チャダルの旅に挑戦する場合、服装は日本国内の冬山登山で着用する程度のもので大丈夫ですが、川の凍結の状況によっては濡れる可能性もあるため、靴下や手袋などを含めて十分な予備を用意しておく必要があります。一度濡れてしまった服は5分もするとカチカチに凍りついてしまい、火にかざすなどしなければなかなか乾かないからです。靴は登山靴よりも、内側に断熱材の入ったラバーブーツの方が、道中によくある氷の上に水がせり上がっている場所でも濡れずに歩くことができます。川の氷が割れてしまうため、アイゼンの類を常時使用するのは危険です。
夜は非常に寒いので、シュラフは厳寒期用のものが必要になります。反面、少人数のグループで旅する場合、地元出身の人々が利用する洞窟で寝泊まりできるので、テントは必須ではなくなります。また、カメラや電子機器のバッテリーは低温のため消耗が激しく、途中で充電ができる場所もほぼ皆無です。服の内ポケットなど体温である程度保温できる場所に、予備のバッテリーを多めに収納しておくといいでしょう。
チャダルの旅について、日本語で読める本を何冊かご紹介します。いずれもほぼ絶版のため、図書館や古書店で見かけたらぜひご覧になってみてください。
『凍れる河』(写真左)
オリヴィエ・フェルミ(著) 檜垣嗣子(訳) 新潮社
ザンスカールの幼い兄妹がチャダルの旅に出る一部始終を、鮮烈な写真の数々とともに紹介している一冊。オリヴィエ・フェルミさんはラダックやザンスカールで先駆的な取材活動をしているフランスの写真家で、この本でワールド・プレス・フォト賞を受賞しました。ちなみに、この本に登場する兄妹のお兄さんの方のモトゥプ君は、すっかり立派な一人前の男性に成長して、僕も彼の友人の一人として仲良くさせていただいています。
『氷の回廊 ヒマラヤの星降る村の物語』(写真中央)
庄司康治(著) 文英堂
長年にわたってザンスカールでの取材を続けてきた写真家、庄司康治さんによる一冊。ザンスカールの山奥の村、リンシェとそこで暮らす人々の様子を温かいまなざしで見つめた日々が綴られています。おそらく日本国内でもっともチャダルを旅した経験が多い人であるはずの庄司さん、その苛酷な旅の様子を追った写真の数々は必見です。この本の取材の途上で撮影されたテレビ番組「NHKスペシャル 氷の回廊」も、放映当時に大きな反響を呼びました。
『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』(写真右)
山本高樹(著) スペースシャワーネットワーク
最後に手前味噌で恐縮ですが、拙著を。ラダックに足かけ約1年半暮らしながら、村で農作業を手伝ったり、ラダックやザンスカールの各地を歩いて旅したりした日々のことを、写真と文章で綴っています。チャダルの旅については、本の後半で多数の写真を交えて詳しく紹介しています。初版はほぼ品切れですが、2016年3月下旬には、写真を大幅に増補して新章を加筆したこの本の新装版が、雷鳥社から刊行される予定です。
次回からは、僕自身がザンスカール人の友人たちとともにチャダルを旅した日々のことを、写真とともにふりかえって紹介していきたいと思います。
【氷の回廊チャダル2】
【氷の回廊チャダル3】
【氷の回廊チャダル4】
山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』の増補新装版を雷鳥社より刊行予定。
http://ymtk.jp/ladakh/