みなさん、『b*p』 vol.10、いかがでしたか?
夏休みスイカ丸かじり号 (勝手に命名) ということで、
特集はb*pの原点に立ち返り、旅!
「今しかできない旅」
これって、われわれb*p的人間にとって、
つかんでも、つかんでも次々と沸いてくる
ジンセイのゾンビ的永久目標であります。
わたくしモリヤーマン(森山伸也)は、
これまで夏はひたすら海外の山をめざしてきました。
旅の舞台はおもに北欧の北極圏。
衣食住を背負って何百キロと歩くバックパッキング旅です。
まさに「今しかできないぞ」という強い気持ちが、
海の向こうの荒野へ背中を押していったのだと思います。
ところが、ここ2年くらい、国内の海や川、
山で遊ぶことが多くなりました。
手つかずの源流部でイワナ釣り、
SUPでぐるっと離島一周、
北海道の大河を犬と下る
(絶賛発売中の『BE-PAL』9月号をチェック!)、
などなど海外へいく時間がないほど
日本の夏にどっぷりハマちゃってます。
なんでいまさら国内?
いやいや、若い頃は気づかなかった歳を重ねたからこそわかる
『ハハなる豊穣の自然回帰』という
キヅキがそこにはあるような気がします。
そして、この国内アウトドア旅もまた
「今しかできない旅」なのです。
バラマキ公共事業によって、いまだに日本の自然は
どんどん破壊され続けています。
ダム建設の愚行に気づいたアメリカは
ダムを壊しはじめたというのに、
日本は半世紀以上も前に計画されたダム建設を、
膨大な予算をかけて、いまだに行なっています。
沢に登れば、土砂が埋まり用をなさない堰だらけ、
海にでかければ、白浜に横たわるテトラポット、
山に入れば、どこまでも続く林道。
これらの行き過ぎた公共事業による自然破壊が
なければ文句なしで、日本は世界一の
野遊び大国であります。
『b*p』vol.10の巻末で作家の野田知佑さんも
言っているではありませんか。
「日本の海がいちばんだ」と。
美しい自然が残っているうちに遊ばねば!
アウトドアの視点から日本の国土をみると、
そんな哀しい「今しかできない旅」が
あふれているのです。
そんなわけで(どんなわけだ!?)、
記念すべき『b*p』vol.10は、
日本のルーツを巡る旅特集になっております。
ぼくは山形県の肘折(ひじおり)温泉に行ってきました。
いやー、よかった!
日本のあらゆる温泉街は、
大手旅行代理店のツアーや
ネット宿泊予約サービスに寄りかかりながら、
景観も建物も似たり寄ったりで特色のない
金儲け観光路線に突き進んでいるような気がします。
地方都市に見られる
車社会が生んだショッピングモールのように。
ところが、ここ肘折温泉は
「肩肘張らず、だれでも気軽に寄ってけや」
というオープンな感じで、
謙虚でガマン強い東北人によって営まれる
親しみ深い昔ながらの湯治場でした。
繁忙期を終えたお百姓さんや
体を病めた患者さんたちをずっと受け入れてきた
「湯治場」(とうじば)としての包容力が
いたるところに感じられるのであります。
ほとんどの宿が湯治プラン、自炊プランを用意し、
誰もが長期間滞在できる日本的ホスピタリティーを
持ち続ける温泉街です。
なかにはお金をかけた鉄筋ピカピカホテルもありますが、
明治時代に建てられたすきま風びゅーびゅーの木造旅館が、
まだまだ元気に温泉街の中心に堂々と鎮座しておりました。
その宿の畳にゴロンとなれば、
なんだか田舎のおばあちゃんちに帰ってきたような
懐かしさに包まれます。
素泊まりなら1泊3,500円ほど。
基本のおかず2〜3品の2食付きで、
自炊で追加のおかずを作ることもできる湯治プランなら
1泊5,500円くらい。
でもって、源泉掛け流し風呂24時間入り放題。
さらに、部屋は襖で仕切られただけのオープンエアー。
隣客がいたら物音が少々気になりますが、
滞在した3日間の湯治客はぼくらだけ。
5人で4部屋を贅沢に使わせてもらいました。
素晴らしすぎる。
いやいや、お金が惜しいわけじゃないんです。
お金を払えばほぼほぼ願いが叶うこの時代に
アンチテーゼ投げかける、
いやそもそも同じ時代ではなく、タイムスリップしたような
「旅人のことを想う」湯治システムが心地良いのであります。
お金をかけなくたって、
ネットでセコセコ情報を集めなくたって、
ただただ1200年続く湯治場に
仲間とともに身を委ねる。
それだけですべてが満たされました。
僕らが宿泊した「三浦屋旅館」の女将さんいわく、
もう自炊するお客さんはほとんどいないとのこと。
もう5年もすれば、各旅館から
自炊場が消えてしまうかもしれません。
となると、1200年続いてきた湯治場の
雰囲気を感じられるのは、今しかない。
肘折温泉で、今しかできない自炊泊!
料理好きの人でなければ、
きっと「メシ作るのめんどくせー」ってなるでしょう。
だけどね、朝市で買い出ししたり、
女将さんに山菜の処理方法を教えてもらったり、
旅するように生活した思い出は、
1200年のあいだずっと湧き出る温泉のごとく
体の奥へすーっと染み込んでいくのであります。
次回は、僕らが泊まった
“ほんとは誰にも教えたくない宿”「三浦屋旅館」
についてレポートします!
◎文=森山伸也 写真=矢島慎一 (肘折温泉)