ネイティブ・アメリカンの「聖地」で、シャーマンは何を祈ったのか?
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    2020.02.19

    ネイティブ・アメリカンの「聖地」で、シャーマンは何を祈ったのか?

    陽が傾くと赤さを増して輝くレッドロックに囲まれたセドナの街。

    世界的な聖地・パワースポット、セドナに住んで23年になる写心 家・NANAさんは、セドナの大自然をガイドしながら、住んでいる人だけが触れられる四季折々のセドナの大自然を写真に収めています。NANAさん の「写心」と、NANAさんがセドナの大自然から学んだネイティブ・センスは、忙しく暮らす日本の人たちに、大切なことを思い出させてくれます。

    キャセドラルロックを東に望む遺跡。朝日と共に彼らは岩山に神を見ていたのだろうか。

    ――セドナが「ネイティブ・アメリカンの聖地」と呼ばれているのは、なぜなんですか?

    NANA 最近はパワースポットブームで、セドナは世界的なパワースポットとして有名になっていますが、実はセドナ周辺にはたくさんの遺跡が在るんです。そしてそれらの遺跡からは戦いの跡が残っていないんですね。それで「ネイティブ・アメリカンの聖地」と言われるのだと想います。

    ――戦いの跡が見つからないというのは、日本の縄文文化のようですね?

    NANA そうですね。でも現在のセドナには、元々住んでいたネイティブの人たちはもういないんです。なぜいなくなってしまったのか、はっきりしたことはわからなくて、「考古学の謎」と言われているんです。ネイティブの人たちには書き言葉がなかったので、文章での記録はないので。1400年代初頭にこの辺りから忽然といなくなってしまった、ということだけしかわかっていません。白人がこの辺りに入って来たのは1500年代初めですから、白人に追われたわけではないんですね。その人たちは、ホピ族やズーニー族と言われる部族に吸収されたと考えられていますが、不思議なのは、何故、あんな乾燥したところへ行ってしまったのかということなんです。

    まるで色が塗られたような地層からペンテッド・デザートと呼ばれる。ホピ族とナバホ族の居留区周辺は、この岩の沙漠が広がっている。

    ――そこは、セドナとは全く違う環境なんですか?

    NANA セドナには川も泉もあって地下水がとても豊富です。だから、皆さんが想像するより緑があるし、地ビールやワイナリーもあるんですね。でも、現在のホピ族の村々は、生きていくのがとても難しいような乾燥地帯にあるんです。ホピというのは「平和の民」という意味で、他の部族との戦いを避けるために、誰も望まないような土地に導かれていったという言い伝えもあります。

    ホピ族の祖先、シナワ族が住んでいた泉。ホピ族の聖地でもあるモンテズマ・ウエル。

    セドナだけでなく、今も原住民が暮らすアリゾナ州全土がネイティブの聖地と言えるかもしれませんが、ホピ族の中には、今でも儀式に使う聖水を、先祖が暮らしていたセドナに汲みに来る人たちもいます。ですから、未だにセドナが彼らにとっての聖地の一つであることは間違いないと想います。

    でも、私は、「聖地」と呼ばれる本当の理由は、実際にその場に立った時にわかると想います。人智を超えた雄大な自然の侵しがたい神聖さ、母なる大地・マザーアースの圧倒的な愛が溢れるところだという実感が、自分の中の「聖地」という感覚とつながるのではないかと。

    グランドキャニオンの雄大な夕暮れ。母なる地球・ガイアの愛が魂の内に広がって行く。

    ――神社や寺院のような、特定の場所ということではないんですね?

    NANA 「聖地」というのは、言ってみれば、あるがままの自分をあるがままの姿で受け入れてもらえる場所で、自分がグレートスピリットと繋がれるような空間ではないかと想います。

    セドナや北アリゾナの雄大な地球そのものを感じる自然を目の当たりにする時、言葉では言い尽くせない感動を覚えます。その時に、「聖地は自分の外側ではなく自分の命の内に在るのだ」ということを想い出させてくれる。――セドナは、そんな場所なのではないかと想います。そして、大自然だけでなく、私が、このあたりに残る遺跡や岩絵に惹かれるのは、人間がマザーアースに絶大な畏怖の念を持って生きていた証しを感じられるからなんです。

    コロラド川が創りあげた奇観・ホースシューベンド。遠くで雷が光り、創造神話を彷彿とさせるような光景。

    ――遺跡や岩絵から感じられるマザーアースへの畏怖の念は、具体的にはどういうことですか?

    NANA 遺跡の多くは崖の上の方にあるんです。部族間の争いがなかったなら、なぜ、そんな場所にわざわざ重い石を運んで住居を造ったのか? 不思議でしょ?でも、こんなところで「暮らす」ことを想像してみてください。陽が落ちて闇に包まれたら、そこは夜行性の肉食動物の支配する世界になる、ってことですよね。それは、一歩、外に出れば、自分も自然の食物連鎖の一部になってしまうということじゃないですか?

    川岸の崖の上の方に造られた住居跡。周辺に45~50部屋あったと推定されている大きな遺跡・モンテズマキャッソル。下からいくつかの梯子がかけられていて出入りしていたらしい。

    ――ちょっと今の私たちには想像できないですね。人間中心の世界ではない、という感覚ですね。

    NANA ですから、昔のネイティブの人たちの日常は、日々、死に直面していた感じでしょうね。それは同時に、自分の、そしてすべての命と直面することでもあったと想います。そう考えると、人間だけじゃなくて、すべての命が母なる地球の子どもであり、「All My Relations」つまり、すべての命は自分と繋がっている、という考えは、彼らの実感だったのではないでしょうか。そんな古の人々にとって、グレートスピリットへの感謝の祈りは、生き残りをかけた必要不可欠なアクションだったのかもしれません。

    ――岩絵は、ネイティブの人たちの感謝の祈りを形にしたもの、だったんですね?

    NANA 文字文化を持たない彼らにとって、岩絵は大切な記録の場だったんだと想うんです。それは彼らの祈りを込めた儀式であったかもしれない。それから、太陽の動きを記したり、時節を知るための記録という意味合いもあったと想われます。

    セドナ周辺には遺跡と共に岩絵もたくさん残っていますが、何故か住居から少し離れたところに描かれています。やはり、シャーマンだけが近づける神聖な場所だったんじゃないかと想います。

    V-V と呼ばれる暦になっている岩絵。二重や三重丸は太陽を表している。春分と秋分の日、上の方にある岩の影がピタッと左の大きな太陽に触れ、右の小さな太陽が影の中に入る。

    セドナの郊外には、有名なV-Vという岩絵が暦にもなっている場所がありますが、考古学者の調査でわかっているのは、岩絵から少し離れたところは踏み固められた跡があるけれど、岩絵のすぐ近くは踏み固められた跡がないそうです。つまり、岩絵から少し離れたところでは、人々が踊ったり、儀式をした可能性があるけれど、岩絵が描かれている岩には、それを描くシャーマンだけが近づけたということを示すのではないかということなんです。 神社の御神体のような感覚でしょうか。

    そして、岩絵のほとんどが、大きな岩の割れ目の側に描かれていて、行き着くのが難しい崖をよじ登っていくような場所に描かれているものもあるんです。

    ここから祈りを火で伝播し、かなり遠くまでリレーで送ったという言い伝えがあるシャーマンケーブ。目の前に広がる景色は雄大で、まさにマザーアースそのものを感じられる。

    ――シャーマンたちは、崖を登ってまで、なぜ、その場所で祈らなければいけなかったんでしょう?

    NANA さあ、どうしてでしょう。文字での記録がないので、岩絵に記されていることも、本当のところ、はっきりしたことは誰にもわからないんですね。現在のネイティブの人たちも、見る人によってまったく解釈が違っています。だから、それは私たちの想像に託されていますが、私は遺された岩絵を目の当たりにする時、古のシャーマンたちの想いに少しだけ触れられるような氣がします

    私が好きな岩絵には、たくさんの鹿が描かれています。よく見ると、その鹿たちはみんな、岩の割れ目から出てきているように一方向を目指すように描かれているんです。まるでそこからみんなで出てきたみたいにね。他のところでも、岩の割れ目の側に描かれていることが多いんです。岩の割れ目はスピリットの世界への出入り口だと考えられていたようで、自分たちに命を与えて魂の世界へ戻って行った鹿たちが、魂の世界から再びこの世界へ出てくるところを描いたのではないか、と想われるんです。

    岩絵に描かれた鹿たちは、スピリットの世界の出入り口とされる岩の割れ目から一斉に出てきたように見える。

    ――ネイティブの人たちにとっては、死と生は同等の重さをもって存在していたんですね?

    NANA 自分たちの命も、自分たちに命をくれる動物たちの存在も常に生と死が目の前にあったでしょうからね。

    岩絵に描かれた鹿たちは「自分たちに命をくれたものたちの魂が、再び肉体を持ってこの世界に現れますように」という感謝と共に、それは「七代先の子どもたちが生きる世界にもその命たちが輪廻転生し、豊さをもたらしてくれますように」という祈りを込めたものだったのではないでしょうか。人間も自然も共に豊かでありますように、と。

    昇ってくる満月をじっと待つ。月の女神が岩山から現れる瞬間、奇跡が起きたような感動に包まれる。

    ――そういう場所は、やはり、雰囲気というか、空気感が違いますか?

    遺跡や岩絵にお連れすると、理由もなく泣き出す人もいるんですよ。理屈じゃないんですよね。私は、「今の自分が感じていることをそのまま受けとってくださいね」と言います。そしてそこで感謝の祈りを捧げさせていただきます。その時、できれば声に出して祈って欲しいんです。涙の理由など言葉にならなくてもいいんです。ただ「ありがとうございます」だけでもいいんです。

    以前、ネイティブの儀式に出た時に、「自分の祈りを声に出して表すことで、その場にいる人と祈りを分かち合い、その祈りがみんなのものとして増幅して、グレート・スピリットの元に届く」そう言われたことが、今でも心に残っています。

    聖地での祈り。時空を超え、祈りは必ずやグレートスピリットの元に届くだろう。

    ――私たち日本人も、かつては自然と共に生きてきたから、岩絵や遺跡に触れると、ネイティブ的な感覚を呼び覚まされのかもしれませんね?

    NANA 私を可愛がってくださった長老は、「祈りはグレートスピリットへの感謝なのだ」とおっしゃっていました。最近の日本の人の祈りは、現世ご利益的なものが多いんじゃないですか?合格祈願とか恋愛成就とか(笑)それはそれでいいと思いますし、別にそれが悪いと言っている訳ではないんですよ。でもね、雄大な自然の中にいると、祈りも自然とマザーアース、母なる大地と繋がって来るんです。

    「お願いごとを考えていたのに、出てきたのは感謝の言葉だけでした」という方も結構、いらっしゃるんですよ。せっかくやって来たパワースポットでのお願いごとなのにね(笑)

    でもそれが、母なる大地・マザーアースとその人の魂が触れた証しなんだと想います。私たちは、グレート・スピリット、マザー・アースに生かしていただいている「命」の存在で、人間は自然なくしては存在しえない。その気づきと感謝こそが、私たちを自分の「内なる聖地」へと導いてくれるのではないでしょうか。

    日没後、東の地平線の上に現れるヴィーナスの帯と地球影と太陽とは反対側から光が放射しているように見える裏後光。私たちは大きな宇宙の営みの中で生かされている。

    ALL MY RELATIONS

    セドナより祈りと感謝を込めて・・・

    ◯ NANA プロフィール 
    東京生まれ。高校卒業後、スウェーデンに渡り、美術学校へ。その後、ストックホルム大学で、スウェーデン語と民族学を学ぶ。帰国後、アメリカ人と結婚し、アメリカ、アリゾナ州セドナに移り住む。セドナの自然を案内しながら、セドナ、そして北アリゾナの自然を撮り続けている。その他、ウエディング写真、ホームページ用写真、記念写真の撮影も行いながら、大自然の美しさを通して、命の尊さを伝えたいと想っている。写心(写真)家・ガイドの他に、誘導瞑想、エネルギーワーク、地元のサイキックなどのセッションの通訳、そして自らもヒューマンデザイン・リーディングというセッションを行う。

    NanaさんのHPは、sedonana.com  インスタグラムは、sedonanaworld

    写真/NANA

    構成/ 尾崎 靖(エディトリアル・ディレクター)

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