スタイリッシュな建物が映えるゲストハウス「高野山ゲストハウスKokuu」
かつて、弘法大師空海が真言密教の修禅の道場として開創した高野山は、標高約1,000メートルの八葉の峰に囲まれた盆地にあり、長い歴史を経て、今もなお神秘的な空気が流れる聖地です。
2018年には、約150万の人が訪れ、そのうち、宿泊したのは、23万人ほど。多くは、「宿坊寺院」(宿泊ができるお寺)に滞在します。
歴史や文化を体感できる建造物や、お膳で出される趣のある精進料理を味わえる一方、宿泊費は1泊で約一万円以上。そこまでお金をかけられない人にとって、とてもハードルが高いものでした。
そこで、もっと気軽に高野山を訪れてもらうためにゲストハウスを開いたのが、今回滞在した「高野山ゲストハウスKokuu」の高井良知さんです。
Kokuuでは、チェックイン時にゲストに対して10分ほど時間をかけ、高野山の楽しみ方を紹介してくれます。
「高野山の境内は東西で6キロ。このなかに、117のお寺が密集しています。そのなかでも特におすすめしたいスポットは4つあります」
そう言って、指し示してくれたのが、高野山の地図。地図は、見どころが書き込んであるお手製です。
「1つ目が、一番奥にある『奥之院』。ここにある20万個のお墓は、夜には灯籠が灯ります。武将のお墓もあるので歴史好きな人におすすめです。奥の『御廟橋(ごびょうばし)』より先、弘法大師が瞑想している御廟までのエリアは撮影禁止です。2つ目は、『恵光院』です。ここでは密教の瞑想法である『阿字観(あじかん)』や写経を体験できます。奥之院のナイトツアーの出発地点でもあるので、解説を聞きたい人や1人で歩きたくない場合はこちらに参加してみてください。3つ目は〜」
高野山の見どころを教えてくれるだけでなく、ゲストの趣味や嗜好に合わせて内容も変えています。
「アウトドアだったら、登山道の『女人道(にょにんみち)』や熊野に通じる『町石道(ちょういしみち)』を歩いても面白いかもしれません」
こういった気づかいは、ヨーロッパで利用したゲストハウスの経験から生まれています。
「現地の情報をゲストハウスの人が教えてくれるのがとても良かった。いろんな国の人が集まって情報交換するのが楽しくて。でも、初めて“ゲストハウス”という存在を意識したのはインドです」
イギリスへの3年の滞在やヨーロッパ旅行などで、それまでも利用していたはずなんですけどね、と不思議そうな高井さん。ゲストハウス開業を決めたのもインドで、バラナシにいたときのことでした。
「突然『ゲストハウスをやりたい』というアイデアが降りてきました。たくさんの人といろんな話ができるし、高野山は世界遺産に登録されたのもあって観光客が増えています。自分はインドでゲストハウスに泊まっているけれども、高野山を訪れる人が、お寺以外に泊まる機会もあっていい、という考えがぱぱっと浮かびました」
即座に現地のネットカフェへ行き、検索。当時、高野山にはまだ一軒もゲストハウスがないということがわかって「これは行ける」と確信したそうです。
そうして、Kokuuを開いたのが2012年10月。当時、ゲストハウスとしては珍しかった新築の建物は、「アルファヴィル」という建築事務所に手がけてもらいました。
ツーバイフォー材で建てた建物は、とても清潔で日差しもよく入ります。建物の真ん中をつらぬく廊下の両側に、キッチンカウンターと共同スペース、トイレ、シャワールーム、8つのカプセル、2〜3人が入れる個室3部屋があります。
「建築雑誌にも取り上げてもらって、建築家もよくいらっしゃいますが、皆さん、このコンパクトさに驚きます」
たしかに、外見からするとこんなに機能があるとは思えないほどコンパクト。けれども、それぞれが広すぎず狭すぎずの程よいスペースに区切られていて、快適です。
特に共同スペースは、外壁側のスリット窓や廊下側の柱が開放感と仕切りを両立させていて、本当によい居心地。寒さの厳しい朝晩には、焚いてくれる薪ストーブのやさしい暖かさが広がります。
チェックイン時にお願いすれば、高井さんお手製のカレーが夕食で食べられるのは、18時にはほとんどの店が閉まってしまう高野山ならではの心づかい。
事前予約が必要ですが、朝食も提供しています。サクっと焼けた自家製のレーズンパンがおいしいので、ぜひ試してみて欲しいところ。
Kokuuのロゴは、ゲストハウスを取り囲む山々と空で、曼荼羅などに描かれる「八葉蓮華」とKokuuの元となった言葉「虚空」をイメージしています。
虚空の意味は「妨げるものがなにもなく、すべてが存在している場所」。ゲストハウスを拠点に、飾らず身一つで高野山を散策すると、心がすとんと落ち着いて満たされた気分になります。
高野山までは、大阪・梅田から電車で約2時間。意外とふらっと行けるここへ、リフレッシュの旅に訪れてみてはいかがでしょう。
店舗情報
ゲストハウス
高野山ゲストハウスKokuu
〒648-0211
和歌山県伊都郡高野町高野山49番地の43
TEL:0736-26-7216
MAIL:info@koyasanguesthouse.com
facebook:https://www.facebook.com/KoyasanGuestHouseKokuu
ツイッター:http://twitter.com/Koyasanguesthou
URL:http://koyasanguesthouse.com/en/
自然体がクセになるカフェ「梵恩舎」
高野山境内の東西ちょうど中心。古い長屋の一軒で、ビーガンカフェが営業しています。その名も「梵恩舎(ぼんおんしゃ)」。オーナーの柘植健(つげ・たけし)さんが、奥さんと一緒に切り盛りしています。
「気張らないで、誰でも気軽に来れる場所があったらと思ってます」という言葉のとおり、近所の人や子どもがお茶しに来たり、世間話をしたり、ギターを弾いたり、おもちゃであそんだり、と思い思いに過ごしています。
店内は木を基調とした空間で、陶器や版画の作品などが飾られています。柘植さんの友人の作品だそうで、その場での購入も可能です。どれも味わい深く、一つひとつ手にとって見てみたくなるほど。
ここで提供しているのは、コーヒーを始めとした飲み物各種とケーキ、ランチなど。ランチは1日2、30食限定です。なかでも、豆腐チーズケーキは絶品。チーズケーキの甘みのなかに、時々豆腐の風味が顔を出します。
「今日はレモン風味ですけど、ブルーベリーのときもあります。味は日によって違うので、気になったら聞いてください」
穏やかにニコニコとしている柘植さんは、10代後半から30歳くらいまで、中国やインド、ヨーロッパなど、世界中を旅するバックパッカーでした。1年間、世界中を放浪して、日本に戻って2ヶ月間アルバイト。お金が溜まったら、また海外へ。それを繰り返していくうちにあっという間の10年間。
柘植さんの出身は、横浜。中学3年生のころにサーフィンを始め、風が特に強い日には鎌倉へ遠征していました。『ビーパル』も愛読していて、かっこいいギアを見つけたら購入し、掲載されている山に登ったりもしていたのだそうです。登山するときはフル装備。ゴアテックスのジャケットを身に着け、世界中を旅するときも、最初は80リットルのバックパックを担いでいたそうです。
「でも、チベットに行ったら、サンダルを履き、何も持たずに山に登ってる人がいる。『こんな感じの装備でも大丈夫なのか』と。仰々しいものを持っているのがバカバカしくなって、トートバッグで旅するようになりました」
高野山に来た理由をたずねると「なんででしょうかね」と柘植さん。なんでも、奥さんと当時小さかった娘さんと一緒に高野山にたまたま立ち寄って、気に入ったのだとか。
「日本を周る旅行の途中でたまたま来て、いいなーと思って。ちょうど、働いてお金をためないとなと思い始めたタイミングだったので、住むことにしました。その後、仕事もすぐに見つかって、職場の人から『この家が空いているからなにかしないか』と言われたんです。なにやろうかなーと考えたら、家にコーヒーマシンがあったのでカフェをやろうと」
いわば、コミュニティカフェのような感じ。
「コーヒーは最初はドネーション形式で提供しましたが、『値段をつけてくれないと困る』と言われて。それから、近所のお店を見ながら値段を決めました」
どこまでも自然体な柘植さん。世界中を旅しているときは、人々の営みや、現地の人と対話することに関心を持っていました。今は、カフェの仕事と子育て、毎日の繰り替えしのなかで、自分の心の状態や精神の置所を探っているのだと話します。
思うままに様々なことを見聞きし、経験してきたからこそ、なんでも受け入れているような、自然体の柘植さんが醸成されていたのだと感じます。カフェの自由な雰囲気は、柘植さんのまとっている雰囲気がつくりだしているのでしょうか。時間が過ぎていくのを忘れてしまうほど、のびのびとした雰囲気でした。
店舗情報
カフェ
梵恩舎
〒648-0211
和歌山県 伊都郡高野町高野山730
TEL:0736-56-5535
URL:http://hitosara.com/tlog_30003910/
facebook:https://www.facebook.com/pages/%E6%A2%B5%E6%81%A9%E8%88%8E/262399260502622
世界中のコリを解きほぐす整骨院「高野山うぐいす整骨院」
「高野山うぐいす整骨院」の土屋貴雅さんは、「ツチヤニボンド」という名前で音楽活動をしていたり、趣味でTシャツを作って販売していたり、と多様に活動しています。
「金曜日まで、仕事を兼ねてヨーロッパに行ってきました」と出迎えてくれました。聞けば、過去に高野山のお寺で講座を行ったり、外国から来た観光客に施術をしたことがつながって、2ヶ月間で11カ国を周り、指圧の講座や施術などを行ってきたのだとか。
「スイスの雪山にも登ってきました。スノーシューを履いて一心不乱に登ったり、坂を駆け下りたりして、最高に気持ちよかったです。めちゃくちゃ楽しかったです!」
土屋さんも、柘植さんと同じく高野山への移住者。高野山へ移住してきた人はとても少なく、土屋さんいわく「この2人くらいじゃないですか」とのこと。高野山では、自分で仕事をつくれることが、移住の条件なのかも知れません。
「整骨院を開いて6年目くらいです。東京からこちらへ引っ越してきたのが、9年前。うち3年間は、高野山から大阪へ修行に出ていました。いわゆる下積み時代というやつです」
3年の下積みを経て、最初に開業しえたのは、「鶯谷(うぐいすだに)」という場所でした。
「鶯谷にあるから、最初は『高野山うぐいす谷整骨院』という名前でした。『空いている物件があるから買ってくれないか』という話をきっかけに、こちらへ移転して、住所が変わったので『谷』をとって『うぐいす整骨院』です」
ベッドが3床ある施術室は、ガラス障子越しにさす陽の光が柔らかく、温かみがあって落ち着いた雰囲気。
「購入してから自分たちでリノベーションをしたのですが、当時は前の診療所でも開業しながらの作業。早めに起きて、2、3時間作業してから、鶯谷の診療所でお客さんに施術、という生活でした。壁の漆喰塗りも床貼りも自分たちです」
「ちょっとやってみますか?」
という言葉に甘えて、施術していただきました。最初は、施術台の上に仰向けに。さっささっさと手を滑らせながら、体の調子を見ていきます。
「触診ではないですが、治療と診断を同時進行してやっていきます。と同時に、問診もしたりして」
ここで施術を受けるのは、地域の人や修行中のお坊さん、観光客、と実にさまざま。
「日中はだいたい地域の人。夜は観光客という感じです。熊野古道をトレッキングであがってきて『ちょうどよかった』と喜んでくれる人もいますよ。色々な人と出会えるし、刺激もあって毎日仕事が楽しいです。これも何かの縁でしょうか……ありがたい限りです」
ここで受ける禅指圧(経絡指圧)とは、指圧師の増永静人氏がまとめ上げた体系で、世界的によく知られている指圧のこと。全身の経絡を読んで施術をしていきますが、体の痛みやコリが出ているところを「実(じつ)」、問題はあるけれども症状として現れていない部分を「虚(きょ)」として考え、「虚」の一番深いところの見極めとアプローチを行うことで、体の調子を整えていきます。
私の場合、体の不調がもっとも現れているのはおへその下と腹部の右側。押されると、強く鈍い痛みを感じます。おへその下は脾系で、寝不足や疲れが出る場所。腹部の右側は、肝の弱さが現れているのだそう。自分のコリの箇所を知ることで、まるで自分の体と対話をしているように感じます。
「肝はアキレス腱とかにも関係があって、足の筋肉のこりにもつながります。でも、コっているところを押すのではなく、肝が弱いのがわかったら、肝系の経絡をおす。痛みの出ていない『虚』に働きかけるんです」
施術をしながら、丁寧に説明してくれる土屋さん。外国からお客さんにも英語で対応し、すごく興味を持ってくれるのだとか。それが次の仕事にもつながっています。
「今回のヨーロッパツアーは最高にエキサイティングでした。ヨーロッパの次はアメリカ、アフリカ、と広がっていったらいいですね」
土屋さんはこの仕事を「普通に接するよりも近い距離でのコミュニケーションができるのが魅力」といいます。
「施術中、お客さんの状態が変わり、呼吸の質も良くなってくるのがダイレクトに伝わると、こちらも清々しい気分になってきますし、指圧というシンプルな方法で、相手が喜んでくれる。いい仕事です」
店舗情報
整骨院
高野山うぐいす整骨院
〒648-0211 和歌山県伊都郡高野町高野山795
営業時間:8:00〜12:00、15:00〜19:00(定休:木、日)、19:00〜23:00(お寺への出張リラクゼーション:定休なし)
TEL:0736-56-3999
MAIL:uguisu583@gmail.com
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訪ねたゲストハウスの方に、おすすめのお店と次の取材先を紹介してもらう連載です。
今回は、Sen Guesthouse(香川県小豆島)のご紹介で訪問しました。
次回は、ゲストハウス錦(埼玉県秩父市)にお邪魔します。お楽しみに!
構成:松本麻美