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要注意!!きのこ食中毒多発!必ず覚えておきたい毒きのこ③
地味で目立たないクサウラベニタケ(毒)、中毒が多いのは、なぜ!?
いわゆる「きのこ中毒御三家」とは、カキシメジ、クサウラベニタケ、ツキヨタケのこと。日本で起こるキノコ中毒の7割以上が、これらによるものと言われている。
この3種の中で、東北地方に多いツキヨタケ中毒に対して、中部、関東で多発するのがクサウラベニタケとカキシメジの中毒だ。
肉厚で美味そうな外見が誤食を誘う「カキシメジ」に対して、クサウラベニタケの中毒多発の原因は、地味で特別に目立つ特徴が乏しいこと。
カサは灰色。柄は白く、ツバも無ければ、ツボも無い、特別な模様も無い。似たキノコはゴマンとある。
何処にでもある、当たり前そうな外見は、なんら警戒心を抱かせない。
しかも、比較的見分けが難しい、「シメジ」の仲間や、ウラベニホテイシメジなどのキノコ狩りで人気の獲物が、灰色のカサと白い柄と、クサウラベニタケによく似ているのも中毒事故を多発させる原因だ。
私も、クサウラベニタケそのものでは無いが、近い種類でよく似た、コクサウラベニタケ(毒)をハタケシメジ(食)と一緒に採って持ち帰ったことがある。
キノコを種類ごとに調理するための仕分け中に、わずかなヒダの色の違いに気がついて事なきを得た。
キノコの撮影中、やや小型のハタケシメジの群生に出会ってホクホク顔でカゴに一杯採ったのだが、その中にコクサウラベニタケが混じって生えていたらしい。特定のキノコの群生の中に別種の菌が発生することは稀だと思っていたのが盲点になった。
キノコ採りから帰宅したら、すぐに持ち帰ったキノコを、必ず種類ごとに仕分けて置くように習慣づけておくのは、中毒を防ぐ上でも大切なプロセスのひとつだ。もちろん料理の下ごしらえの役にも立つ。
あの時、もしも確認せずに食べていたら、かなりの本数が混じっていたので中毒していたかも知れない。
●コクサウラベニタケ(※毒※)
学名:Entoloma nidorosum (Fr.) Quél.
【カサ】
直径3cm~7cm。円錐形から皿型に開く。表面は平滑、吸水。湿時周囲に短い条線を現す。帯黄灰色から灰色。乾燥時、汚白色で光沢がある。老成すると周辺部が不規則に波打つ。
【ヒダ】
白色のち肉色で疎。直生するが成熟すると柄から離脱する。
【柄】
上下同径、白色。上部粉状で下部は繊維状。中空から髄状。
【肉】
白色で脆く、刺激臭がある。
【環境】
夏~秋、広葉樹林地上に発生する。
【食毒】
有毒。
クサウラベニタケってどんなキノコ?
クサウラベニタケは毒きのこの多いグループのイッポンシメジの仲間だ。
イッポンシメジとクサウラベニタケはよく似ていて、毒性も同じなので、キノコ中毒の統計では合わせて一種としてカウントされることが多い。
クサウラベニタケには、よく似た毒キノコも多いのだ。
●シミイッポンシメジ(小山 仮)(※毒※)
学名:Entoloma sp.
【カサ】
直径4cm~12cm。饅頭形から平に開き、老成すると縁部が反り返り、不規則に波打つ。湿時、弱い粘性があり、表面は平滑。灰褐色から帯黄灰褐色。大小の暗灰褐色のシミを多数生ずる。
【ヒダ】
直生から上生し、老成すると柄から離れる。白色から、後に肉色になる。
【柄】
下方が太く、基部やや肥大する。中実から髄状。表面は白色から、後にカサの色を帯び、上部、粉状で下は繊維状。
【肉】
白色で表皮下表面色を帯び、弱い苦味と粉臭がある。
【環境】
ブナ科、ウラジロモミ林など地上に発生。
【食毒】
有毒、クサウラベニタケと同様の中毒の可能性がある。
イッポンシメジの仲間のキノコの特徴のひとつは、成熟するとヒダの色が肉色になること。クサウラベニタケも例外ではない。しかし、若く胞子が成熟していないものでは、ヒダの色は類白色。幼い菌でも毒性は変わらない。必ず成熟した菌で確認すること。
典型的なクサウラベニタケのヒダは、ルーペで拡大して見ると、縁がノコギリ状(鋸歯状)になっている。
これは、同じイッポンシメジ属の中で数少ない食用になり、きのこ狩りでも人気のあるキノコ「ウラベニホテイシメジ」と見分ける際の大きなポイントだ。
実際に山でクサウラベニタケを見つけるたびに仔細に観察すると、少しずつ雰囲気に違いがある。クサウラベニタケやイッポンシメジと言われるキノコは複数の類似の菌の集合の可能性が高く、それらの全てが有毒と思われる。
外見的特徴からだけでの判断では精度を欠く。本当は広義のクサウラベニタケ(毒)とするのが正しいのだろう。
ヒダの観察だけでは100%の安全は保証されない。他の特徴もよく比べて判断し見分ける必要がある。
クサウラベニタケ中毒の症状は?
クサウラベニタケを食べてから20分から4時間ほどで、主に嘔吐、下痢、腹痛などの胃腸系の中毒を起こす。多くの場合は命に関わるほどの激烈な中毒ではないといわれる。
しかし、神経毒のムスカリンなど他の毒成分も含み決して毒性が弱いというわけではない。一度に多量に食べたりすると死亡する可能性もある。
また、キノコの毒への感受性は個々人の違いが大きい。体質によっては重い症状がでる場合がある。
1989年に大阪市で起きた食中毒事件では、カサの直径3cmほどの小さな幼菌1本を夫婦で食べた。量は妻が3/4本、夫はわずか1/4本しか食べていない。それでも激しい胃腸障害を起こし、自宅療養で回復まで6日間かかった。
このケースでは、胃腸障害の他に、手のひらの痺れや、頭がのぼせるといった、ムスカリン由来の神経系の症状も現れたという。
クサウラベニタケの毒そのもので死ななくても、激しい下痢などが続いたため、脱水症状から命を落とした例もある。
また、キノコの毒は初期の治療を早めに行うことで、症状の軽減や予後の経過を劇的に良好にできる可能性が高い。初期症状が軽くても、素人判断せず、必ず病院での治療を受けたほうが良い。
一見、地味でぱっとしないヤツが、裏を返すとかなりのやり手だということは、人の世界でもよくあることだ。
能あるキノコは毒を隠す。
実はクサウラベニタケは隠れた実力派「毒キノコ」なのだ。
●クサウラベニタケ(※毒※)
学名:Entoloma rhodopolium (Fr.) P. Kumm
【カサ】
直径3㎝~10cm。半球形から平。老成すると周囲が反り上がってうねり乱れる。表面は吸水性で平滑。灰色から灰褐色。湿時、周囲に短い条線を表し、乾燥時絹糸状光沢があり繊維状。
【ヒダ】
直生~上生。老成すると柄から分離する。初め白色、のち淡紅色を経て肉色になる。ヒダの縁は不規則に乱れ鋸歯状になる。
【柄】
上下同径からやや下方が太く、中空から髄状。表面は白色で、上部粉状で下方は光沢がある繊維状。淡く条線がある。
【肉】
表皮下、表面色を帯び白色。弱い粉臭がある。無味。
【環境】
夏から秋、ブナ科広葉樹林地上に発生。広義のクサウラベニタケと思われる菌は針葉樹林にも発生する。
【食毒】
有毒、中毒事故が極めて多く最も注意する菌のひとつ。毒成分は、ムスカリン、ムスカリジン、コリン、溶血性蛋白。主に強度の消化器系中毒だが、神経系の症状も現すことがある。
クサウラベニタケに間違えられやすいキノコ
●ウラベニホテイシメジ(食べられるキノコ)
学名:Entoloma sarcopus Nagas. & Hongo
【カサ】
直径5cm~15cm 円錐形から中央の盛り上がった平に開く。表面粘性は無く、帯褐灰色。白色の絹糸状繊維に薄く覆われるが老成すると消失する。しばしば指で押したような浅い凹みや班がある。
【ヒダ】
直生状湾生し、やや疎。類白色から後に淡紅色。
【柄】
太い棒状で上下同径から下方にやや太く、中実。表面は白色で初め平滑。成熟すると条線を現す。
【肉】
白色、弱い苦味と粉臭があり緻密。
【環境】
秋、ブナ科樹林地上に群生、単生。
【食毒】
可食、キノコ狩りの対象として人気。
●ハタケシメジ(食べられるキノコ)
学名:Lyophyllum decastes (Fr. ) Sing.
【カサ】
直径2cm~12cm 饅頭形から中央がやや窪んだ平らに開く。表面は灰色~褐色。細かい繊維紋があり、白く粉を吹いたように見える事がある。粘性は無い。
【ヒダ】
類白色で密。直生から湾生~やや湾生気味に垂生する。
【柄】
表面繊維状で白色からカサの色を帯びる。上下同径から下方が太く、中実。基部で数本が癒着し束生し、しばしば株状になる。
【肉】
白色、表皮下表面色を帯びる。無味無臭。
【環境】
貯木場や廃材捨場、庭園など、木質の埋もれ木などがある場所から、束生する、腐朽菌。
【食毒】
可食。ホンシメジに匹敵する優秀で美味な食用菌。
文・写真/柳澤まきよし
参考/
「日本のキノコ262」(自著 文一総合出版)
「原色日本新菌類図鑑」(今関六也・本郷次雄編著 保育社)
「原色日本菌類図鑑」(今関六也・本郷次雄編著 保育社)
「北陸のきのこ図鑑」(池内良幸著 橋本確文堂)
「Gakken 増補改訂 フィールドベスト図鑑 日本の毒きのこ」(長沢英史監修 学研教育出版)
「クサウラベニタケによる食中毒」(高木正明著 食品衛生学雑誌40巻5号 日本食品衛生学会)
「日本におけるきのこ中毒の発生状況」石原 祐治・山浦 由郎著 食品衛生学雑誌46巻6号 日本食品衛生学会)
「自然毒のリスクプロファイル:クサウラベニタケ」厚生労働省HP