グランピングというとどんなイメージをお持ちですか?
「おしゃれキャンプ」や「大人の贅沢キャンプ」などのイメージが先行して、不便を工夫して楽しむキャンパーさんからすると、ラグジュアリーな雰囲気で何となく敬遠してしまうなんて方もいるかもしれません。かくいう私もそんな一人でしたが、今回、sah,を取材し、捉え方が180度変わりました。
手ぶらでアウトドアが楽しめる温泉街の中のグランピング
お邪魔したのは、福島県いわき市に2019年7月にオープンした「sah,いわき/湯本温泉」。
都心から車で2時間半、日本三古泉にも選ばれ1600年以上の歴史を持つ「いわき湯本温泉」の温泉街から車で5分ほどの「美風の宿」の裏山に「sah,」はあります。
駐車場に車を停めて裏山に向かって少し歩くと、目の前に木々に囲まれたグランピングエリアが現われます。
ウッドデッキの上には、大型コットンテントにテーブルと椅子、焚き火台などキャンプに必要なアウトドアアイテムが全て揃い、テントの中には、ふかふかのベッドにこたつ、さらに、エアコンと冷蔵庫が完備。試しにこたつに入ってみると、あまりの居心地の良さに抜け出せなくなりました…。
食事は、受付時にBBQセットを渡してもらえるので、あとは自分で焼くのみ。キャンプ初心者にとって不安な火起こしは不要です。自宅のキッチンと同じように使える大型グリルがあるので、女性だけでも簡単に調理ができちゃいます。
食材にもこだわりが。東京代々木公園にあるイタリアンレストラン「LIFE」の自家製サルシッチャや旬の新鮮野菜などが準備されています。
今なら3月までの冬季限定で「おでん」も味わえます。ストーブの上でコトコト煮たおでんを、はふっと頬張る!想像しただけで幸せです。
お風呂は、「美風の宿」の温泉を無料で利用が可能です。源泉掛け流しの100%天然温泉で、「美人の湯」とも言われる滑らかな感触の泉質。
夜には満点の星空を眺めながら、大切な人たちとの時間をゆったりと過ごせますよ。
人と自然を繋ぐきっかけを作る「sah,」
今回、このグランピング施設「sah,」を手がけた、木村謙悟さん、持木祐一さんにお話を聞くことができました。
―「sah,」を立ち上げたきっかけを教えてください。
(木村):私は東京生まれ、東京育ちなんですけど、都会っ子というよりも山で遊ぶ時間の方が多かったんです。父がアウトドア好きで、土曜日午前中で学校が終わると、必ず伊豆に連れて行かれたり、山に行ったりしていました。
ある時は、自分の部屋で寝たはずなのに、目が覚めると西伊豆の岸壁だったりするんです。あぁ、またこの景色か…と(笑)
少年野球にもサッカーにも入れさせてもらえず、理由は、父の遊びに連れて行けないから。僕は野球がやりたかったんですけど、ダメだと言われて…、友達が羨ましかったですね。
当時は父の趣味に飽き飽きしていたところもあったんですが、今は自分もアウトドアが趣味なので、いい経験をたくさんさせてもらったなと感謝してるんですけどね。
そういった子供時代があり、元々私は商業施設デザインや企画提案の仕事をしていたんですが、いつか自分の好きなアウトドアや趣味を仕事にできたらと思うようになりました。
そして、幅広いクリエイティブ活動を行なっている持木や様々なキャリアを持つ仲間との出会いもあり、思いを実現するために「sah,」を立ち上げました。
ーーところで、「sah,」って何て読むんですか?
(持木):「さぁ!」です。
Let’sのような意味を込めて、「さぁ、始めよう!」の「さぁ!」。
まだまだこれからですが、「さぁ、グランピング!」「さぁ、フィッシング!」のように、「sah,」から様々なアクティビティの入り口になれることを目指しています。
ーー「sah,」のコンセプトを教えてください。
(木村):「sah,」のコンセプトは「遊ぶ、つながる」です。
人と自然を繋ぐための様々なきっかけを提供しながら、遊びから生まれる思いを共有することをテーマとしています。
ーーこれからどんなことを展開しようと考えているのでしょうか。
(木村):日光の中禅寺湖に、宿泊と食事にプラスして、アクティビティもサービスとして提供する面白いホテルを建設中です。
カヌーやマウンテンバイクができたり、トレッキングができたりと、その場所でしか味わえない体験を作り出していきたいと思っています。
いずれは「sah,」を全国に向けて少しずつ展開していきたいと思っていたところに、いわきの裏山を所有するオーナーから「この山を面白いものにできないだろうか」と相談されたんです。それで、街中の裏山遊びという基地感覚のグランピングはどうかと提案しました。
それが今回「sah,」の第一歩となりました。
身近なところにあるアウトドアを感じて楽しんでほしい
ーーキャンプ場ではなく、なぜグランピングを提案したのでしょうか?
(木村):今、アウトドアの形は多様です。キャンプ好きな人がグランピングはやらないということも理解しています。
ですが、あえてここのフィールドをグランピング場にしたのは、お子様がまだ小さかったり、自分はキャンプをやってみたいけど家族は乗り気じゃないとか、車のない大学生とか、アウトドアは敷居が高いと思っている方に向けて、ハードルをなるべく低くして、どんな方にでも気軽に楽しんでもらいたいと思ったからです。
ーーグランピングというと自然豊かな中にあるイメージですが、「街の中」というフィールドに難しさは感じませんか?
(持木):街中でのクランピングだからこそ面白いと思っています。
ここは大自然で見渡す限り絶景というような非現実の中にあるグランピングとは違って、気軽に手ぶらでキャンプの入り口が楽しめる場として活用してほしい。
私たちは、アウトドアの楽しみ方というのは身近なところにあるということを丁寧に表現して、その中でできることをこの場所と向き合って見つけていきたいと思っています。
(木村):前回、初めて自分たちだけでイベントを行ったのですが、フードやドリンクの提供以外に、薪割り体験や里山遊びなどもして、思った以上のお客様にお越しいただいて楽しんでもらいました。
これから地元の人たちとも、もっと繋がって、ここの使い方を僕たち以上に何かイメージできるものがあったらどんどん取り入れていきたいと思っています。
(持木):グランピングでウエディングなんてこともやってみたいですね。
ーーOPENから半年経ちますが、お客さんの反応はいかがですか。
(木村):宿泊したお客様が「ありがとう」とメッセージカードをそっと置いていってくれたり、嬉しい反応もあり、良い思い出を作って過ごしてくれているようなのでホッとしています。
一番印象に残っているのが、高齢のご夫婦のお客様が来てくれたことですね。最初、大丈夫かな?と心配になったんですが、聞けば、「キャンプというものを一度やってみたかったんです」と。「年齢も年齢なので、今さらテントは買えないしと諦めていたけど、初めてキャンプ体験できたことが嬉しかった」とおっしゃってくれて、私たちの方が嬉しかったですね。
自分は元々設計が仕事だったので、お客さんと触れ合う機会がなかったのですが、今は、お客さんの声が届くところまで居させてもらえるので、自分たちの方が勉強させてもらったり、感動させてもらうことが多いです。
ーー今後は、どのようなプランをお考えですか。
関東の方向けに、いわき市の魅力とセットに楽しんでもらえるよう、一日をトータルでプロデュースすることを考えています。
近くには有名な「スパリゾートハワイアンズ」もありますし、魅力的な観光スポットが数多く点在しています。冬場~春にかけては、いちご狩りなんかも楽しんでもらえますね。
それから、木々に囲まれて快適に集中できる環境なので、法人向けに一週間貸切で使ってもらうような、コワーキングやノマドワークのような使い方も面白いなと考えています。もちろんwi-fiも飛んでます!
企画する側も、お客さんでも、みんなでこの場所を楽しんで一緒に何かを作り上げたり、そこからお互い何かを見つけていけるような繋がりが持てたらいいですね。「sah,」を通して届く笑顔を大切にしていきたいです。
のんびりと自然の中に身を任せて楽しもう
目を輝かせながらお話をするお二人がとても印象的でした。
アクティビティの入り口として動き出したばかりの「sah,」、これからどんなワクワクを創造していくのか期待が膨らみますね。
グランピングは贅沢にキャンプを楽しむだけではなく、アウトドアの入り口にあるハードルを下げ、自然に親しむきっかけを作ってくれます。
ファミキャン歴の長い我が家ですが、たまには準備も後片付けの心配もせずに、至れり尽くせりのグランピングでのんびりと過ごしたい!と、取材をしてみて心の奥底にあった本音が…(笑)。
身近で手軽に外遊びが楽しめるグランピングをぜひ体感してみてください。
〈sah,いわき/湯本温泉〉
福島県いわき市常磐下湯長谷町シザ22
自動車:常磐道【いわき湯本IC】から約10分
電車:常磐線【湯本駅】から車で約5分/徒歩で約20分
TEL:0246-38-8551
WEB:sah-play.jp