ソノーラ・パスは、標高9,624フィート(約2930メートル)と高い場所にあります。
車でアプローチした私は、高度順応するために、いつもよりもゆっくりと歩き始めました。
いよいよ始まる、そんなワクワクした気持と、この先の不安要素で頭が一杯になっていました。だからかもしれません。そう、全くその気配に気づかなかったのです。
歩き始めて数分しかたっていない場所でした。ブラック・ベアーに至近距離で出会ってしまったのです。
まさかこんなにも早く出会うとは思いもしないじゃないですか!
とてつもなく長い時間、まさに対面したままで動けずにいました。しばらくして、そのままゆっくりと緊張感のない距離まで間をあけた時、ブラックベアーは何事もなかったかのようにゆくり立ち去ったのでした。
完全に油断していた、ここは熊の多いエリアなんだ!
ぐっしょりと濡れた手をズボンで拭きながらそう自分に言い聞かせ、細心の注意を払いまた歩き出したのでした。
以降、激しいアップダウンを繰り返しながらひたすら歩く長い1日――。
すれ違うデイハイカーの姿もなく、出会ったハイカーも数えるほどしかいませんでした。
今まで歩いてきた長距離トレイルに比べて、相当早く行かなければ当初の予定に追いつかない。しかも、珍しく時差ボケにやられながら、ひたすら歩く歩く歩く。
長距離を歩く事による足の火照りや、予想以上の寒さに体は冷え、徐々に食欲もない状況に陥っていくのでした。