アルコールバーナーとは、名前の通り燃料にアルコールを使う手のひらサイズの燃焼器具だ。市販品では「トランギア」のそれが老舗で半世紀以上の歴史を持つが、日本ではここ数年で注目されるようになった。背景にはウルトラライトハイキングやソロキャンプの軽量コンパクトブームがある。
アルコールバーナーには大別して2タイプある。ひとつは本体に口が開いた非加圧式だ。側壁が二重構造になっているのが特徴で、そのすき間を通って気化した燃料が燃える仕組み。中心部の口は燃料の注ぎ口であり、アルコールを気化するための余熱室にもなっている。市販品は、ほぼこのタイプ。
もうひとつは加圧式。これは、単室構造で炎の噴出口以外は密閉されており、燃料はふたができる注ぎ口から注入する。使用するときは受け皿に載せ、受け皿にアルコールを入れて着火。その熱でバーナーのアルコールを気化させ、受け皿の炎が移って着火する。とにかく外から何らかの方法で本体を熱することが必要なのだ。
燃費と火力は、噴出口の数と余熱室の大きさで変わる
アルコールバーナーは、ガスやガソリンを使うバーナーに比べて構造が非常にシンプルなため、簡単に自作できてしまうところも魅力である。しかも空き缶でできるところがいい。材料費ほぼゼロ円だ。
DIYにはオリジナリティも大切だと思うが、アルコールバーナーについていえば、安い、簡単、機能的という点で、空き缶を使うタイプが完成度が高いと思う。ただ、簡単に作れるとはいっても、噴出口の数や位置、余熱室の口の広さ、内部構造などによって、火力や燃焼効率などがずいぶん変わってくるようだ。シンプルゆえに奥が深い。で、理想のアルコールバーナーをこしらえるため、市販品やネットの情報などを参考にいろいろ試し、以下のようなスタイルで非加圧式を製作することにした。
材料は350mlの空き缶。高さは45㎜。余熱室の口の広さは40㎜。実は多くの市販品がほぼこのサイズなのだ。噴出口は24穴とし、径は1㎜。
ちなみに余熱室の口を狭くすると燃焼時間は長くなるが、プレヒートに時間がかかり、火力も低下する。噴出口の数と径も同様だ。この辺はバランスの問題だが、要は調理に十分な火力と燃費を得られればいいのである。
併せて、消化用のふたと風防を兼ねたゴトクも作った。これらがないと火を消したり、料理をすることもできないからね。
材料
①350ml缶…3個 ②銅板(0.3×70㎜×260㎜)…1枚 ③針金(φ1㎜×120~150㎜程度) ④ペグ……2本 ⑤コットンの古布……1枚
※銅板は自宅に転がっていた廃材。そのほか金属の薄板ならなんでもOK。ペグは使い古したアルミ製。
道具
①金属用ヤスリ ②押しピン ③鉄工用ドリルビット(5㎜) ④サンドペーパー(120番) ⑤ドライバドリル ⑥ホッチキス ⑦ラジオペンチ ⑧カッター ⑨サシガネ(定規でもよい) ⑩ハサミ
作り方
STEP1 本体の加工
1 本体上部になる缶を加工する。底の盛り上がった部分のやや外側に押しピンを刺して24個の噴出口を開ける。
2 缶の底の盛り上がった部分の内側をくりぬくため、5㎜のドリルで周囲に穴を開けてハサミでカットする。穴は金属用のヤスリできれいな円形に整え、サンドペーパーでバリを落とす。
3 本を重ねて高さが40㎜になるところのページにカッターの刃を挟める。そこに缶の側面を当てて何度か回転させるときれいに切れる。2つの缶を底から高さ40㎜でカットする。
4 缶の側面を45㎜×160㎜でカットする。ハサミで大まかに切ってから、カッターと定規で必要なサイズにカットする。
5 缶の底の盛り上がった部分に合わせて、4でカットした缶の側面を丸めてホッチキスで留める。この部品は余熱室と気化室を分ける壁になる。
6 5のパーツに燃料が通る適当な大きさの穴を2か所ハサミで開ける。
7 コットンの古布を40㎜×160㎜に切る。これは燃料を噴出口まで導き、気化しやすくするための芯になる。
8 底の部分になる缶の口をラジオペンチではさんで、かるくねじりながら1周して波状にする。
9 底の部分に5のパーツと古布を納めて、噴出口を開けた本体上部の缶をかぶせる。
ここ、私が最も苦戦したところ。2つの缶は同径なので、当然ながらそのままでははまらない。それで、本体下部になる缶の口を波状にして縮めるのだが、それでもなかなかきれいにはまらない。無理やり押し込むと缶がくぼんだり、切れたりしてすき間ができ、そこから気化したアルコールが漏れて着火し、とても危ないので十分注意してほしい。
10 上下の缶がうまく重なったら、表面をサンドペーパーで磨いてアルミの地肌を出してやるとカッコいい。
Step2 ふたの加工
11 本体の缶を切った方法と同じようにして、3つ目の缶の底の部分を高さ10㎜で切る。切り口はサンドペーパーで整える。
12 適当な場所に押しピンで2か所の穴を開けて針金を通し、軽くねじって取っ手にする。
燃焼中のバーナーを消化する際はこのふたを被せる。空気が遮断されて火はすぐに消えるが、缶はしばらく熱を持っているので素手で触らないように。皮手袋をして扱うか、時間が経って冷めてから持つようにする。
Step3 ゴトク風防の加工
13 銅板は角を丸くカットし、写真の位置にペグを掛ける切り込みを深さ5㎜で左右2カ所ずつ開ける。針金を掛ける穴は押しピンで開ける。
14 使用するときは短辺の穴に針金を通して馬蹄型に固定し、ペグを2本渡してゴトクにする。
これで完成!
サイズ 約45㎜×66㎜(ふた、ゴトク風防除く)
本燃焼までのプレヒート時間 41秒
100mlの水を沸騰させるまでの時間 2分21秒(ゴトク風防使用)