茶屋名物がうまい!六甲山グルメトレッキングのススメ
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    2020.03.12

    茶屋名物がうまい!六甲山グルメトレッキングのススメ

    私が書きました!
    ライター・カメラマン・編集者
    藤川満
    札幌の情報誌編集長を経て独立。現在は神戸と高知に拠点を設け、アウトドア・旅行・グルメなどをテーマに雑誌、Web等で取材、撮影、編集を行っている。四万十川・仁淀川をはじめとするカヌーキャンプ、六甲山でトレッキング後の茶屋酒などを楽しみとする。河原で適当に調理する手抜きキャンプ飯を得意とするが、なぜか「山メシの達人」としてTV出演もあり。

    独自の「茶屋文化」が残る六甲山ならではの楽しみ方

    日本のレジャー登山発祥の地として知られる六甲山。兵庫県神戸市垂水区から宝塚市まで東西約30kmに連なる山々には、数多くの登山ルートが延び、その道中には古くから人々をもてなす茶屋が存在する。近年では、コンビニの増加や後継者不足による閉店でその数は減ったものの、現在でも少なくとも10軒以上が営業を続けている。これほど茶屋がある山は、六甲山以外にはないとの説もある。

    そんな茶屋のなかには、「食べるために登る」ほど登山客を魅了する「名物料理」が存在する。最近ではトレランでも人気の六甲山だが、たまにはゆっくり茶屋の名物を味わうグルメトレッキングをお薦めしたい。

    孤高の人・加藤文太郎も駆けた高取山にあるビッグ餃子

    月見茶屋の餃子(8個400円)。餃子だけで十分お腹いっぱいになるボリューム。持ち帰りもできる。

    登山家・加藤文太郎の生涯を描いた新田次郎の小説『孤高の人』。主人公の文太郎が日々のトレーニングに通っていたのが六甲山系高取山(標高328m)だ。文太郎も駆けたメインの登山道は、山頂に鎮座する高取神社へと繋がる参道でもある。そのため道中には5軒ほど茶屋が営業している。なかでも山頂に最も近い場所にあるのが、大正12年創業の「月見茶屋」。

    歴史を感じさせすぎる外観で、一見だと入るのにやや勇気がいるが、女将さんが笑顔で出迎えてくれる。

    27年前からこの茶屋を任されているのが川本秋穂、眞智子ご夫妻。かつては毎年加藤文太郎の法事に出席するほど山と文太郎を愛する秋穂さん。現在は主に麓で料理の仕込みを担当し、店頭に立つのは「まっちゃん」こと女将の眞智子さんだ。
    「日本アルプスを初めて短パンで歩いた女性は私!」と語る眞智子さんは元祖山ガール。「今じゃヤマンバよ。ガハハ」とビール片手に豪快に笑う彼女だが、俳句や絵画もたしなむ芸術肌な一面も持ち合わす。

    特製の鉄鍋で餃子を焼き上げる眞智子さん。焼き上がりには15分ほどかかる。

    名物である餃子は、秋穂さんが中華の料理人だった頃の秘伝のレシピで作る。「餃子を包む技術はかなわない」と眞智子さんはもっぱら焼くのを担当する。焼き上がった餃子は、中身のアンが透けてみるほど皮が薄い。それでいて一口では食べきれないほどの大きさだ。

    「熱いから気をつけて」と眞智子さんの忠告に従い、恐る恐る口に運ぶ。柔らかな皮の中には、非常に細かく刻んだキャベツと挽肉のアンがぎっしり。それらが噛むほどに、口の中でほろりとほどけていく。2種類使うというキャベツの甘さと挽肉の旨み、ほのかに広がるコショウの刺激がなんとも美味。そのままでも十分楽しめるが、自家栽培の唐辛子とゴマ油を煮詰めたラー油入りのタレを付ければ、ピリリと味がさらに引き締まる。

    時間が空いたときには、ふらりと近くの茶屋にビールを飲みに行くこともある眞智子さん。そんな眞智子さんと餃子に確実に出会いたいなら、事前に電話連絡を入れておいた方がベターだ。

    月見茶屋

    住所/神戸市長田区高取山町103-8 TEL/078-642-0265
    営業時間/6:00〜11:00(土・日曜・祝日は〜15:00)
    定休日/火曜
    アクセス/地下鉄・山陽板宿駅から11、111系統市営バス「神戸駅」行き、「鷹取団地前」下車。高取神社登拝口から参道を徒歩30分。または地下鉄妙法寺駅から六甲全山縦走路の案内板に従い登山道を40分。

    湯豆腐の概念を覆す具材満載の湯豆腐

    おんたき茶屋の湯豆腐(700円)。主役の豆腐が見えないほど具だくさん。年間を通じて提供し、一人前から注文可能。

    JR新神戸駅から生田川に沿う散策路を歩くことわずか数分。街の喧騒は遠のき、川のせせらぎのみが響く静かな森が広がる。ここが人口150万人を超える神戸市内であることを忘れてしまいそうな豊かな自然だ。街と自然の距離の近さも六甲山の特徴の一つだろう。

    さらに歩いていくと、雌滝、鼓滝、夫婦滝、そして落差43mの雄滝と、次々に美しい滝が姿を見せる。この四つの滝を「布引の滝」と総称し、和歌山・那智滝、栃木・華厳滝と並ぶ、日本三大神滝に数えられる。この雄滝の滝壺を見下ろすように建てられているのが「おんたき茶屋」。こちらも創業は100年を超える老舗で、古くから滝目当ての遊山客をもてなしてきた。

    布引の滝「雄滝」。この日は水量が少なかったものの、日によっては迫力ある姿を見せてくれる。四季折々の変化も美しい。

    現在お店を切り盛りするのが四代目店主の山口公子さん。懐石料理店での調理経験もあり、ひとつひとつ丁寧に仕込んだ料理が手軽に楽しめると評判。なかでも名物として知られるのが湯豆腐。先代から受け継ぐメニューながら、10年ほど前から公子さんがヴァージョンアップを重ねてきたことで、徐々にその存在が知られることになった。

    ぐつぐつと煮える小鍋の蓋を開けると、白菜、ネギ、ちくわなどの具材があふれんばかり。一体主役の豆腐はどこへやら・・・。「お客さんのリクエストに応えていくうちに豆腐以外の具が増えていった」と公子さんも笑う。

    店頭にはテラス席も設けられているおんたき茶屋。毎朝5時くらいから出汁を取る香りが漂う。

    寄せ鍋状態の湯豆腐のスープは、カツオ節などの削り節から丁寧に取った出汁に、きざみアナゴ、鶏肉、豚肉などから出る旨みが加わる。このスープを味わうだけでも足を運ぶ価値がある、とは少々言い過ぎか。ともあれ野菜や肉などたっぷりの具材をこなしつつ、本来の主役である豆腐まで平らげれば、もはや満腹。二人でシェアするのもいいほどのボリュームだ。まだまだいけるという方には、プラス150円でご飯や麺の追加が可能。まさにトレッキング帰りの冷えた体と空腹を満たしてくれる名物だろう。

    おんたき茶屋

    住所/神戸市中央区葦合町布引遊園地45 TEL/078-241-3484
    営業時間/10:00〜17:00(土曜・祝日は9:00〜18:00、日曜は7:00〜19:00) 
    定休日/不定休
    アクセス/JR新神戸駅東側高架下をくぐり、「布引の滝」の案内表示に従い散策道を歩くこと約15分。

    骨までしゃぶり尽くしたいスパイシーな絶品スペアリブ

    再度山荘のスペアリブのランチセット(2000円)。手前のスペアリブは調理前で約200g。サイズによって2個提供される場合もある。奥はスパイシーチキン。予約しておいた方が確実だ。

    山を歩くにはスタミナが必要。そんなパワージャージにもってこいの名物が再度山荘のスペアリブだ。と言いつつも、これを食べれば自然とワインをガブ飲みしてしまい、山登りどころではなくなるのがいつものオチなのであるが・・・。

    再度山荘は、最寄りの地下鉄・県庁前駅から北へ再度谷川に沿って歩くこと約30分。茶屋と言うより、まさに「しゃれた山荘」という雰囲気で佇む。とはいえ店主の福原浩さん曰く「気取らない茶屋ですよ」。名物であるスペアリブはすでに多くのメディアに取り上げられた人気のメニュー。ハイシーズンの週末のランチタイムともなると、備長炭で焼き上げる香ばしい香りが周囲に漂い、店は大いに賑わう。

    4名以上の予約貸し切り制のディナータイムも、パーティ利用などで人気。5500円からのコースで提供され、送迎もしてくれる。

    スペアリブが誕生したのはおよそ半世紀前。当時経営していた福原さんの叔母さんが中華料理からヒントを得た。その料理はタレに漬け込んだ豚の骨付き肉を使った「排肉(ぱいこー)」。叔母さんは醤油や十数種類のスパイスを配合したタレを研究し、オリジナルへと昇華させたのがスペアリブだ。

    スペアリブには主に神戸ポークを使用し、前日から特製タレに漬け込む。約15分の焼き時間の後に提供されるスペアリブは軟らかで、噛むほどにあふれる肉汁とスパイスの調和が実にお見事。「特に骨に沿った部分が一番美味しいですよ」とのアドバイスに従えば、用意されているナイフとフォームなぞ使う必要もない。

    店内の中央に据えられた薪ストーブ(11月〜4月)を使って、自らマシュマロ(2個50円、食事利用の場合2個まで無料)を焼くのも楽しい。

    スペアリブ以外にも同店では、石窯で焼く本格ピザ(1500円〜)も人気だ。それぞれの料理に合うワインも揃い、ペアリングを楽しむこともできる。店内からは四季の移ろいを感じさせる山並みも見渡せ、ワイングラスを片手にちょっと贅沢な時間を過ごしてみてはいかがだろうか。

    再度山荘

    住所/神戸市中央区諏訪山再度谷63 TEL/078-341-2251
    営業時間/12:00〜14:30OS(土、日曜・祝日は11:00〜15:00OS)、夜は予約制 
    定休日/月、火曜※祝日の場合営業
    アクセス/地下鉄県庁前駅から諏訪山公園方面へ。再度谷川に沿って遡ること徒歩30分。車の場合は、再度ドライブウェイのビーナスブリッジ駐車場利用。カーブNo.13から登山道に入り徒歩約10分。

    週替わりで名物料理が登場する新しい茶屋のカタチ

    高座の滝の手前、大谷茶屋の一角で営業する六甲山カフェ。岩肌をくりぬき店舗として利用している。

    最後に紹介するのは、後継者不足で衰退しつつある六甲山の茶屋文化を次世代へ残すべく、新たなスタイルで営業する「六甲山カフェ」だ。同店は「ロックガーデン」と親しまれている六甲山の岩場へのアプローチルートの入口に位置する。

    店舗のすぐ先には高座の滝が流れ落ち、暑い季節でも心地よい涼を感じられる絶好のロケーション。道を挟んで向かいには現在は休業中の大谷茶屋。六甲山カフェは2004年のカフェイベントをきっかけに、様々な変遷を経て、同茶屋のおでん販売を手伝う形で営業を開始した。

    現在店が開くのは土曜、日曜、祝日のみ。5人ほどのスタッフが毎回営業日ごとに入れ替わりで店に立つ。スタッフは中華、和食、燻製料理など、それぞれの得意ジャンルの名物料理でお客をもてなすユニークなスタイルだ。

    かつては弾薬庫だったとの噂もあるカフェスペース。むき出しの岩肌の壁が迫力満点だ。

    取材時に出迎えてくれたのは糸井健太、由紀ご夫婦。六甲山カフェ運営の中心メンバーであり、主に第一土日の店主として燻製料理を提供している。燻製料理は、山好きでお酒好きな夫婦が「お酒に合う料理を」と独学で作り上げた。

    手前から燻製盛り合わせ(500円〜)、牛すじ燻製カレー(700円)。奥の鍋にはみそだれで味わうおでん(120円〜)もある。

    燻製料理はベーコン、オイルサーディン、チーズ、ナッツなど単品(200円〜)でも提供しているが、色々味わいたいなら盛り合わせがお薦め。それぞれ素材本来の味わいに、サクラのチップで香ばしく燻したフレーバーが加わり、ワイン(グラス500円、ボトル2500円〜)にも好相性。ウイスキー、ブランデーなどと合わせるのもいい。

    お酒を楽しんだ後の〆やお腹を満たしたい時には、牛すじ燻製カレーを。ルゥにはウイスキー樽のチップで燻製したカレー粉と独自配合のスパイスをプラス。口に運ぶとタマネギの甘さの後に、スパイシーな刺激とほのかにスモーキーフレーバーが漂う、実に奥が深い味わいだ。

    なお、多くの登山客は、同店からロックガーデン〜六甲山最高点〜有馬温泉へと抜けるコースを取る。そのため下山後こちらの料理で一杯やるには、周到なルート設定が必要。とはいえ難しいことは考えず、あくまで料理と山の話をアテに飲みに行く感覚で足を運んでみてはいかがだろうか。営業日などの最新情報はFBやインスタグラム「六甲山カフェ」でチェックしよう。

    糸井ご夫妻の営業日以外にも、アユの天ぷらや中国茶など、山ではなかなか味わえない一品が登場する六甲山カフェ。歴史ある六甲山の茶屋に新たな風を吹き込む存在として今後も期待が高まる。

    六甲山カフェ

    住所/芦屋市山芦屋町1 TEL090-90966900
    営業時間/土、日曜・祝日の10:0016:00 
    定休日/不定休
    アクセス/阪急芦屋川駅からロックガーデン方面へ。高座川に沿って徒歩30分。

    今回は紹介していないものの、すき焼き、チマキなど、ほかにも名物料理を提供する茶屋が六甲山には存在している。トレッキングの途中にそれらの茶屋を見かけたら、ぜひ足を運んで名物料理を味わい、店主との交流も深めてもらいたい。レジャー登山発祥の山だからこそ、登る以外の楽しみ方も多彩で奥が深い。なによりこれが六甲山の魅力だろう。

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