DAY 1【Grasmere to Pattersdale総距離 13.5km】
ユースホステルで迎える朝は、撤収の煩わしさがないのが何といってもうれしい。
そして、さらに落ち着いて靴擦れの調整にも時間がかけられるのがありがたい。
昨日は、かかとの皮膚がぽっかり剥け、それによって後半戦苦しめられた。
コンピート社が出している 靴擦れ防止用の人工皮膚シートは便利なので、私たちをはじめ多くの他のウォーカーたちも使っていたが、同時にみな同じ不満を漏らしていた。それは、水や足の汗で形状が崩れだすとウールの靴下に絡まり、ぐちゃぐちゃになってしまう、ということだった。
そんなことがあり、布のテーピングテープでコンピートを覆って対処した。
ガイド本を読むと、今日のステージの距離は一番短いものの、クラシックなハイキングコースなので、楽チンを意味している訳ではない、という。
キャンプ道具がなければ、C2Cを歩く際に唯一の危険ポイントとされているが絶景が楽しめるStriding Edgeという稜線を歩くルートを選ぶのだが、荷物や後々の体力を温存するためにも、谷底を行くルートを選択。(後日、ちょうど同じ頃、Striding Edgeルートを歩いたウォ−カーが滑落してしまった、と聞いた。)
ユースホステルを出て、住宅街や牛の放牧地を抜けて行く。
このPublic BridlewayやFoot Path という標識があれば、たとえ、私有地であっても、そこを誰もが通過できるという道であると示している。
「Foot Path」は歩行者専用通路を示し、「Bridleway」は歩行者の他にサイクリストと馬も歩けることを意味している。「Byway」と書かれている場合は旧道を示し、歩行者、サイクリスト、乗馬、そしてさらに車も通ることが可能。
イギリスではこの「通行の権利」が尊重されているおかげで、編み目のようにウォ−キングのコースが存在する。
本日は、そんな数多くのフットパスがある中、Grasmereに暮らし、この湖水地方をこよなく愛したイギリスのロマン派詩人、ウィリアム•ワーズワース (1770-1850) も歩いた道を歩く。
I wandered lonely as a cloud
That floats on high o’er vales and hills.
谷や丘の上高く浮かぶ雲のように。
私は一人あてもなく歩いていた。
上記のワーズワースの代表的な詩「水仙」に出てくる雲のように軽やかな気持ちでTongue Gillを登る。
ようやくUllswater湖 が遠方に見えてくる。
今夜の宿泊地は、その水仙が咲いていたGlencoyne Bayの対岸に位置している。
店に入り、ひとまず、温かい飲み物を注文し、近くにスーパーはないか尋ねる。すると、店員の女性は、うちが村唯一の店よ、という。よくよくみると、所狭しと野菜やフルーツが数種類、ちょっとした食材やお菓子が並んでいる。文房具店、お土産物店、アウトドアショップ、郵便局といった機能がギューッと凝縮されていた。
温かいコーヒーを飲み、明日の行動食のバナナとクッキーを購入し、お目当てのキャンプ場、Side Farm に向かう。しかし、入り口には看板が出ており、なんと…。
ガーン!!…あ、 待てよ、下に小さく括弧の中に、”C2Cは要相談”と書いてあるではないか!
受付に行き、聞いてみると、C2Cを歩いているなら、特別にテントを張ってもいいよ、と優遇措置を取ってくれるのでなんともありがたい。
疲れてお湯を沸かす気力も残っていなかったので夜ご飯は、村唯一のパブ、White Lionへと向かう。
C2Cの魅力のひとつでもあるのは、ほぼすべての村にはパブがあり、エール好きには、その地域ならではのエールが飲めるという楽しみがある。そしてたいていのパブはファミリーや犬フレンドリーであるだけでなく、ビーガン(乳製品を食べない)フレンドリーでもあり、ビーガン用メニューがなかったとしても伝えればたいていの場合、臨機応変に対応してくれる。
お腹もいっぱいになり、ほろ酔い気分でテント場に戻る帰り道、ふと2つのゴブリンの石像を目の当たりにする。
ゴブリン(英: goblin)はヨーロッパの民間伝承やその流れを汲む(主として) ファンタジー作品に登場する伝説の生物である。まれに「ガブリン」とも表記される。以下のような様々なイメージで捉えられている。 ゴブリンとは、邪悪な、または悪意をもった精霊である。 ゴブリンとは、おふざけが好きで意地の悪い(だが邪悪とは限らない)妖精 である。
—wikipedia より引用。
まるで「そう人生、ハプニングなしのラブリーな日々だけではすまないぜー」と囁かれている気がした。 そしてそれは思わぬ形で、現実となるのであった。。。
(実際歩いた距離18km、万歩計31,912歩)
写真・文/YURIKO NAKAO
プロフィール
中尾由里子
東京生まれ。4歳より父親の仕事の都合で米国のニューヨーク、テキサスで計7年過ごし、高校、大学とそれぞれ1年間コネチカットとワシントンで学生生活を送る。
学生時代、バックパッカーとして世界を旅する。中でも、故星野道夫カメラマンの写真と思想に共鳴し、単独でアラスカに行き、キャンプをしながら大自然を撮影したことがきっかけになり、カメラマンになることを志す。
青山学院大学卒業後、新卒でロイター通信社に入社し、英文記者、テレビレポーターを経て、2002年、念願であった写真部に異動。報道カメラマンとして国内外でニュース、スポーツ、ネイチャー、エンターテイメント、ドキュメンタリーなど様々な分野の撮影に携わる。
休みともなればシーカヤック、テレマーク、ロードバイク、登山、キャンプなどに明け暮れた。
2013年より独立し、フリーランスのカメラマンとして現在は外国通信社、新聞社、雑誌、インターネット媒体、政府機関、大使館、大手自動車メイカーやアウトドアブランドなどから依頼される写真と動画撮影の仕事と平行し、「自然とのつながり」、「見えない大切な世界」をテーマとした撮影活動を行なっている。
2017年5月よりオランダに在住。
好きな言葉「Sense of Wonder」
2016 Sienna International Photography Awards (SIPA) Nature photo 部門 ファイナリスト
2017 ペルー大使館で個展「パチャママー母なる大地」を開催