ナイフの用途は食材を切るためだけに非ず。ブッシュクラフトにおいては、ときに木をうがち、ときに薪を割り、ときに着火の重要なツールとなる。達人のテクに倣ってナイフの使い方を極めよう。
荒井裕介さんがブッシュクラフトと出会ったのは、アメリカ留学中のこと。
「ブッシュクラフトは、もともと北欧の農耕民族が使っていた生活技術のこと。自然のなかにあるものを利用し、ナイフ、ロープ、火の技術を駆使して、自然との共存を楽しむための技術なんです」
そんな暮らしに魅せられ、自らも自立&自力登山を実践中。そこに欠かせないのがナイフだ。
「ナイフは“必須”。道具ではなくて装備です。道具は作り出せるけど、装備は失ってはいけないもの。斧は石でなんとか代用できるけど、ナイフに代わるものはないんです!」
荒井家では、ナイフは暮らしの中で常に身近なモノなので、危ないものと遠ざけるのではなく、娘が2歳のころから、慣れさせてきたと話す。
「最初は刃の丸いボーンナイフを使って料理することから教え、慣れてきたら、オピネルの刃の先端が丸い子供用ナイフ、そして6歳になったときに、モーラナイフの小型のエルドリスをプレゼントしました」
今回はそんな荒井さんのもとに、ナイフ初心者、アウトドア女子ヒミカさんが弟子入り!
Step1 ナイフの種類を知ろう
洋式ナイフは主に3種
ヒミカさん「焚き火が好きなので、最終目標はナイフで火がおこせるようになることです!」
荒井さん「ほほぉ、ではまずは、ナイフの種類から教えましょう」
ヒミカさん「ナイフに種類が⁉︎」
荒井さん「ナイフには大きく分けてシースナイフ、フォールディングナイフ、ツールナイフがあるんです。各部の名称も覚えておくと便利ですよ」
ヒミカさん「なるほど〜。それぞれが持つ役割を知っておくと、効率的に使えるということですね」
荒井さん「まずはナイフを何に使いたいのか、自分の用途をハッキリさせて、ナイフの種類を選ぶことからはじめましょう」
鞘に収めるシースナイフ
ブレードとハンドルが一体構造で、シース(鞘)が必要なタイプ。可動部がなく頑丈なため、衝撃に強く、藪こぎしたり、かたい食材の調理にも重宝。長く使い続けられる。
ホローグラインド:刃を凸状に削った構造。多くがこの形状。
ヒルト:指をガードするための出っ張り部分。
ファスニングボルト:グリップ材を固定するためのボルトやナット。
ソングホール:携行するための紐を通すための穴。
カーブエッジ:物を切るための鋭利な部分で曲がった箇所。
ストレートエッジ:カーブに対して真っすぐな箇所がストレート。
リカッソ:刃の付け根にある平たい部分でエッジはない。
スカンジグラインド:刃先部分が平らで、ブッシュクラフト用に多い。
ハンドルグリップ:ナイフの握りの部分。樹脂製や木製が主流。
折りたためるフォールディングナイフ
ブレードをハンドル部に収納可能。強度的にはシースナイフに劣るものの、安全に携行できる利便性と、ロック機構の向上で、より使いやすくなっている。芸術性の高いモノも多い。
多機能型ツールナイフ
用途に応じて使い分けられる多数の種類の刃(ナイフやノコギリ)のほか、ドライバーや缶切り、プライヤーなども装備。アウトドアはもちろん、サバイバルな状況でも活躍する。
Step2 ナイフを使いこなせ!基本編
自分に合うナイフを選ぼう
荒井さん「次に、実際ナイフを選んでみましょう」
ヒミカさん「持ち歩くのに便利な折りたたみ式がいいなぁ」
荒井さん「ブブー。焚き火が目的なら、まずは頑丈なシースナイフを選ぶこと。焚き付け作りや調理などの細かい作業もできるし、必要なら鉈のようにも使える。フォールディングナイフは、袋を開けたり、細い紐を切ったりするためのサブナイフと考えるといいですよ」
同じシースナイフでも刃の厚みが異なり、厚みによって用途も変わってくる。迷ったときは厚みを比べ、何に使いたいかで選ぶ。薪などを割るなら、頑丈な厚めのものを選ぶ。
ナイフの刃の長さが手のひらの大きさと同じものを選ぶとしっかり握れる。力を入れる作業をしたいなら、やたらに大きなものを選ぶより、手のひらサイズがおすすめだ。
基本の握り方
指の股で挟む
柄の部分を指の股でしっかり挟む。手を伸ばしたとき、刃先、親指と人さし指の間、手首、ひじの内側が真っすぐ線で結べるようにする。
3本の指でしっかり握り、人さし指と親指は軽く添えるだけにする。こうしておくとさまざまな動きに柔軟に対応できる。
すっぽ抜け注意
柄の部分は親指で支えがちだが、それだと強い力を加えたときにすっぽ抜ける可能性がある。なので手首を返し、指の股で支えるといい。
ヒミカさん「ナイフって切るだけじゃないんですね⁉」
荒井さん「そう! 切る、割る、断つ、掘る。意識すればいろんな使い方ができる。でも基本動作を覚えておかないと、宝の持ち腐れになっちゃうよ」
ヒミカさん「じゃあ私は、この長いシースナイフがいいや。枝もバッサバッサ払えそうだし、大は小を兼ねるっていうから……」
荒井さん「ダメダメ。ナイフは、大は小を兼ねないんです! 大きすぎるナイフは持て余しちゃうので選びません。自分の手のひらのサイズを目安に選ぶといい」
ヒミカさん「ホントだ! 自分の手のサイズに合ってるほうが、しっかり握れる」
荒井さん「あぁ、そんなガッチリ握らない。人さし指と親指は添えるだけでいい」
ヒミカさん「うーん。ナイフって奥が深い。それに実際手に持ってみると…早く使ってみたーい!」
主な使い途はコレ!
切る
基本的に料理で活用。比較的柔らかいものを切るときは、対象に当て刃を滑らせる。堅い野菜を切るときは、まず刃の先端を垂直に突き立て、半円を描くように刃を下ろす。
穿つ
ナイフの切っ先を当て、回転させて一点を彫る。刃先を垂直に立ててグリグリするとあっという間に刃がダメになるので、刃を寝かせ、刃先を中心にすり鉢状に削り出す感覚で作業する。
割る
竹など、繊維質のものを目に沿って割り広げる。薄い刃の先端を使うと折れる危険があるので、根元のほうの厚い部分を使い、キコキコと左右に動かしながら使うといい。
断つ
ロープを刃の上で滑らせるようなイメージで少しだけ体の外側に向けて押すのがコツ。ツルや草、細い枝などを切断するときは、下に置き速度を出してナイフを一気に振り下ろす。
刃先を上に向け、押し上げながら切るのはNG。力が入りすぎると自分がケガをする心配もある。
削る
薄く削りたい場合は、面取りの要領で削りたい場所に刃を当て、削ぎ落とす。深く削る場合は、親指を使って刃先をコントロールし、親指を真っすぐ押し出し、刃先を前に進める。
掘る
野外ではトイレ用の穴を掘るためにナイフを使うこともある。まずは地面にナイフを突き刺し、ザクザクと抜き差ししながら、地面に円を描いていく。
円を描いたら、ブレードをシャベル代わりにして、円の内側の土を掘り起こす。使用後はよく拭くこと。
講師 ブッシュクラフター
荒井裕介さん
1年の3分の1はフィールドを駆け回っている。狩猟にも造詣が深く、ブッシュクラフト教室も開催。山岳写真家でもある。著書に『アウトドア刃物マニュアル』(誠文堂新光社刊)。
生徒 アウトドア女子 ヒミカさん
3年前にキャンプを初体験してからすっかりはまり、YouTuberとして自身のアウトドアライフを発信。焚き火と歌うことが大好きで、じつはカクテル作りを得意とする。
※構成/大石裕美 撮影/中村文隆
(BE-PAL 2020年6月号より)