»後編「音楽業界に一石を投じるカセットテープショップというカタチ。」はこちら。
中目黒の駅からブラブラ歩くこと10分程度。
裏通りのちょっと開けた三差路に「waltz」がある。
大きなガラスの扉が4枚あって、明るい店内。
より広さを感じられて心地良さそうだ。
といっても、ここはカフェではない。
店内に入ると最初に目に飛び込んでくるのは、
正面に陳列されている古めかしい、いわゆるラジカセ。
手前には、そのデッキにおさまるべきカセットテープたち。
ここはカセットテープ店なのだ。
音楽好きの間では、ここ最近、カセットテープが再評価されている。
カセットテープでリリースするアーティストが登場したり、
さらにはカセットテープリリース専門のレーベルが設立されたり。
確かにマーケット的には過去のものではあるのだが、
ある場所では脈々と受け継がれていて、それが表面化してきているのだろう。
waltzは昨年8月にオープン。
カセットテープとレコード、そして雑誌などの古書を販売している。
ネット通販もしていない、ある意味で“純アナログ”な店。
どんなこだわりのガンコオヤジが登場するのかと思いきや、
予想にはまったく反する、カルチャーを愛するさっぱりした店主だった。
店主の角田太郎さんは、地元・中目黒出身。
もちろん多感な時期をナカメで過ごした。
「小・中学生のころは、貸しレコード屋さんの走りみたいなお店が
2店もあったんですよ。そのころから音楽が大好きで、自転車で通っていましたね。
音楽的なバックボーンはそこに育てられたといってもいい。
あと情報源はラジオでした。番組を録音したテープが数百本はありましたね」
40代以上の人ならば、「テープに録音する」という作業を一度は経験しているだろう。
角田さんのテープには、多くのジャンルが録られることになった。
「小学生のときは、ビルボードなどのヒットチャートを一生懸命聴いていました。
チャートを聴いていると、ロックも、ブラックミュージックも入ってきて、
いろいろな音楽に接するきっかけになりました」
そのなかで角田“少年”が一番ハマったのは、ニューウェーブ。
現在の40代中盤から後半の人は、本当にニューウェーブの影響を受けた人が多い。
それだけ魅力的なカルチャーだった。
「80年代初期のインディレーベルから派生したようなカルチャーで、
ラフトレード、4AD、ファクトリーなど、個性的なレーベルがたくさんありました」
こうした早熟な音楽遍歴を経て、どっぷりと音の世界に浸っていた角田さんが、
レコードショップを展開する「WAVE」に就職したのはある意味、必然。
自身も客として、六本木WAVEや渋谷WAVEに足繁く通っていたという。
80年代後半から90年代にかけてのWAVEは、
“WAVE以降”しか知らない者にとっては、伝説的だ。
現在、ミュージシャンだったりDJだったり、
音楽カルチャーのなかで個性的な活動をしている人たちの多くが、
「WAVE出身者」であったりするのも、それを象徴している。
4年後、WAVEを退社し、明響社に入社。CD販売などの業務に携わった。
「そこに入ったのはすごく大きくて、
はじめてちゃんとしたビジネスマンになれたというか。
当時パソコンが1人1台与えられたり、いろいろと勉強することができました」
その後、海を越えてやってきた黒船=アマゾンに立ち上げから乗船。
しかし、黒船認定されるのはまだ先の話である。
当時は、仲間に転職の話をしても「やめたほうがいい」といわれるくらい、
日本でのビジネスが成功するか眉唾ものだった。
「2000年代前半から、音楽を売るということに関して、
日本では難しい状況になっていました。
当時の自分の仕事も効率が悪く、
マイナスなものばかり生産しているようで面白くなかったんです。
潮目が変わるきっかけがあるとしたら、インターネット関連しかないだろうと。
会社の将来性などは、大して考えていませんでした」
しかしアマゾンはご存知の通り、大きく成長した。
そのアマゾンに勤めて14年後。
大手を辞め、個人でお店を立ち上げることにした。
「Eコマースの巨人から、大好きなアナログの世界へ」。
こんなキャッチフレーズが角田さんにはつきまとうだろう。
間違いではないが、“ITに疲れた世捨て人”的な単純な話ではなかった。
【waltz】
住所:東京都目黒区中目黒4-15-5
TEL:03-5734-1017
営業時間:13:00〜20:00 月曜定休
http://waltz-store.co.jp/
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文=大草朋宏