アルパインクライミングの第一人者・山野井泰史さんが語る「冒険的登山と死」
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL9月号掲載の新連載第2回目は、「生きているのが不思議」としばしば評されるアルパインクライミングの第一人者・山野井泰史さんです。
山野井さんは死が怖くないのか? なぜ成功の見込みの低い山に挑戦するのか? 関野さんが山野井さんの本音にぐいぐいと迫ります。その一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
山野井泰史/やまのい・やすし
1965年東京都生まれ。10代の頃から頭角を現し、単独または少人数で、大岩壁やヒマラヤの高峰の数々の難ルートに挑み続けてきた世界的なアルパインクライマー。著書に『垂直の記憶 岩と雪の7章』、『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』がある。
成功の見込みが高い山は登らない
関野 山野井さんは、「成功の見込みが30%ぐらいなら登るけれど、成功の可能性のほうが高かったら登らない」というような趣旨の発言もされています。普通の人は、成功の可能性が高ければ高いほどいいと考えると思うのですが、なぜなのでしょう?
山野井 第一に、可能性が低いというのはイコール困難だということで、そういう山のほうが自分の潜在能力をものすごい勢いで引き出してくれて、おもしろいと思える瞬間が多いからです。可能性が高いところは、潜在能力が引き出されている感じがないんですよね。もちろん成功を願っていますが、失敗したからといっておもしろくないわけではありません。トータルでいかに登山を充実させるかが大事で、そこに第三者の評価は関係ないと思っています。自分がおもしろいと感じられれば、「あいつ、また失敗した」といわれても全然気にならないです。
関野 私も、失敗してもいいと思っています。ただし、失敗しても死なないこと。なぜかというと、死ななければもう一回チャレンジできるから。
山野井 そうなんですよね。一方で、僕が可能性の低い山を選ぶもうひとつの理由として、可能性が低いイコール恐怖を感じる山だというのもあります。そういう山は、目標として魅力的なんです。他のスポーツとは違って、「もしかしたら死んでしまうかもしれない」という若干の恐怖が、登山では魅力であり重要な要素のひとつになっているのではないかと僕は思っています。
関野 若い頃から死を意識した登山をされていたのですか?
山野井 本格的に山を始めて数年後、高校2年のときに、冬の谷川岳一ノ倉沢で当時誰も登っていなかったルートをひとりでやってやろうと思ったことがありました。そのとき、遺書めいたものを机に入れて出発しました。家を出る時も、電車の中でもものすごく怖かった。結局登れずに敗退したんですが、死への恐怖に負けたわけではありませんでした。僕は、一歩踏み出した上での敗退は許せるけれど、一歩も踏み出さない挫折感には耐えられない。そんなことばかり繰り返してきました。
この続きは、発売中のBE-PAL9月号に掲載! 「地球永住計画」の公開講座にて視聴することができます。
公式YouTubeで対談の一部を配信中! 「地球永住計画」にてノーカット版を公開講演
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。
2021年8月14日 開催!
地球永住計画 公開講演「現代の冒険者たち」山野井泰史×関野吉晴
「地球永住計画」にて対談のノーカット版を視聴できる公開講演が開催されます。視聴には以下からお申し込みが必要です。
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01uvmgz8pkt11.html
講演動画は配信終了後から3日間視聴可能です。予定のある方もお好きな時間にゆっくりお楽しみください!