東京都と山梨県の県境にある丹波山村。絶滅したニホンオオカミがその昔はこのエリアにも生息していたとされます。このオオカミ伝承を広く知ってもらうことで村のPRに繋げたいと手がけたオオカミにちなんだグッズ、オオカミ手ぬぐいやマグカップなどが密かに話題になっています。丹波山村でオオカミ信仰文化を調査している寺崎美紅さんに、お話を聞いてみました。
昔から続く村民とオオカミの関係
「昔から、オオカミは田畑を荒らす猪や鹿を食べるので、農民たちにとっては有難い存在でした。自然の生態系の中において重要なバランサーの役目を果たしていたのです。現代の猟師が担っている部分は、かつてオオカミが担っていたと言えるかもしれません。統率のとれた社会性の高い群れで狩りをするオオカミの姿に、当時の猟師は憧れと畏怖を抱いていたのではないか」そう寺崎さんは話します。
「生きることに必要な水や食料を提供してくれる山は命の聖地であり、それは山の神が支配していると考えられていました。その山神の使いであると信じられていたのがオオカミなのです。猟師は今でも山での安全と豊猟を、日ごろから山神に祈っています」
丹波山村の言い伝え「送りオオカミ」の話
村に伝わる、面白いオオカミの昔話があります。
“丹波山の猟師が夜道、自分の連れ歩く犬の様子がおかしくなったので、怖くて震えながら一度も振り返らずに自分の家へ急いだところ、道祖神の前に来て、その恐ろしい気配が跡形もなく消えたという。猟師はこれを「送りオオカミ」と考え、それからは村では夜道の一人歩きで無事に帰宅できたことを、オオカミが送りとどけてくれたのだと感謝し、オオカミの好物である塩を村外れの道祖神に供えるようになったという”。
また少し前までの村の風習では、夜の塩の貸し借りをすると良くないと言われてきたそうです。塩を欲しさに、オオカミが人を襲うと考えられていたためです。このような言い伝えを考えると、オオカミと丹波山の人々が日常的になんらかの関わりをもっていたのではないかと考えることができます。
オオカミが祀られているという七ツ石神社とは
日本百名山の1つで東京都最高峰である雲取山の懐に、七ツ石山があり、その山頂付近に七ツ石神社がひっそりと佇んでいます。江戸時代中期には存在していたとされるこの神社。そこには猟師たちが崇めたオオカミが狛犬として姿を変えて置かれています。寺崎さんはこの老朽化した神社の再建と狛犬の修復を行うことによって、村に昔根ざしていたオオカミ信仰を今に知ってほしいと考えたのです。
「私は(神社をはじめとする)文化財活用の考え方として、形あるものを通して物語を保存し、いにしえの人々や情景に想いを馳せるための舞台装置だと思っています。信仰という見えない文化を、お社を再建することによって、形として表すことが出来るのではないかと。大事だと思っても、行動しなければ失われてしまう文化がたくさんあるんです」
消えてしまいそうだった丹波山村の文化を救い、次の時代へと継承しなければいけない、という熱い気持ちが伝わってきます。
画家の玉川麻衣さんとの出会い
オオカミ信仰をより多くの人に伝えたいということで、オオカミにちなんだアイテムを作ることを寺崎さんは考えます。
「”オオカミ”でキーワード検索していたら、SNSで玉川さんの描いたオオカミの絵を見つけたんです。その雰囲気に何か他とは違う空気感があると思い、是非この人に絵を頼みたいとすぐご本人に連絡しました。お会いして話してみたら、かつて同じ場所で滝行をしていたことが発覚。玉川さんも普段から山に登られているということで、登山の持ち物として便利な手ぬぐいをオオカミの絵で作るという発案にも意気投合してくれました。“せっかく作るなら自分たちが欲しいものを”という考えから、手ぬぐい企画が始まりました」
オオカミ手ぬぐいのデザインに込められた思い
「玉川さんに山へ登ってもらい、実際の景色を元に描いていただきました。星も雲取山の方角に北斗七星が上ることを確認して、なるべく正しい星座の形になるように配置しました。オオカミの遠吠えのイメージから、月も入れたかったのですが、満月にしてしまうと星が見えないはずなので出来るだけ細い月を描いてもらいました」
寺崎さんはこれまで、このオオカミ手ぬぐいと共に、数々の山の頂きに臨んでいます。山頂では必ずこの手ぬぐいを広げ写真を撮るのだとか。その思いについて聞いてみると、ここにも寺崎さんの、オオカミ手ぬぐいに込められた人々への温かい思いが現れていると感じます。
「手ぬぐいのオオカミは七ツ石山にいる設定なんですが、その分身たちが、各地の山にいる登山者やオオカミ信仰に興味を持った方々などを、丹波山に連れてきてくれたらいいなと。いつか何処かの遠い山で、この手ぬぐいを掲げている人を見つけられたら嬉しいですね」
丹波山村のオオカミがそこここに
村ではその後、手ぬぐい以外のオオカミグッズも展開。オオカミファンの注目を浴びています。道の駅たばやまの売店ではマグカップを販売しています。4月以降は、お猪口やタンブラー、そして玉川さんが描き下ろしたデザインラベルの”じゃがいも焼酎”もお目見えする予定です。ぜひ訪れてみてください。
道の駅 たばやま 農林産物直売所
住所:山梨県北都留郡丹波山村2901
電話:0428-88-7070
商品に関するお問い合わせ
(株)QOL たばやま
住所:山梨県北都留郡丹波山村778番地2
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