アマゾンを辞めて、正反対ともいえる
カセットテープのショップをオープンした角田さん。
ただITバブルに疲れたというわけではない。その理由から聞いた。
「原点回帰というのはあります。
数字にも厳しい外資の企業でしたので、14年勤めたのは長い方です。
立ち上げからいましたし、徐々にその環境から得られる学びが少なくなっていました。
もちろん給料も悪くないし、アマゾンにいれば安泰だったかもしれませんが、
典型的なマネージメントの仕事になっている自分に気がついて、
“本当に自分が目指していたのはココだったのだろうか?”と
自問自答するようになっていました」
「会社を辞めてカセットテープ屋をやる」ということは、
あまり周囲に相談はしなかったという。言っても理解されないだろうから。
それはそうだろう。辞める会社はアマゾンだ。
ヘッドハンティングならまだしも、「いまカセットテープ?」という話である。
でも、いまこそ、明確に、カセットテープであったのだ。
「カセットテープ屋なんて、他にないんですよ。
一部の音楽好きにはカセットテープがどんどんアツくなっているということは
わかりますが、そうでない人にとっては、すでに終わったカルチャー。
インターネットの世界でノウハウを築いてきた僕が、
実店舗をやるということを含めて、理解を超えちゃっていたんだと思います。
その説明にむなしい労力を割きたくなかったので、
形にして見せたほうが早いかなと。人生は時間無制限ではありません。
今やるのと、5年後にやるのでは全然違うと思います。
特に入り口をカセットテープにするということはタイミングもすごく重要で、
その話題性も含めていまできること/動けることというのがあると思います」
昨年の3月に前職を退職。
3月の後半には物件を決め、5月には会社をつくり8月にオープンした。
場所は馴染みのあった中目黒の住宅地。
フラッと行く場所ではなく、わざわざ目的地設定して行く立地だ。
「レコードとか古本屋って男っぽいイメージが強いじゃないですか。
もちろん僕もそういうお店も好きだし、よく行きますけど、
自分がやるのならばもうすこし違うスタイルにしたかった。
すごくベタに言うと、女性がひとりで入りやすいお店です。
WAVEには4年しかいなかったので、やり残した感がすごく強いんです。
自分だったらこうする、というのがいくつもあってそれを実践してみたかった。
今はまだ9ヶ月程度なので、
このビジネスが成功かどうかという判断はできませんけど、調子はいいです」
現状で、カセットテープは数千本売れているという。
初期在庫がほとんど角田さんの個人的コレクションであったということ。
そしてなにより、そんなにカセットテープに需要があったとは!
一部の好事家のものと思っていたので、驚くばかり。
「アマゾンで働いたお金を、ほとんどこういったものに使っていましたね。
旅で買っていたら荷物が多くなるので、いつのころからか、
カセットテープと7インチレコードばかり買うようになりました。
カセットテープは、おそらく1万本くらいは持っていたと思います。
世界中のコレクターともつながっているので、
現在の仕入れも、個人的なつながりが強いです。あるところにはあるんですよ。
CDやレコードを持っているけど、
好きな音源をカセットテープでも聴いてみたいという、
音楽の探求心が高いお客様が多いですね」
こうしてwaltzはカセットテープを中心にしたショップとして、話題になった。
レコード会社からも視察が来たり、何かをしそうな期待感を持たれている。
しかし角田さんは、その先を見つめている。
ずっと音楽業界で働き、凋落する姿を見てしまった。
その前の良き時代も知っている。だからこそ、思いは強い。
「僕がやりたいことは、カセットテープを売りたいのではなく、音楽業界の再生です。
2000年以降、配信やデジタルミュージックが主流になってきてから、
アーティストも、メーカーも儲からない構造になってしまいました。
その結果、ユーザーがみんな音楽を聴くようになったのであればいいですが、
まったく逆で、音楽離れが進んでいます。
誰も得していないこの状況を、みんなが危惧しています」
waltzはファーストステップなのだ。
「僕はそこに一石を投じたいと思っています。
遠回りかもしれないけど、こういう表現になりました。
これは第一歩に過ぎません。
お店以外にも、まだほかにも動こうと思っています。
自分がリスクを背負って、音楽業界に挑戦していきたいと思います」
【waltz】
住所:東京都目黒区中目黒4-15-5
TEL:03-5734-1017
営業時間:13:00〜20:00 月曜定休
http://waltz-store.co.jp/
文=大草朋宏
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