
みんなで作った収穫祭のフラッグ。
タワーマンションが建ち並ぶ東京・晴海。その中に小さなコミュニティ菜園「たべようはるみ タワマンの森」が誕生した。自然とのつながり、人とのつながりを取り戻すための、初めの一歩となる「ドゥ・トゥールくまさん農園収穫祭」の様子をレポートする。
大都会で育ったおいしい野菜が、人と自然、人と人を結ぶ架け橋になる
2019年8月4日。晴天。照りつける太陽が肌に痛いほど。そんな猛暑の中、東京・晴海に建つタワーマンション、ドゥ・トゥールの共有スペースで「くまさん農園収穫祭」と夏祭りが始まった。主催は、マンションの自治会と「たべようはるみ タワマンの森」実行委員会。
クマさんの形をした小さな菜園に、ナス、トマト、ピーマン、枝豆の夏野菜が元気に育っている。

タワーマンションを背景に、おいしいナスが育った。そろそろ収穫。
今日は、住民たちで育てたこの野菜を収穫し、みんなで料理をして振る舞おうという趣向。一人また一人とコミュニティ菜園に関わる家族、近所の方などが集まってきた。気がつけば、下は1歳の赤ちゃんから60歳代の方まで、老若男女20名ほどが菜園を囲んでいる。今回の収穫祭をリードする実行委員会の大学生から収穫のやり方を教わると、いよいよ収穫のスタート!
52階建のツインタワーであるドゥ・トゥールには、およそ1600世帯、4800人が暮らす。ひとつの村と言っても過言ではない、巨大なタワマンだ。「隣は何をする人ぞ」とばかりに、住民同士の関係が希薄になってしまうのも仕方ない。そんな状況を危惧した自治会役員の小村新治郎さんは、「自然と触れ合いながら、地域のつながりをつくりたい」と考え、武蔵野大学環境システム学科で教鞭を執る明石修先生に相談をした。
明石先生の専門は環境学。人間の活動を通して持続可能な社会システムをつくる研究を続けている。
「温暖化対策の研究をしているのですが、人と自然との共生を考えていくうちに、パーマカルチャー(パーマネント〈永久な〉とアグリカルチャー〈農業〉、カルチャー〈文化〉を組み合わせた造語で、持続可能な環境をつくるためのデザイン体系のこと)に出会い、そこにこれからの人間の生き方を変える可能性を感じました」(明石先生)。

武蔵野大学環境システム学科准教授、明石修さん
明石先生は、東京・有明にある武蔵野大学のキャンパスの屋上で、学生と一緒にパーマカルチャーの菜園づくりをしている。お台場の観覧車と高層ビルが見える場所に、突如として現れた(?)空中菜園は、まさに都会のオアシス。季節の野菜や花々が育ち、蝶や蜂たちが集まって来る。
小村さんは、このキャンパス内にある屋上パーマカルチャー菜園を訪れ、明石先生にマンションでのコミュニティ菜園づくりの依頼を決めたという。
「隣町の有明でここまでの菜園ができるのなら、自分たちのマンションでも可能だと希望がわきました。明石先生と学生のみなさんにご指導、ご協力をいただき、畑づくりに着手したのが今年の4月。その後、ワークショップ形式で苗の植え付け、看板づくりなどのイベントを重ね、日々のお世話をしてくれるメンバーを募り、本日の収穫祭を迎えることができました」(小村さん)

ドゥ・トゥール自治会役員、小村新治郎さん
こうして、ドゥ・トゥール自治会と武蔵野大学環境システム学科明石ラボとの協働プログラムとして、「たべようはるみ タワマンの森」実行員会が誕生した。
菜園のある場所は、マンションの共有スペースである「有効空地」。小村さんは、自治会と管理事務所と東京都都市整備局に許諾を得て、一畳ほどの小さなスペースに畑をつくることにした。この場所は、マンションの住民だけでなく、近隣の方の通り道にもなっている。

菜園がクマの形をしていることから「クマさん農園」という名前がついた。
「この道を通るたびに、トマトの花は咲いたかな? など野菜の成長が気になって、お世話をする仲間入りをさせてもらいました」と話すのは、ご近所に暮らす地域の方。マンションの住人に限らず、地域の人も菜園のお世話に参加できるようにした。

赤く実ったトマトは、収穫したらそのままパクリ!
「ポスティングの案内で、この活動を知りました。まさかこんな都会で野菜を育てられるとは思っていなかったので、子どもの食育にもいいかなと参加しています」とは、マンションに暮らす3歳のお子さんを持つお母さんの声。
「4歳の子どもと一緒に参加しています。収穫しながら『ピーマン大好き』と言っていましたが、この活動をきっかけに野菜好きになってくれたら嬉しいです。顔見知りの方も増え、マンション内で会うとご挨拶をするようになりました」と、お子さんを抱っこした若いお父さんが笑顔を見せてくれた。

「野菜好きになってくれるとうれしいです」と話す参加者のお父さん。トマトを収穫中。
現在、月に1度のミーティングを自治会と明石先生、学生たちで行いながら、有志のメンバーが日々のお世話を担当。「当番制にはせず、気づいた人が自主的に動くという緩やかなルールだけを決め、常にオープンにして誰もが参加しやすい環境を整えたいと思っています」(小村さん)
これから毎年、同じ大きさの畑を1つずつ増やしていく予定だと話す。「今は学生がサポートに入っていますが、ゆくゆくは住民の方だけで自走できるようにしていきたいと思っています」(明石先生)。

収穫初体験の子どもたち。採れたての野菜を手に「はやく食べたい!」
収穫した野菜を、マンション内のパーティルームに運び込み、みんなでワイワイと調理に取り掛かる。「ナスは浅漬けに、ピーマンはグリルして、トマトはそのままで、枝豆は茹でていただきます」と、収穫祭を仕切る学生さん。キッチンに立った住民の方と子どもたちが、手際よく野菜をカットしていく。なんだかとても平和なシーンだ。コミュニティの中心に畑とキッチンがあれば、話が早い。気がつけばみんなの笑い声が響き渡る。人と自然、人と人がつながり、小さな交流が始まった。

マンションのパーティルームで、収穫野菜を調理する皆さん。菜園を通して仲良しに。
「都会の中で自然とつながることは、とても大事なこと。小さな菜園ひとつがあるだけでも、つながりの中で生きていることが実感できると思います。大学の屋上菜園やタワーマンションの菜園など、楽しくて、環境によくて、つながりを感じられる実例をどんどん広げていきたいと思っています」(明石先生)

参加者と「たべようはるみ タワマンの森」実行員会が、小さな菜園を囲んで記念撮影。
取材・文/神﨑典子 撮影/三枝直路