくる醤油蔵を増やしたいということ。
「木桶でつくった醤油の売上を、市場シェア1%のなかで競うのではなく、醤油の品質を上げることで、シェアそのものを増やしませんか、と他の醤油職人に呼びかけています。1箇所がひとり勝ちしても、業界全体が生き残れなければ、次の世代の首を締めてしまう。多くのメーカーが木桶で醤油をつくるようになって、消費者もその美味しさを求めて買ってくれるのが理想です」
山本さんは小豆島生まれの小豆島育ち。高校卒業後、勉強のために愛知の大学へ進学しました。卒業後は島へ戻るために佃煮の製造会社へ就職しましたが、残念ながら大阪の事務所へ配属されることに。結局、島へ戻ってきたのは29歳のときでした。島のどんなところが好きなのでしょうか。
「山と海がこんなに近いところは、他にはありませんよ。夏の雰囲気はまるでリゾートです。アップダウンもコーナーもあるし、山と海の境目を走れる。バイクで走ったら、ことさら気持ち良いと思います」
鶴醤と菊醤は、これまでの醤油のイメージが覆されるほどのおいしさでした。夏になったら、島の空気を味わうとともに、また訪れたい場所です。
facebook:https://www.facebook.com/yamaroku
instagram:yamaroku.shoyu
〒761-4411
香川県小豆郡小豆島町安田甲1607
TEL:0879-82-0666
MAIL:mail@yama-roku.net
営業日:年中無休(もろみ蔵の見学は9:00〜17:00)
眺めのよいテラス席、自然体で暮らす夫婦に会えるカフェ
週に数日しか営業をしていなくて、眺めが最高。そんな特別感あふれるカフェで、日がな1日過ごしたいと思いませんか? 草壁港の東、「坂手港」からひたすら登った先にある「Moksha Coffee Stand」は、のんびり過ごしたい天気の良い週末に、ちょうどよいカフェです。
カフェまでは長い坂が続くので、車やバイクで行ったほうがよいかもしれません。でも、徒歩で行くのもまた一興。運が良ければ、「乗っていきます?」と地元の人が車を止めてくれる親切に触れられるかもしれません。
「近所のせっちゃんから『お客さん乗せたけど、無事に会えたかしら?』と連絡がありましたよ」と出迎えてくれたのが、オーナーの山崎直さん。奥さんの尚子(ひさこ)さんと一緒に店頭に立っています。
このカフェの魅力は、なんと言っても、テラス席。「眺めのよい席でおいしいご飯やコーヒー、デザートを食べられますよ」という範子さんが言う通り、瀬戸内海を一望できます。
「お客さんにもここでお茶を飲んでリラックスしてもらえたら嬉しいです。テラス席しか無いけれど、小豆島の風や緑、海を感じてもらえたら。この環境が気に入っているので、わたし達も仕事しながらこの景色を楽しめますし笑」(尚子さん)
景色のお供に、今回は「タンドリーチキンサンド」をいただきました。口を大きく開けないと、入り切らないほど具だくさんです。地元の野菜とフムス、ニンジンのラペ、チキンを挟むリュスティックは、尚子さんが焼いているもの。外はパリッと、中はもっちりしています。
「フムスは、イスラエルの友人が送ってきたタヒーニ(ゴマのペースト)でつくりました。リュスティックは、営業日の朝に焼いています。私がハード系のパンがとっても好きなんですが、島内には売っているところが少なくて笑」
食感も味もバリエーションが豊富で、食べていてとても楽しい一品でした。
一緒にいただいたコーヒーは程よい深さ。島の素材でつくっているスパイシーホットジンジャーのほか、チャイや紅茶もあり、その日の気分に合わせて選べます。尚子さんが焼いたお菓子も提供しています。
山崎さんご夫妻は、神奈川県からの移住者。直さんは横須賀出身で、尚子さんは鎌倉出身です。こちらへ引っ越してきたのは、2017年9月のこと。小豆島は、自然が近くて素敵だったから移住先に選んだといいます。
「海も山も近くてちょうどよいサイズ感。思い描いていたイメージとも近かったんです」
お店を開くことは、ふたりで一緒にできることを考えた末の選択でした。もともと独立したいと考えていた直さんと、飲食店で働いた経験がありお菓子もつくれる尚子さん。このふたりの力が合わさって、このカフェができています。
「建物は、空き家バンクで見つけました。でも、ここに住んで、かつ室内に客席をつくって……。と考えると、このスペースは小さい。自分たちの身の丈に合った方法を考えたら、テラスの客席になりました。景色も良いし」(直さん)
「わたし達も、仕事しながらこの景色を楽しんでいます笑」(尚子さん)
店名にある「moksha」は仏教用語で『解脱』という意味で、直さんいわく、英語ではrevelation(開放)。それをさらに噛み砕き、『リラックス』という意味が込められています。
「当て字で『木舎』と書けますよ」と尚子さん。お店はいま発展途上で、テラスを広げたり、庭を整備してハーブを植えたり、とこれから木材でDIYをしていくそうです。
自然体で接してくださった山崎さん夫妻の姿には、背伸びしない生き方で良いのだと感じます。瀬戸内の静かな海を見、自然の空気に触れ、温かい飲み物を味わうひとときに、穏やかな気持ちになりました。
instagram:moksha_coffeestand
〒761-4425
香川県小豆郡小豆島町坂手甲1447-1
MAIL:mokshacoffee@gmail.com
営業日:土日・祝 (11時〜17時/季節により変更あり)