テニスに興味がない人でも、「グランドスラム」という言葉くらいは耳にしたことがあるはず。いわゆる四大大会(あるいはその四大大会を制覇することをいう)で、全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン選手権、全米オープンのこと。現在、それらの大会においてシングルスで優勝すると約2から4億円という賞金を手にする。なかでもいちばん賞金が高額なのは全米オープンだという。
いまでこそ、四大大会の賞金は男女同額(ツアー大会では差がある)だが、かつて男女の賞金額には差があり2000年代以降、各大会ごと徐々に見直されていったそう。なかでも先陣を切ったのは全米オープンで、1973年から男女同額になっている。同額になった、というより女性が同額を勝ち取った、と言った方が正しいだろう。そのストーリーをこの「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」では描いている。
1970年代当時、女子の優勝賞金はなんと男子の1/8!だった。興行としての観客の入り状況や試合のセット数(女子のほうが少ない)などがその理由として挙げられるのだが、う~ん、現代でもちょっと納得がいかない・・・・・・。女子テニス世界チャンピオンだったビリー・ジーン・キングが抗議の声を上げる。独自にスポンサーを探すなど、女子テニスの地位向上に奔走していくなかで、前代未聞の<男女対決マッチ>が行われることになる。
男女が同じ土俵で対決するなんて!それだけでも驚きだが、これは本当に行われた試合。性別を超えた戦い、「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」が全米、いや全世界の注目を集めた。世紀のマッチを発案し、コートに立ったのは、元男子チャンピオンボビー・リッグス。
実際のボビーはどんな人物か分からないが、かなりの男性至上主義。すでに55歳で一線を退き強そうには見えないが、やはりそこは元チャンピオンで簡単には勝てない・・・・・・。
ほんとうに行われた世紀のマッチ。だが、女性が権利を見事に勝ち取ったぜ!という単純なものではない。男と女、女と女、男と男、さまざまな視点から性が描かれている。夫を持ちながらも女性に目覚めていくビリー、妻から離婚を切り出されるが別れたくないボビー、スポーツ選手である妻に献身的なビリーの夫ラリー。登場人物が個々に抱えるストーリーがさらに彩りを添える。
ビリーを演じるのは『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーン。これがエマ・ストーンだと言われなければ分からないほど質素な出で立ちで、テニスひと筋のスポーツウーマンに仕上がり、実在のビリーにも似ている。ビリーの対戦相手となるボビー・リッグスに扮するのはスティーヴ・カレル。男性至上主義的発言をなんども繰り返すのだが、どこか憎めないキャラクターで、こちらは本家ボビーに激似!
さらに、70年代当時のテニスファッションにも注目したい。性は、なかなかに重みのあるテーマではあるものの、やはりテニスというスポーツが主軸にあるからか、不思議と清々しく見終わった後にも清涼感がある。
先日あるインターネット調査会社が、男女平等について意識調査していた。「平等と感じる」と回答した女性は11%に留まっている。ほんとうの意味での性の平等とはなにか。あらためて考えるいい機会かもしれない。
バトル・オブ・ザ・セクシーズ BATTLE OF THE SEXES
監督:ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス『リトル・ミス・サンシャイン』
製作:ダニー・ボイル、クリスチャン・コルソン『スラムドッグ$ミリオネア』
脚本:サイモン・ボーフォイ『スラムドッグ$ミリオネア』
出演:エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』アカデミー賞R 受賞、スティーブ・カレル『フォックスキャッチャー』アカデミー賞R ノミネート、アンドレア・ライズブロー『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、ビル・プルマン『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』、アラン・カミング『チョコレートドーナツ』
2017年/アメリカ映画
配給:20世紀フォックス映画 (C)2018 Twentieth Century Fox 上映時間:122分
7月6日(金)から、TOHOシネマズシャンテほか、全国順次ロードショー。
文=須藤ナオミ