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要注意!!きのこ食中毒多発!必ず覚えておきたい毒きのこ②
きのこ中毒を多発させる「毒キノコ」の代表、いわゆる「きのこ中毒御三家」は、カキシメジ、クサウラベニタケ、ツキヨタケのこと。私の住む長野県では、キノコ食中毒の原因の70%がこの3種によるものという。
カキシメジ中毒の発生件数は、少し古いデータで恐縮だが、1970~1994年までの25年間で36件、中毒者数148名。この数字が多く感じるか少ないと感じるかは微妙なところだが、カキシメジの中毒は、死亡例もあるツキヨタケの中毒などに比べると比較的軽く、軽い中毒の場合は自己診断で自宅での療養で済ましてしまうケースもある。
田舎では毒きのこに当たることを、意地汚く恥ずかしい、みっともない事と感じる風潮があり、病院に行かず我慢してしまうことも少なくないのだ。
もっとも、このやせ我慢がキノコ中毒の重篤化する一因だ。キノコに当たったら必ず病院で治療を受けるべきで、カキシメジ中毒でも入院治療が必要だったり、治癒するまで10日も掛かったという例もある。なめてはいけない。
いずれにせよ、保健所などに報告されず潜在している事例の数を含めると、実際のカキシメジ中毒の発生件数はもっとずっと多いのではないかと思う。
カキシメジ中毒の症状は、激しい胃腸系の中毒で、食後30分から1時間ほどで症状が現れ、頻繁に嘔吐、下痢が続き腹痛と頭痛を伴うという。わずか2本を3人で食べて中毒、入院した例もあるから、致死性の猛毒ではないとしても毒性自体は決して弱いとは言えない。
カキシメジ(毒)の特徴と見分け方は?
カキシメジの一番の特徴は、美味そうに見える毒キノコだということ。
茶色のカサには、ヌメリがあり、小さい時はナメコみたいで好ましい。ヒダは白色で毒を疑わせる違和感が無い。大きくなると肉厚で堂々とした、いかにも食べられそうな風体をしている。しかも群生するから、一ヶ所でたくさん採れる。
難点は古くなるとヒダに赤褐色のシミができて汚く見えることと、独特の臭い匂いがあること。
その匂いにしても、他の毒キノコなどにあるような、食べ物ではありません!と主張しているような刺激臭や薬品臭では無い。
匂いの感じ方には個人差があり正確な表現は難しいが、魚の「くさや」の臭いのような、やや生臭い香り。なかには気にならない人がいても不思議ではない。
もちろん、「地味なキノコは毒ではない」とか「縦に避けるキノコは毒ではない」などの毒キノコの見分け方の迷信にも、すべて当てはまる。
しかも、よく似たキノコにチャナメツムタケやクリフウセンタケといった人気のある食用菌が揃っている。実際、近所のキノコの鑑定を頼まれるような、きのこ狩りのベテランのなかにもカキシメジとチャナメツムタケ(食)の同定(見分け)には自信がないという人もいたりする。
食用になるキノコと間違えやすい条件が、ほぼ一通り揃っている。カキシメジ中毒が多い理由もうなずける。
カキシメジ(毒)に間違えられやすいキノコ
●チャナメツムタケ(食べられるきのこ)
学名:Pholiota lubrica (Pers.) Sing.
【カサ】
直径4cm~8cm。饅頭形から平に開く、湿時、強い粘性があり、茶褐色から煉瓦色で周辺はやや淡色。表面は幼時、白色鱗片が散在するが、成長につれ消失し、成熟すると繊維状となる。
【ヒダ】
湾生から直生し、密。若い時期は白色、成長すると土褐色。
【柄】
若い時、繊維状鱗片に覆われささくれ状。のちに繊維状で白色。下方は褐色を帯びる。上部の内被膜(幼菌の時にカサの下端とヒダを覆っている皮膜)の破片は消失しやすく、ツバは無い。切断面は中実。
【肉】
白色で無味、やや土臭さがある。
【環境】
晩秋、広葉樹林に地上の埋もれ木やその周辺に群生する。
【食毒】
可食で比較的美味。生食は厳禁。
特に誤食例の多い、チャナメツムタケとカキシメジの判別のポイントは?
①カサが開き切らない若いチャナメツムタケのカサの縁に、白い薄い膜の破片が着いていて、カキシメジには着いていないこと。
②若いチャナメツムタケのカサの表面に綿毛のような白い鱗片が点在すること。ただし、この鱗片は成長すると消えてしまう。カサが開ききったものの場合は、カキシメジとの区別の特徴にはならない。
③カキシメジに特有の悪臭が、チャナメツムタケには無く、代わりに弱い土臭さがあること。
④カキシメジのヒダは白色で、古くなると赤褐色の染みができるが、チャナメツムタケのヒダは成長すると粘土褐色で、染みはできない(腐り始めれば、色は変わる)。
⑤チャナメツムタケの柄の表面は、若い時ささくれるが、カキシメジの柄はささくれない。
⑥カキシメジの肉には、弱い苦味があるが、チャナメツムタケは無味。
大切なのは、一本だけ見て安易に判断しないこと。カキシメジもチャナメツムタケも群生する性質がある。一本見つかれば周囲に何本か生えているはずだ。成長状態の違うものなど、複数の個体を観察すると見分けの精度が高くなる。
命拾いしたのはカキシメジ(毒)を食べたおかげ!?
昭和56年の秋、長野県上田市の3人家族が、数日前に採って干しておいた数種類のキノコを、キノコご飯にして食べた。食後30分ほどして、家族全員が、激しい嘔吐、下痢の症状に見舞われ、脱水症状を起こして市内の病院に収容された。
上田保健所で食べ残しのキノコの種類を確認した結果、有毒のカキシメジの他、恐ろしいことに「シロタマゴテングタケ(猛毒)」が干しキノコの中に混じっていたという。
シロタマゴテングタケはドクツルタケと並び、一本食べれば死ぬと言われる致命的な猛毒菌として知られるキノコだ。仮に命が助かっても後遺症が残ることもある。ただし潜伏期間が比較的長く症状が現れるまで6時間から12時間かかるという。
幸いなことに、このケースでは食後すぐ症状が現れ嘔吐する性質が強いカキシメジを一緒に食べたおかげで、シロタマゴテングタケの猛毒がからだに吸収される前に全て吐き出すことができたようだ。
しかし、名前も判らないキノコを端から干して食べてしまうというのも、物凄い勇気??だと思うが。
キノコに当たらない、一番の方法は単純だ。子供に言い聞かす注意と一緒。
知らない人には付いて行かないように! 知らないキノコは食べないように!
●カキシメジ(※毒※)
学名:Tricholoma ustale (Fr.) P. Kumm.
【カサ】
直径、約4cm~15cm。幼菌時、縁が内側に巻き、半球型から平を経て中央部ややや窪んだ皿型に開く。表面、湿時強い粘性があり、平滑からやや繊維状。赤褐色から栗褐色、周辺部は淡い
【ヒダ】
白色で湾生し、やや密。古くなると赤褐色のシミを生ずる。
【柄】
上下同大の棒状で、断面は髄状から中空。表面は上部白色で粉状、下方は繊維状または細かい鱗片にまばらに覆われる。触れると褐色になる。
【肉】
白色で独特の悪臭と弱い苦味がある。(灰汁様の臭いとする資料もあるが、私にはやや生臭い臭いのように感じる)
【環境】
広葉樹林、マツ林地上に群生する。
【食毒】
有毒。消化器系の中毒を起こす。毒成分はウスタル酸。他に青酸合成能力があるが、低濃度で人体に影響を与えるほどではない。
【注意】
外見的特徴がよく似た複数の種を含む可能性がある。針葉樹林に発生するものを「マツシメジ」として無毒とする説があるが、カキシメジも普通にマツ林に発生する。似た外見を持つキノコは食べてはいけない。
カキシメジによく似た毒きのこ
●キヒダマツシメジ(※毒※)
学名:Tricholoma fulvum (Bull.) Sacc.
【カサ】
直径4cm~8cm。表面湿時粘性があり繊維状、栗褐色から暗褐色。
【ヒダ】
湾生から直生し密。黄色。成熟すると赤褐色のシミを生ずる。
【柄】
棍棒状で下方が太く、上部はカサよりやや淡色、下部はほぼカサと同色。繊維状から細鱗片状。
【肉】
淡黄色で無味無臭。
【環境】
主にカバノキ科樹下に散生、群生。
【食毒】
有毒。消化器系の中毒を起こす。神経系中毒の可能性もあり。
文・写真/柳澤まきよし
参考/
「日本のキノコ262」(自著 文一総合出版)
「北陸のきのこ図鑑」(池内良幸著 橋本確文堂)
「Gakken 増補改訂 フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ」(長沢英史監修 学研教育出版)
「きのこの100不思議」(日本林業技術協会編 東京書籍)
「毒きのこ・絶品きのこ狂騒記」(小山昇平著 講談社)
「長野県で発生したきのこ中毒の記述統計」(山浦 由郎、中村 和夫、石原 祐治著 食品衛生学雑
誌/ 38 巻 2 号)
「自然毒のリスクプロファイル」(厚生労働省)