「想定外の自然災害」から身を守るために
ここ数年、毎年のように各地で河川の氾濫や土砂災害が発生し、甚大な被害に見舞われている。台風の強大化や線状降水帯(積乱雲が長時間に渡って線状に並び発達し続ける状態)の発生、ゲリラ豪雨の多発など、過去の常識が通用しない自然災害が当たり前のように発生するようになった。
こうした洪水や土砂災害から身を守るには、自分が住んでいる場所の地形的特性を理解しておくことが重要だ。そこで役に立つのが自治体が発行する「ハザードマップ」である。
地形の特徴を”見える化”した地図
ハザードマップは「災害時に被害が想定されるエリア」や「避難場所」を見やすく表示した地図のこと。大雨が降った時、津波に襲われた時など、その場所でどんな被害が想定されるのかをひと目で理解できる。
水に関連する災害では、海岸や河川に隣接した地域だけでなく、水が溜まりやすい低地や崩れやすい急な崖などで被害が発生しやすい。ハザードマップ上でこれらの色分けされた境界線部分を注意深く観察すると、標高(=海抜)が同じ地点を結んで描かれた等高線と密接な関連があることがわかる。
自治体によって違いはあるものの、ハザードマップには災害の種類別に被害の範囲や大きさ、避難場所などが表示されている。
主な災害として
・「洪水」堤防の決壊や増水により河川の水が堤防からあふれる越水などの被害を想定
・「内水氾濫」市街地などから見て堤防より”内側”にある側溝や下水道、排水路などがあふれる被害を想定。都市の排水能力を超える大雨が短時間に集中して降ることが原因
・「土砂災害」大雨による急傾斜地の崩壊や土石流、地滑りの被害を想定
・「津波」地震が起きた際の津波被害を想定
・「火山の噴火」火山灰や溶岩、火砕流による被害を想定
などがある。
基本的にハザードマップは各戸に配布される紙版のほか、自治体のホームページにもpdfファイル等で掲載されている。あらかじめ最新版をダウンロードしておこう。pdfなら画面上で拡大して細部を確認できるというメリットもある。
GPS情報に対応した「重ねるハザードマップ」
自治体が発行するハザードマップは危険箇所をアイコンで表示したり、その地域の過去の災害を記載するなどきめの細かい情報が特徴となる。しかし災害ごとに別の地図として作成されている場合が多く、その場所がどんな被害に遭いやすいかを知るには複数の地図を見比べる必要がある。
そこで併用したいのが国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」の「重ねるハザードマップ」である。その名の通り複数の災害の被害状況や土地の特徴、成り立ち、活断層などさまざまな情報を重ねて表示できるだけでなく、スマートフォンの位置情報を元に画面上に現在地を表示したり、指定した場所の標高などを表示するなど、地図が苦手な人にも便利な機能が揃っている。自治体の枠を越えてシームレスに表示できるので、キャンプ場付近で想定されている被害状況を自宅からでも確認することができる。
実際の地形とハザードマップを見比べてみる
ハザードマップを手に入れたらまずは自宅周辺の危険性の確認と避難場所、避難経路をシミュレーションしておきたい。とはいえ災害に遭遇するのは自宅にいる時ばかりではない。職場や学校、通勤通学路、よく利用する郊外のショッピングセンターなど、自分と家族の生活圏の安全性も確認を忘れずに。
この時、図上で被害が想定される場所を確認するだけでなく、天気の良い日に散歩がてら現地を訪ね、地形の特徴を自分の目で確かめておくといい。その際ぜひとも行動範囲が広く高低差に敏感な自転車に乗ることをおすすめしたい。水は周囲より低い場所に集まるという特性を忘れずに、地面の高低差に注意を払うこと。そしてハザードマップ上で色が塗られた場所と塗られていない場所の境界や、特定の被害を示すアイコンのある場所に立ち、なぜそこで被害が想定されるのかを考えてみよう。
洪水や内水氾濫による浸水
ハザードマップに記載された浸水エリアは、一定の条件のもとでの被害状況を想定したもの。より大量の雨が降れば標高の高い場所も浸水する。ハザードマップ上では災害時にも通行できるはずの道路が実際には冠水して通行できなくなることもある。
内水の氾濫に加え上流部に降った雨で川の水量が大幅に増加し堤防を越えてしまうと、被害がさらに大きくなる。被害を想定する条件が変わるとどうなるかを想像することが大切だ。
急傾斜地の崩壊
傾斜度が30°以上、高さ5m以上の土地(崖など)を「急傾斜地」と定義し、大雨時に崖崩れ等の危険性があると想定している。
アンダーパス
道路を掘り下げ、交差する幹線道路や鉄道の下をくぐるアンダーパス。大雨の際には水が溜まりやすい場所である。乗用車(セダンタイプ)で水深30cm、SUVなら60cmまでなら通行可能というデータ(ただし時速10km ※)があるが、実際の冠水路では水面下の路面の状況がわからないため、無理せず迂回した方がよい。
※JAFによる冠水時走行テスト https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/user-test/submerge/waterway-driving
暗渠(あんきょ)
都市部では舗装や宅地化、区画整理などによって元の地形が分かりにくくなっている。川や水路に蓋をした通路(暗渠)や湿地を舗装した駐車場などは、大雨の際は水が集まりやすい場所となる。重ねるハザードマップの「年代別航空写真(※1)」や「今昔マップ」(※2)を参考に、その場所が元々どのような地形だったのか確認しておこう。
※1 重ねるハザートマップ「09古い航空写真との比較」 https://disaportal.gsi.go.jp/hazardmap/pamphlet/pamphlet.html
※2 今昔マップ on the web https://sv53.wadax.ne.jp/~ktgis-net/kjmapw/index.html
「想定外」の被害を想定する
土砂災害が想定される崖の上に向かう道が11段変速の一番軽いギヤでも漕ぐのが大変な急坂だったり、アンダーパスのアプローチが思ったより急な傾斜だったり、建物の隙間を縫うように続く暗渠が路面自体の勾配は緩かったりと、自転車で走ることで街なかの地形と水の流れが見えてくる。
水の流れと地形の関係を理解することは、安全で快適なキャンプサイトを見つける際など外遊びのさまざまな場面にも応用できるはずだ。ハザードマップをきっかけに普段は通らない道を自転車で走ることで自分の頭の中にある街の地図をアップデートし、体感した地形をもとに臨機応変に危険を回避できるよう日頃からイメージトレーニングしておこう。