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  • 日本の旅

    2020.06.26

    新しい旅のカタチ「オンライン町歩きツアー」が面白い!

    私が書きました!
    イラストエッセイスト
    松鳥むう
    離島とゲストハウスと滋賀県内の民俗行事をめぐる旅がライフワーク。訪れた日本の島は107島。今までに訪れたゲストハウスは100軒以上。その土地の日常のくらしに、ちょこっとお邪魔させてもらうコトが好き。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅沖縄+離島かいてーばん』『ちょこ旅小笠原&伊豆諸島かいてーばん』(スタンダーズ)、『ちょこ旅瀬戸内』(アスペクト)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)、『島好き最後の聖地 トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)等。最新刊は初監修本『初めてのひとり旅』(エイ出版社)。http://muu-m.com/

    オンライン日常のはじまり

    この数ヶ月で瞬く間に広まったオンラインなんちゃら、リモートなんちゃら……etc.。

    みなさんも、オンライン飲み会デビューをしたと言う人も多いのでは?かく云う、機械音痴な私ですらも、4月頭ぐらいから、オンライン飲み会、リモート芝居、リモート映画等を、ちょこちょこと渡り見歩いている。

    でもやっぱり、オンラインで画面が消えたとたん、なんだか虚しくなる気持ちが拭えないでいた。リアルに勝るモノはない。どうしても、その言葉に着地してしまう。

    そんな時、懇意にしている名古屋は有松にある"ゲストハウスMADO(以下、MADO)"が「オンライン町歩きツアー」なるものを開催すると言う情報がチラリと目に入って来た。旅関係のオンラインはあまり参加していなかったので、試しに参加してみるコトに。正直、新鮮な期待は、あんまりしていなかった(←失礼! )。ただ、知り合いの顔を久々に見れたらいいかなぐらいの気持ちだった。

    ところがだ。私の予想は、良い意味ですっかり外されまくり。3時間ほどのツアーの中で、新しい旅の世界に出会ってしまった。そして、心にひっかかっていたコトがスッと解けた感じがしたのだ。

    東海道有松宿を、オンライン町歩きツアーで散策

    5月中旬の土曜日、午前10時。"ゲストハウスMADO"をチェックアウトするところからはじまる。前日金曜日の夜にMADOに宿泊したという設定だ。その後、MADOのオーナーが動画を使って町案内をする。

    ちなみに、MADOがある名古屋の有松という町は、江戸時代から"有松絞り染め"が有名な東海道の宿場町だ。渋すぎずポップなかわいい柄が多い。現在でも、絞り染めの店がいくつか軒を連ねる。古い家々の街並みも残り、静かで温もりを感じる通りだ。その中の古民家のひとつがMADOである。通り沿いの「窓」の格子から日の光が畳の室内にほろほろと溢れる光景。自分がネコなら、たぶん、1日中そこで日向ぼっこをしているに違いない。宿名の「MADO」は、そんな「窓」から名付けたそうだ。

    MADOのオーナーご夫妻と参加メンバー。zoom画面に集合!

    今回のツアーには、オンライン会議アプリzoomを使う。あらかじめMADOから送られて来たURLを10時にクリックし、全員集まったところで順番に軽い自己紹介を行う。今回の参加者のうち3名は、名古屋のゲストハウスオーナーや関係者の方。それ以外は、三重県の小さな漁村のIターン者の男性、古い街並みが好きな名古屋の大学生女子、そして私の計6名。zoom画面にもほどよくおさまるちょうど良い人数だ。Live canvasという写真共有ソフトを利用して、各自の住む町の写真を見せたりしつつの自己紹介。はじめましてメンバーは、みんなほんのりとした緊張感を漂わせながら。

    その時である。オンラインがリアルを超えるコトなんて、そうそうないという私の固定観念をあっさりと拭ってしまうコトが目の前…基、画面の前に突如やって来た!

    「こんにちはー」。MADO夫妻以外の声が画面奥から聞こえた。すかさずオーナーの一浩さんが説明する。「服部さんと言って、隣の家のおじさんですー(笑)。服部さん、今、お客さんとオンラインでツアーやってるんですよ」。

    姿が見えずとも、おじさんが明らかに「?」という表情をしているのがわかるような間ができる。

    「ほら! こんな感じでー」。一浩さんがゲスト全員の顔が見えるzoom画面をおじさんに見せた。必然と私たちの画面にもおじさんが現る。反射的に手を振る私たち。ちょっと離れた位置から画面を覗き込むおじさん。「へー、こんな世界があるんやなぁ」。素朴なおじさんの感想が耳に入ってきた。その瞬間、"人と出会う旅"が好きな私の旅心が、花のつぼみが開くようにポンッとはじけた!

    「これや、これ! ゲストハウスあるあるや!!」

    地域に根差したゲストハウスの場合、近所のおっちゃんおばちゃんが、ふらっと現れて、他愛もない話をしてふらっと帰って行くという風景はあるあるなのである。そして、それが、リアルだけでなく、今、目の前のオンライン上でも起きているコトに、自分の顔の筋肉がふわぁっと緩み、嬉しい笑いがこみ上げてきた。

    どうしても、予定調和になってしまうことが多いオンラインの世界。そこに、予定外の人がなぜか偶然紛れ込んで来るというリアルの世界と同じコトが起きた。しかも、それを無視せずに、巻き込んで行くMADO夫妻の対応力。さすが地域に根ざしたゲストハウスのオーナーである。

    さて、改めてツアー再スタート。MADOのオーナー夫妻が交互に案内をする形だ。1人がスマホ片手に町へ出て、もう1人は宿でノートパソコンのzoom画面を操作する。東海道そのものの説明はもちろん、町歩きツアーらしく、各お店にもお邪魔する。

    オーナーがスマホの動画で撮影しながら、コメントを挟みながら進んでいく。最初にお邪魔したのは、有松絞り染めの老舗も老舗。慶長13年(1608年)創業の"竹田嘉兵衛商店"。私は有松を3度訪れているが、この店は見るからに高級過ぎて敷居を跨いだコトがない店だ。なんせ、ん百万円(もしくは、それ以上! )の着物が味わい深い古民家に陳列されているのだから。

    店の入口に飾ってある絞り染めのお着物を愛でて終わりかと思いきや、そこは、有松生まれ育ちのMADOオーナーの一浩さん。「ちょっと奥にもお邪魔してみましょうー」と靴を脱いでどんどんと屋敷の奥に進んで行くではないか(もちろん、お店の許可済み)! 町家だけあって、まー、奥が広いこと! そして、どの部屋にも有松の絞り染めの着物やら反物やらがゴロゴロと。全て有松絞りで作られたオードリー・ヘプバーンの肖像画まで飾られている。

    zoom画面から見た竹田嘉兵衛商店と有松絞り染めの着物たち

    「ふだん、こんな奥にまで入れない…ですよ…ね?」と聞く私に「入れないですよー(笑)」と朗らかに答える一浩さん。宿でzoom番をしている女将からは「みなさーん。何か質問したいコトとか、もっと近くで見たい品物とかあったら言ってくださいねー」というフォローも入る。ゲストがただ画面を見てるだけではなく、どんどん参加しやすいような声かけが嬉しくてたまらない。ついつい受け身参加が多くなってしまうオンラインイベント。ゲストがどんどん参加できるコトは旅している実感がわき、うきうきする。物理的には画面越しなのだけれど、グッと気持ちが有松の町に近づいた感じがした。

    次に訪れたのは、皮に絞り染めを施すという珍しいお店"くくる"。ここでも、絞り染めの方法を道具まで持ち出して細やかに説明をしてもらえるという太っ腹さ。以前、この店には入ったコトがある。が、何も買わないのに、絞り染めの方法を質問するなどおこがましいと思って何も聞けず終いで店を後にしている。それが、いつも顔を合わせている有松の商い仲間の一浩さんが店主に聞くことで、あれよあれよと話しが膨らんで行くのだ。また、リアルに数人がゾロゾロと訪れてないのも、お店側からしたら変な緊張をしなくて良いのかもしれない。

    ふだんの旅では経験できないコトや聞けない話が、オンラインツアーでさらりと体験できてしまったコトに、テンションあがりまくりで大感動! なんて、新しい旅の仕方なんだろう! いや、よくよく考えると、けっして真新しいわけではない。アナログの世界しか知らなかった頃から、この形を私たちは見て知っている。それは、TVやラジオの生中継。それになぞらえると、一浩さんがリポーターであり、私たちゲストがスタジオのメンバーだ。既存の形なのに、なぜ、今まで気がつかなかったのか? こういう旅の形をゲストハウスや地域の人が個人でできる時代なのに。私の目から鱗がこぼれおちまくりなのであった。

    誰ひとり取り残さない旅

    zoom画面から見た寿限無茶屋さんの名物「味噌煮込みうどん」

    12時からは、ランチタイム。各自、自分で用意したごはんを画面前で食べる。コロナ自粛応援で地方のパンを通販した人や、近所の農家さんのお野菜をたっぷり使っている人など様々だ。案内係のMADO夫妻は有松の"寿限無茶屋"で、名物の味噌煮込みうどんランチ! 「気づいたら、うどん打って35年なんですよー」と話す寿限無の大将。ついでに味噌煮込みうどんの歴史等も語ってくれる気さくさ。コレも、同じ有松のMADO夫妻が尋ねているからこそだと思う。

    大将はMADO夫妻が持参したノートパソコンのzoom画面を覗き込み、「こんな世界があるんですねー」と、ツアーの冒頭で登場したお隣さんと同じようなコトを呟く。その瞬間、これまた、私の全身に「!! コレだ!」という電気がビリビリと走った!

    オンラインだとか、リモートだとか、日々変化が目まぐるしいコロナ禍の現在。オンラインができる人はどんどんその状態に慣れて、それはそれで良いのだけれど、できない人をほったらかしにしている気がして、どうしても何かひっかかるモノがあった。でも、この有松ツアーでオンラインを使える人が、それらを使えない近所の人たちをどんどん巻き込んで行けば、そんな人たちをも取り残さないのではないだろうか? かつて、TVというものが、世の中に現れた時、TVを持っている数少ない家に近所の人たちがTVを見ようと集まった時のように。

    「ITは、それを使えない人を助けるためにあるのです」このコロナ禍で、ますます注目された台湾のIT大臣・唐鳳(オードリー・タン)氏が、とあるインタビューで語っていた言葉が頭を過ぎる。

    さらに、大学生女子の言葉にも、身体中に電気が走った(私、感電しすぎ……笑)。「学生には金銭的にも、心の面に関しても、リアルに行くより参加しやすくて、オンラインでの旅は若者にはメリットしかないです!」と瞳をキラキラさせて話す。私は、オンラインになると五感から入ってくる相手の情報が少なくて、はじめましての相手だと尚更オンライン上でのやりとりが難しく、逆にハードルが高く感じてしまっていた。でも、彼女にとっては、オンラインの方がハードルが低いと言う。

    そう言えば、私もつい最近、同じ感覚に陥ったコトがある。コロナ自粛で夜間営業ができなかった居酒屋等がランチのテイクアウトをはじめた時のコトだ。今まで気になっていたけど「常連さん以外、入れなさそう」「値段が高そうで入り辛いな」と思っていた店も店頭で対面販売をしてくれるので、スタッフさんの雰囲気がわかり、また、テイクアウトなので値段もお手頃。そして「コロナが落ち着いたら、この店に飲みに来てみよう」と、心のハードルが下がったのだ。

    「オンラインツアーやオンライン宿泊は、今まで取り残していたお客さんに出会える新たなきっかけだと思うんです」と話すのは、愛知県知多半島にある"南知多ゲストハウスほどほど"のオーナー・こっすーさん。今までのリアルな宿では、お金と時間を使って来てくれる人だけを受け入れていた。けれど、本当は行きたいのに、子育て中だったり仕事が忙しくて休めないといった人たちを見過ごしてしまっていたのではないかと。

    "ほどほど"では、今後、リアルな宿泊とオンライン宿泊とを並行して宿運営をしていく予定だと言う。近頃、よく目にするSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)でも言われている「誰ひとり取り残さない社会」ではないけれど、今まで以上に多くの人を繋ぐ場になっていく予感がする。

    ちなみに、今回の"ゲストハウスMADO”主催のオンライン町歩きツアーは、参加費2500円に有松絞り染めの手作り布マスクが付いて来た(郵送で送られて来る)♪ MADO夫妻は、もともと、上海で長年アパレル業界に携わっていたプロである。しっかりとしたプロの縫製であり、ご当地布を使ったマスク。どうせマスクをしなきゃいけないご時世なら、マスクをおしゃれアイテムのひとつにしたい、かつ、ご当地布のマスクとかあったらいいなぁと思っていた私には願ったり叶ったりの代物だった♪

    新しい旅のカタチ

    今回のツアーは名古屋界隈のゲストハウス"kawaDOCK""グローカル名古屋バックパッカーズホステル""ゲストハウスMADO""南知多ゲストハウスほどほど"の4軒が一緒になって取り組んでいる「おうちゲストハウス」という取り組みの一環でもある。

    コロナ感染が広がり、キャンセルが相次ぎ、宿の運営も自粛をはじめた頃、「家にいても、ゲストハウスらしさを感じてもらえるコトが何かできるんじゃないか」との想いからはじまった。各宿、なるべく、リアル宿泊時に行っているコトと近い形のモノをオンライン上でも行うので、それぞれによって形が様々だ。

    ゲストハウス兼シェアハウスの"kawaDOCK"では、zoomを夜から朝までずっとオープンにしたままで出入り自由にして、ゲストハウスの共有スペース風にしてみたり、シェアハウスの住人がライブをしたり、名古屋市内の川をサップでさんぽする様子をライブ中継する。カフェ&バーを併設している"グローカル名古屋バックパッカーズホステル"は、ゲストがバーに来た地元のお客さんたちとカウンターを囲んでお酒等を酌交わす交流の場をオンラインで作る。"ほどほど"は晩ごはんの時間をゲストと合わせて、みんなと会話を楽しみながらのごはん会を開催。

    変わりばんこで各宿が何かしらオンラインイベントを企画していく。各宿のオーナー自身も他の宿のイベントにゲストとして参加もして、もっとこういうコトもオンラインでできるんじゃないか等、皆で考える(MADOは、ゲームのマインクラフトでイベントができないかと試行錯誤もしているらしい)。

    「自分の宿だけでは、もしかしたら頑張れないコトも、数軒が一緒になってやるコトで前向きになれた」「オンラインとオフラインを並行して行っていけば、ゲストハウスは更にパワーアップできると思うんです」メンバーたちの声に未来が見える。

    緊急事態宣言が解除されても、コロナ前のように国内外の人たちが一気にたくさん戻って来るかと言えば、それはちょっと先になるような気もする。また、新型コロナに罹患したら重症化するリスクがある人やそういう方と同居している人たちは、人が集う場所へ出向くコトじたいが恐怖になってしまうかもしれない。

    その中で、ゲストハウスの良さである"偶然の出会い"や"町の良さに触れる""地元の人と触れ合う"等をオンラインの世界でも作っていくコトは、行動制限により辛い想いをする人をひとりでも多く救えるのではないだろうか? はたまた、身心に障がい等があり、屋外へ自由に出かけられない人もオンラインの世界で旅に出るコトができるのではないだろうか?

    世界中の人間を巻き込んでいる今回の新型コロナウィルスは、私たちに新しい旅のカタチという光を見せてくれているのかもしれない。

     データ

    「おうちゲストハウス」メンバー
    ・kawaDOCK
    http://www.sharebaseinc.com/

    ・グローカル名古屋バックパッカーズホステル
    https://www.facebook.com/glocalcafe/

    ・ゲストハウスMADO
    https://www.guesthousemado.com/

    ・南知多ゲストハウスほどほど
    https://hodohodo.jimdofree.com/

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