旅行、お酒、食事、キノコ狩り、カヌーなどが大好きです。オレゴン・マイコロジカル・ソサエティ会員。
神秘が宿る「雲の上のキノコ村」
メキシコの南部、オアハカ州の山奥にあるサン・ホセ・デル・パシフィコ(San Jose del Pacifico)は、人口約500人という小さな集落ですが、「雲の上の村」、「キノコの村」としてメキシコを旅するバックパッカーにはよく知られる土地です。
オアハカの州都、オアハカ・デ・フレイタスからサン・ホセ・デル・パシフィコまでは、バスで約3時間弱。後半の1時間ほどは、海との間に横たわる山をくねくねと登り、頂上付近で降りることになります。
「雲の上の村」と呼ばれるだけあって見晴らしが良く、谷へと吸い込まれていく流れ雲や雲海を見ることもできます。
また、幻覚を引き起こすマジックマッシュルームで知られる「キノコの村」だけあって、街の至る所にキノコモチーフの看板や置物、グラフィティ、お土産などを見かけます。
この村でマジックマッシュルームは、古代から先住民が死者と語る儀式に使われてきた神聖なアイテムだったそうです。そして、もう1つその儀式に参加するためには欠かせないのが、お清めのサウナ「テマスカル(Temazcal)」です。
神聖なるサウナ「テマスカル」とは
「テマスカル」は、メキシコ先住民が主に土を使って作った蒸し風呂で、1、2人用の小さなものから10人以上入れる大きなものまであります。
サン・ホセ・デル・パシフィコにはいくつものテマスカルが散在していますが、私が今回出かけたのは、ナバホ(Navarro)さんが経営する「ロス・クワトロ・エレメントス(Los 4 Elementos)」。ナバホさんは、有名なシャーマンだったおばあさんにテマスカルの流儀を教わったそうです。幹線道路から看板に沿ってキノコの並ぶ階段を降りていくと、彼が出迎えてくれました。
ナバホさんが言うには、この世界は「土・火・水・空気」の4つのエレメントでできています。テマスカルは、土で作られた建物内に火で熱した石を設置し、水をかけることで蒸気で内部を満たすという仕組みで、4つのエレメント全てを使って人々を浄化します。
そして、熱くて薄暗い母親の胎内のようなテマスカルから出てくる時には、心身ともに真っ新な状態へと生まれ変わっているんだそうです。
テマスカルは、太古から祭祀など宗教的な儀式前のお清めに使われてきましたが、現在は、デトックスして心身の調子を整えるためにも使用されています。早速、テマスカルを体験してみます。
内省を促す胎内のような空間
私が案内されたのは、2人まで入れるという三角錐型の小さな建物。水着に着替えて、中腰になって内部に入ります。
中で待っていると、ナバホさんが焚き火で熱した石とバケツに入った薬草水、それから何種類ものハーブの枝を縛ってまとめた道具を運んできました。
テマスカル内部に焼けた石を設置します。これだけでも十分に暖かいのですが、バケツの水に浸したハーブの穂を石に付けることで、大量の蒸気が発生し、蒸し風呂状態になります。
ナバホさんの説明が終わると、入り口が閉じられます。真っ暗な中で独り、黙々と穂を使って蒸気を出す作業をしていきます。水をかければかけるほど、内部は熱くなり、汗がダラダラと吹き出します。
15分ほど経ったところで、ナバホさんが更に追加の焼け石と薬草水、またカップに入った冷たい水を持ってきてくれました。「水は飲んでも、頭から被ってもいいよ」と言うので、両方やってみましたが、冷たい水を被るショックは相当で、目が覚めました。
それから更に10分ほどで、眩しい光に満ちた外に出ます。そして、屋外の冷たいシャワーで汗を流し、バケツに残った薬草水を頭から全身にかけていきます。このハーブが煮出された薬草水も肌にとても良いそうです。それから着替えて終了。リフレッシュ!と言うよりも、一仕事終えたような、気持ちの良い疲労感がありました。
テマスカルには消化器系を整え、血行を良くする効果もあるそうですが、ナバホさんが「あざも消えるよ」と言うので、半信半疑ながら1年ほど前のスキーで爪下血腫(内出血)になって、ずっと紫だった足の親指の見たところ、確かに、あんなにしつこかった血だまりがすっきりとなくなっていました!おそるべしテマスカル効果!
オアハカに行く際には、ぜひテマスカルを体験してみてくださいね。