まだ夜間は冷える日もあるが、ようやく本格的な春を迎えた。この時期、メダカを飼育していれば、必ずメダカたちは水槽内、飼育容器内で繁殖行動を見せるようになる。自然下のメダカの寿命は普通一年ほどで、他の魚類が数年以上の寿命を持つことから考えても、その全生活史を一年間に凝縮しているのがメダカの一生なのである。そのためメダカの成長は早く、水温が高い日本の夏には3ヶ月で成熟し、産卵を始めるのである。一年間という一生を無駄にしないために、メダカたちは産卵盛期には子孫を残すために生活しているような精力的な繁殖行動を取るのである。
メダカの産卵行動は、普通早朝に行なわれる。天然のメダカの場合、朝の4〜5時に行なわれることが多く、朝8時頃には終わると言われている。産卵する条件は、水温と日照時間が重要なキーとなっている。水温は20度C以上あることがメスの体内での卵成熟に関与するホルモン分泌を促進する。水温が25度C以上あれば、健康でエサを十分に食べたメスならほぼ毎日、20〜30粒の卵を産卵する。日照時間も重要で、水槽内での飼育下などでは、12時間以上、できれば14時間以上の蛍光灯の照射があれば、冬場でも毎日産卵させることが可能だ。
産卵行動は、卵で腹部の丸味が増したメスをオスが追尾することから始まる。メスの前でオスはくるりと横向きに一回転して求愛したり、ヒレを開いてメスの行く手を遮るようにしたり、メスの下方からメスの腹部に触れるようにするなどの求愛、産卵前行動を見せる。求愛に応じたメスは、泳ぎを弱める。オスは背ビレとしりビレでメスの体の後半部を抱きかかえるように包み込み、並んで遊泳した後、体をS字に曲げてヒレを振動させる。その振動の中でメスは卵を産み、オスは同時に放精する。産卵時間は15〜25秒と長い。
産卵された卵は、メスの生殖孔付近、しりビレ直前に卵の塊となって数個から数十個の数で付着し、メス親によって、外敵からの食害の影響を受けにくい場所に運ばれる。メダカを飼育していると、メスが卵を付着させて泳いでいる姿は頻繁に見ることができるはずである。メスは長いと6時間程度も卵を生殖孔付近につけていることもあるが、通常、30分から数時間以内に水草などにこすりつけて卵を産着させる。卵は同居する他の魚に食べられることが多いので、卵だけを別の水槽に移すか、産卵箱と呼ばれる水槽内に設置する容器に水草ごと入れてフ化させるようにして稚魚を育てるようにしたい。
メスの腹部からそっと卵塊を採取して、メチレンブルー水溶液内で隔離管理すれば、だるまメダカなどの産着の下手な品種を効率よく採卵させることも可能である。卵塊を腹部に付着させて泳ぐメスをそっと網ですくい、手のひら上で爪楊枝などでそっと卵塊だけを採るのだが、慣れれば誰にでもできる方法である。
メダカの卵は球形で、卵径は1.0〜1.5mm程度、色はほとんど透明かやや黄色味を帯びている。メダカの卵の表面にはごく短い細毛が全面に生えるようにある。また、水草などに付着しやすいように、長さにして10〜20mmほどある付着糸と呼ばれる粘着力の強い糸状の組織がある。これが水草の葉に絡まって、水草などにしっかりと付くのである。
最近では、様々な素材を使ったメダカ用の産卵床が市販されており、それに産着させて、なるべく多くの卵を育てるようにしていただきたい。メダカの卵は思った以上に硬く、人間の指で押したぐらいでは割れない。もし割れるようであれば、未受精卵や水生菌に冒された卵であると言える。肉眼では解りにくい場合は、メチレンブルーやヒコサンなどを少量入れて、青くなる卵が未受精卵や水生菌である。卵のフ化適温は18〜30度Cで、18度Cで20日、25度Cで10日、30度Cでは8日ほどでフ化する。同時に産卵された卵であってもフ化が一斉に始まることはまれで、初日に1〜2匹がフ化し、翌日に多くの仔魚がフ化してくることがほとんどである。最初にフ化した卵から数日遅れて全てがフ化することは、メダカの子孫を残すための工夫といえる。フ化した時のメダカは体長が4〜5mmで、フ化後2日ほどで卵黄を吸収し終えてエサを口にするようになる。
このシーズン、飼育しているメダカから多数の稚魚を得ていただきたい。
写真・文/森 文俊
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