「世界の果てまで川ぞいを走る」の合言葉のもと、水流ランを提唱。四十七都道府県の最高峰まで一筋の川のみをたどって海から走り登る “ZEROtoSUMMIT 47” を実施中。世界進出を狙いつつ、ランニングを通した表現のあらゆる可能性を試みている。家族の3(妻、娘9歳、息子5歳)、とくに妻を愛するお父ちゃん。
ZEROtoSUMMIT 京都編:京都の最高峰はどの山?
山頂に落ちた雨粒は、地表をつたって沢から川となり、やがて海にそそがれる。その軌跡を探し出し、海から山頂まで川筋をたどって走る。そんな遊び「ZEROtoSUMMIT」略してゼロサミを、全国四十七都道府県の最高峰でぼくはやっている。
今回はその京都編だ。
京都府の最高峰はあまり知られていないだろう。比叡山だと思っている人が多いが、皆子山(みなごやま:971m)が正解である。
では、皆子山に降り落ちた雨粒は、どの川を流れて海に注がれるのだろうか。これがさらに難解で、入念に地図を読みとかなければならない。それを現地で確認する旅に出た。
大阪湾・旧淀川から淀川へ(1日目)
夜行バスと電車を乗り継いで旧淀川河口の大阪港へ。今回は旧淀川をたどってみよう。海遊館わきのマーメイド像の水面にゼロタッチして走り始めた。
安治川(あじがわ)、土佐堀川、大川と大阪の都心を突っ切り、毛馬閘門(けまこうもん)で淀川本流に合流。大山崎でかろうじて京都に入るまで、ほぼ大阪府内を走る。
ああ桂川、桂川(2日目)
2日目は大山崎駅から再開。淀川はここで木津川、宇治川、桂川の3つの川に分かれる。京都の風土と文化を濃密に体感するためには、桂川をたどり、嵐山から保津峡を抜けたいところ。だが、皆子山に降り落ちた雨は、一滴たりとも桂川には注がれない。
大いに悩んだ。今回だけルールを変えてもよいのでは? いや、ここは原則を堅持しよう。涙をのんで、宇治川に進路をとった。やがて滋賀県に入ると、瀬田川と名を変える。
峡谷をぬけ、唐橋をすぎると、とうとう琵琶湖だ。
琵琶湖を北上(3日目)
3日目、大津港から再開。無風なのが助かる。一昨年に湖東を走ったときは、湖面をすべって吹きつけてくる冷たい北風に終始泣かされた。
湖西は30歳前後のころ車でよく走ったが、ランニングは初めて。琵琶湖を縁どる比叡山、蓬莱山、そして伊吹山の美しい山容が、車窓からのそれよりもはるかに心に沁みてくる。
高島市に入り、琵琶湖と別れていよいよ安曇川(あどがわ)沿いをたどる。
ZEROtoSUMMIT達成(4日目)
皆子山頂上アタックの4日目。今日も快晴、しかも無風。雨雪でも走りきる覚悟だが、やっぱりうれしい。小浜からの鯖街道と交わり、ブーメラン南下。鯖寿司の店が多い。旧朽木村のコンビニで最後の補給。はやめの入山をめざし、黙々と走る。
12時前、大阪港から186㌔でとうとう皆子山がみえた。安曇川とも別れ、足尾谷(あしびだに)に入る。
登山者の絶対数がすくないのか、踏み跡が不明瞭で、道標もほとんどない。地形図とコンパスを凝視しながら沢ぞいを慎重にすすむ。標高650m地点でようやく入洛。宇治川以来122㌔ぶりの京都だ。琵琶湖、大阪湾へとつながる源流の水をすくい、喉を潤す。14時、大阪港から189㌔で京都府最高峰の皆子山登頂。貸し切りの山頂で、雄叫びをあげる。
さぁ下山だ。鞍馬に下りて京都篇のゴールを飾ろう。しかし、ここからが地獄だった。
傷だらけの鞍馬天狗
高度を下げるにつれ、じわじわと焦ってくる。想像できるだろうか、何百本もの杉の大木が山の斜面になぎ倒されている異様な光景を。映画『マトリックス・リローデッド』の絶望的なシーンがなぜか目の前の光景と重なる。壮絶な倒木雪崩の跡。
一昨年の西日本豪雨の影響なのだろうか。「ビバーク」「倒木遭難」…そんな言葉が頭をよぎる。もみくちゃの格闘の末、ボロボロになって鞍馬駅に到着。生還できた、と心から思った。
47都道府県の最高峰のなかで4番目に低い皆子山だが、今まで登ってきた山の中で意外にももっともぼくを苦しめた。何事もやってみなければわからない。それを象徴する回だった。