パピエラボがプロデュースするオリジナルのプロダクトは、
江藤公昭さんが、作家と職人の間に入って、
ディレクターのような立ち位置になることもある。
「作家さんにはあまりディレクションはしすぎず、基本的にはお任せします。
ある程度のイメージや、場合によっては簡単なラフを送ることもありますが、
あまりそのまま返してくれる人は少ないですね。
でもそのほうがおもしろい。
お互いのアイデアがバシバシぶつかっていくのが楽しいです」
そういう意味で、かなり作家性の強い商品が並ぶ。
しかし個性が強すぎて使いにくいということはなく、
こだわりがギュッと凝縮されているようだ。
そのあたりが、実は江藤さんのディレクションスキルなのかもしれない。
こうしてできたデザインを、次に印刷に回す。
一転して職人の世界だ。
「ちゃんと会って説明するようにしています。
技術は申し分ないし、僕たちの仕事をやり慣れているかもしれないけど、
その仕事におけるコミュニケーションが取れているかいないかで、
仕上がりが変わってきます。
実際に印刷所に行ったら、“もうちょっと、もうちょっと”って
お願いすることになって、メンドクサがられるんですけど(笑)」
職人特有の“粗い言い回し”で作業は進むが、
江藤さんもここぞというポイントは曲げない。
物腰のやわらかい江藤さんだが、その言葉には意志があって強い。
「 “使い勝手がいい”というキャッチコピーには、あまり興味はないですね。
ちょっとくらい使いづらかったとしても、
これは持っておきたいと思ってくれればいいんじゃないかと。
自分で自信を持って説明できる商品で、
真剣に正しくつくっているものが好きです。
これを置いておけば売れるだろうという考え方で、
ものを仕入れたことはありません」
紙で養われる「感じる力」
紙ものは、どんどんデジタルに置き換わっている。
それは時代の流れであり、しょうがないこと。便利であることには間違いない。
その反動として、活版印刷が注目されたりする側面があることも事実。
では、紙の良さはどこにあるのだろうか。
たとえば婚姻届や契約書など、
重要なものは今でも紙を媒体としてやりとりされる。
正式なものは、書くという行為が重要になってくる。
紙自体ではなく、書くという行為で気持ちを乗せること。
「紙には、行為だったり思考だったり、
物質そのもの以上に強さがあるんでしょうね。
そんなときに、その紙がいいという判断を自分でできるかどうか。
これからは、ものを見る目や感じる力がより大切になってくると思います。
感覚的なことにもっと敏感になれば、紙も残っていくでしょう。
デジタル化がかなり進んで、
質量みたいなものを感じなくなってきていますよね。
たとえば黒の濃度の違いを見て、そこに美しさを感じられるか」
感じる力は、紙で養われるかもしれない。
数値で言えば、黒=K100%は、いつも同じ黒。
でもやはり、黒は1色ではない。矛盾しているようだが、それは感覚や質量。
同じ人が見ても、時間や場所が変われば、同じ黒が変わる。
そうした機微を感じられるかどうか。
自分の目で見て、さわって、感じることが大切な世の中になってきている。
だからというわけでもないが、
江藤さんは、自分の感覚で好きなものをお店に置く。
それをもう9年も続けている。
【キャンプのおこぼれ話】
江藤さんが「唯一の趣味かもしれない」というのがキャンプ。
春夏の期間に4〜5回行くという。そのスタイルがおもしろい。
「おいしいごはんと、おいしいお酒を楽しむのがメインです。
ちょっと外食に行くくらいの感覚で、それがアウトドアってくらい。
ギアはすごく好きですが、いわゆるキャンプ道具というよりは、
家の道具をそのまま引っ越しみたいな感じで持っていきます。
普段、家で使っているイームズのテーブルは折りたたみできて、
ホントはキャンプ用につくったのではないかと思うくらい。
調理器具も家で使っているのをそのまま。
“アルミで軽い”みたいなのはあまり持っていないんですよね。
生地もナイロンよりもコットン。
軽いというのは一時的なことかなと。
機能的過ぎないものが好きです。
本は持っていくんですけど、結局読まない。
音楽も昔はかけていましたが、要らないという結論に至りました。
下手したら、話もしないでみんなボーッとしているだけ。
それもそれで心地いいものです」
【パピエラボ】
住所:東京都渋谷区千駄ケ谷3-52-5 原宿ニュースカイハイツアネックス104
TEL:03-5411-1696
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◎文=大草朋宏
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