デザイナーの仕事、デザインの可能性。
一体これは本なのか、ハガキなのか。いや何かのカードなのか。
パッと見はとても薄いのが、表紙には確かに『文鳥文庫』と書かれている。
まぎれもなく、文庫本である。
だがしかし、本というものの定義が“綴じてあるもの”であるならば、
これは小説が書いてある1枚の蛇腹の紙に過ぎない。
それでも文藝というソフトとしては、前者にまったく劣るものではない。
文鳥社から発刊された『文鳥文庫』。
文鳥社は出版社のような名前であるが、デザイン会社だ。
代表の牧野圭太さんは、もともと大手広告代理店でコピーライターをしていた。
「最初からコピーライターを目指していたわけではありませんでした。
広告代理店でも、制作局に行くつもりはなく。そもそも大学は早稲田大学理工学部。
その後、東京大学大学院にすすみ、コンピュータプログラミングを学びました。
当時、色々なビジネスを学びたいと思い、広告業界ならたくさんのビジネスに携われるし、
企画を考えたりできそうだなと思ったんです」と、
バリバリの理系出身でありながら
広告業界のクリエイティブに携わるという珍しいパターンの牧野さん。
その広告代理店に6年間務めた。そのなかで一番面白かったのは、
デザイナーと仕事をしたことだったという。
「コピーライターはデザイナーとタッグを組んで仕事をすることが多く、
彼らと接していくなかで、
デザイナーという職種、デザインという仕事に対してすごく価値を感じたんです。
“ありのまま世の中を捉えて、目的に対してより正しい形を探すこと”が
デザイナーの仕事だと思っています。
でもそうした概念が世の中に広がっていませんよね」
そこで、デザインの本質的な概念を世に広めるため、
みずからデザインカンパニー=文鳥社を立ち上げた。
「世の中ほとんど、何かしらのものづくりが関わっています。
でも、デザインに興味を持っている人があまりにも少ない。
僕はすべての会社にデザイナーがいるべきだと思っています。
そもそも高校などで、文系・理系に分かれるときに、
文系・理系・デザイン系の3本柱でもいいと思っているくらいです。
日本の生産性が低いのは、そこが原因ではないかと思っています」
日本にデザインを広げるための活動。それをデザイナーではない人がやっているのがおもしろい。
第3者視点を持つことに意味がある。
「僕は“理系”出身だけど、“文系”的なコピーライターになって、
“デザイナー”と仕事をするようになった。
理系、文系、デザイン系を渡り歩いてきたからこそ、
その可能性をすごく親身に感じているし、冷静にもみられる立場だと思っています。
だから勝手に使命感みたいなものを感じていますね」
»後編「イノベーションはありふれた日常からでも起こせる」に続く。
文=大草朋宏