まだ突然の寒さが来るものの、今年もようやく桜も見納めの頃を迎え、本格的な春の到来である。厳しい寒さを越冬したメダカの成魚たちは、春めいてくると一気に産卵を始める。この冬越しした成魚の産卵意欲は凄まじく、天然下のミナミメダカやキタノメダカも、新しい世代を残そうと、活発な産卵行動を展開する。
今年は改良メダカの飼育人気は初春から熱く、愛好家の方々は好みのメダカの種親を活発に求めている動きが目立っている。
その中で、高い人気を得ている品種に、“女雛(めびな)”、“夜桜(よざくら)”、そして“煌(きらめき)”がいる。三系統ともに、愛媛県西条市在住の垂水政治氏が作出されたメダカで、ハウスネームが発表されてから、一気に全国のメダカ愛好家の注目を集めたメダカたちである。
三系統共に独特の色合いを持ったメダカである。“女雛”は、“黄桜”(黄幹之)とオーロラ幹之の交配から作られたメダカで、ラメ系統として改良を進めたタイプが“夜桜”で、この“女雛”は体に現れる朱赤色をより濃くした、柿色と呼ばれる色合いを高めるための選別淘汰、累代繁殖をされたことで、このような魅力的な表現を持つメダカとなった。
オーロラ幹之からブラックリム系の血統を受け継いでおり、美しさに加えて、体全体から感じられる力強さも兼ね備える表現となっている。柿色の発色部位は様々で、頭部周辺を染めるものから、尾ビレ付近にのみ柿色が現れるものまでバリエーションがある。
“夜桜”は、“女雛”の別系統として、ラメ光沢を持つ鱗を持ったメダカに成る方向で改良されたタイプである。“黄桜”(黄幹之)とオーロラ幹之の交配によって得られたものの中から、ラメ光沢を持つ鱗をを増やす選別淘汰、累代繁殖によって作られた。“黄桜”は、幹之の血統が入っていない非透明鱗二色、三色に幹之W 光を交配、さらにアルビノラメ光を交配して、黄色と白の二色体色のものに垂水氏が持ってきたメダカである。“夜桜”は、やや暗灰色の黒味のある基調色にラメ光沢が入るメダカで、呼称の良さもあって、多くのメダカ愛好家に注目された。
最近では、各地のメダカ愛好家の手によって、“夜桜”独特の黒味のある基調色より、黄色味のある個体を好む傾向も見られるようになっている。ハウスネームの夜桜は、独特の黒味を夜の暗さと見て、ラメ鱗の光沢を桜と表現した呼称であったが、様々なバリエーションが楽しまれるようになっている。
また、最近では、“女雛”の体色にラメを移行した“女雛ラメ”も数多く見られるようになっている。“女雛”、“夜桜”がリリースされてから、垂水氏が分離してきた系統を、個々のメダカ愛好家が好みの色柄に変化させる…これも改良メダカならではの楽しみ方と言えるのだろう。
“女雛”の中で体外光を持ったものが、当初は“女雛体外光”と呼ばれていたが、二年前の秋に、“煌(きらめき)”のハウスネームが使われるようになった。垂水政治氏が、自ら作った、柿色の発色、色の濃さを追求した“女雛”に体外光を乗せる方向で交配を進めて作られたメダカで、“女雛”がほぼ固定した段階で「“女雛”の最終形」として交配を進めた結果、このような難易度の高いメダカとなった。
ニックネームは“煌(きらめき)”で、“煌”の呼称は本タイプ作出以前に2系統のメダカに使われていたのだが、今では、この垂水氏作のメダカが“煌”として広く知られるようになっている。
ハウスネームは、メダカ愛好家が新たな表現を魅せるメダカが出来た時に自由に付けられるものだが、そのハウスネームが品種レベルにまで周知されるのは、その後、二年以上をかけて、多くのメダカ愛好家の間に広まるか?が重要である。垂水政治氏は今では全国のメダカ愛好家の目標となっている方で、『メダカ交流会in愛媛』というメダカ愛好家が集う愛好会で会長を務めておられる。その人柄、そして作り上げるメダカの双方に魅力があることで、垂水氏の創られるメダカは、これからも全国のメダカ愛好家の目標になることは間違いない。
今年は、あなたの好みの“女雛”、“夜桜”、そして“煌”を育ててみてはいかがだろう?
写真/森 文俊、東山泰之 文/森 文俊
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