冬の足音がだんだん近づいてきましたね。北では雪の便りもチラホラ?
今回ご紹介しますのは、北の大地! 北海道札幌市にあるその名も「サッポロッジ」です。サッポロッジは、山岳やシーカヤックなどアウトドアツアーのガイドとして活躍する奈良亘(なら・わたる)さんが2014年にオープンしたカフェバーであり、ゲストハウス。札幌随一の繁華街、すすきのにほど近い場所にあります。
さて、席に着いたらまず「サッポロのCLASSIC」をいただきましょう。最近は北海道以外でも見かけることもありますが、道内限定発売のビールです。北緯43度に位置する札幌は、ビールに欠かせないホップが育つよい環境だそう。ビールの名産地として知られるドイツ・ミュンヘンやアメリカ・ミルウォーキー、ポートランドも北緯45度前後に位置しています。
さてさて、なにをいただこうかとメニューをのぞくと、「知床産」、「帯広産」、「白老牛」など文字が並び、道内の食がふんだんに楽しめることが分かります。
ここに来たらぜひ食べて欲しいのが、生ラムジンギスカン。やっぱり北海道に来たからには、ジンギスカンです。札幌のすすきの界隈には有名店がいくつかありますが、どこも行列必至(泣)。サッポロッジのジンギスカンはそれらの店に比肩する味、並ばなくても超旨いジンギスカンがいただけるのです! オススメは行者にんにく入り。ビールに合う~!
フィッシュ&チップスも必ず頼みたい一品。フィッシュは、白身魚ではなくなんと知床産の鮭。「鮭は知床産が一番旨いなぁ」と奈良さん。サクサクの鮭に山わさびのタルタルソースが合います。旨いッ。ビールもぐいぐい進みます。この鮭、じつは奈良さんの前社の先輩が知床のウトロで定置網の漁師をやっていて、その港から産地直送なんだそうです。
メニューには「いくら丼」もあって、同じ鮭。港から鮭が届いた日には、大量のいくらを醤油漬けにするイベントを開催! 親戚、近所の人、宿泊ゲストなどみんなを巻き込んで「自家製いくら作り大会」をやります。ご褒美は、もちろんいくら丼。これは、参加したい…。身はフィッシュ&チップスとなり、腹の卵は自家製の醤油漬けとなってどんぶりにのっているのでした。
メニューをめくっていくと、「長いも」のメニューすべてに「SOLD-OUT」シールが貼られていました。長いもの収穫時期は11月半ば。それゆえ取材した10月上旬は収穫前で未入荷でした。なんでもこの長いもを作っているのは、奈良さんの古くからの友人の石橋仁(いしばし・じん//帯広まんまる農園)さん。スキーが大好きで九州から北海道に来たという魂のテレマーカー!
「オレ、野菜のなかで長いもが一番好きだから、長いも農家になる!」と、帯広で根を下ろした九州男児なのだとか。石橋さんの考えに共感した奈良さんは、「お前の長いも以外は店では使わねぇ!」ということで、つまり、一年のうちほとんどは「SOLD-OUT」!なんでも「十勝川西ながいも」という長いもはとてつもなく旨いのだそうです。旬な時期に訪れたならば、ぜひ食べてみたいですね。
いまやスーパーに行けば、いつでも長いもは手に入るものですが、奈良さんは石橋さんが作った長いもを店で出したいし、時には、現場の畑まで見に行くのだといいます。メニューの長いもの一本漬けはいつも大人気だそうですよ。
サッポロッジはそんな話しがゴロゴロ…。たまたまお客さんで来ていたスノーボーダーがホタテ漁師だったという縁ではじまったホタテのメニューがあります。「オレがとってるホタテは北海道一なんだ」という話しがきっかけだったそう。北海道で一番ということは、世界でナンバーワンじゃないか!と。
その「世界ナンバーワン」のホタテは、野付(のつけ)半島でとられています。野付半島と聞いてもピンとこない人も多いかもしれません。北海道の東端、北に知床、南に根室がありそのちょうど中間に細くせり出した半島があります。それが野付半島!野付半島のホタテは広大な海で、ばらまきで4年という月日をかけて育てられるそうです。流氷の下の冷たい海で時間をかけてゆっくり大きくふっくらと育っていくのです(大きいものだと車のハンドルくらいあるらしい…)。これも、旬が来たら必食!ちなみに取材の日はまだ入荷前でした。
楽しい話しに花が咲き、ジンギスカンや鮭に舌鼓をうっていると、ふと怪しげなゆるキャラが目につきました。これは一体!?
彼の名前はしいたけ部長。木からムクっと生えていました。椎茸もサッポロッジの看板メニューのひとつで、原木で育てた肉厚の椎茸なんです。椎茸は、札幌にある「椎茸ファクトリー」で作られており、奈良さんの高校の体操部の後輩の方が携わっているとのこと。ここでは一般企業で就労が困難な方にしいたけ栽培の作業を通じて職場を提供するところにもなっているそうです。原木しいたけは絶品ですぞ!
北海道の各地から集まる旬な食材が食べられるカフェバー サッポロッジ。「オレはそういう人たちに助けられてるんだ〜」と、旨い食材を提供してくれるつながりに感謝する奈良さん。きっと、ここでしか食べられないものが、必ずあります!
それにしても、アウトドアガイドという顔持ちつつもカフェバーとゲストハウスを経営するなど多彩な面をお持ちです。奈良さんの原点は一体どこにあるのでしょうか。
小学生のときに北海道の国鉄全路線を制覇!
ーもともとなにがきっかけでガイドになろうと思ったんですか。原点というか。
それはね、旅だね。ガイドをずっと14年間やってきて、日本中世界中旅して、海外遠征なんかもいって。旅っていうのは最高なのさ。もう小学校のときから旅してるからね。小学5年のときに友達3人で国鉄(※民営化前)を乗り継いで、北海道を一周した。全路線を乗ったの。もういまはない、赤字ローカル線とか。その当時も、もう廃線が近い雰囲気で危機感を感じたんだよね。
ー小学生のときに危機感を感じたんですね。すごいです。
実際、JRになって民営化したときにそのローカル線は全部なくなった。その鉄道旅では、降りた駅を全部写真に収めること、スタンプを押すこと、入場券を買うこと、というのを決めてやった。すべての週末と夏休みとかの長い休みも使って、駅で野宿したりして。子どもたちだけでね。それの延長でガイドになったんだよね。
ー子どもたちだけで!
そう。学校の授業中なんかに教科書の内側に時刻表を挟んで、週末のプランをたてるわけ。それをやっているうちに、時刻表のスペシャリストになっていってさ、もうパッと見ただけで乗り継ぎやら乗車時間なんか分かっちゃう。そういうところから地図見て旅するとかっていうのがあった。新しい世界に子どもとして行ける手段が鉄道だったんだよね。
自転車でも旅をしたけど限界があるし、1日で戻って来ないと親も心配するしね。そういう点では、鉄道はある意味で安心でしょ。青春18きっぷを乗り継いでいろいろ行って、そのころには「乗り継ぎのプロ」になってるからね。初めて北海道から出て本州へ行ったのもそのころだった。
ー北海道から出るって結構なイベントなんですね。
たいがいは学校の修学旅行なんかでみんな初めて道外に出る。その前だったから「おれらはもう本州行ったぜ!」みたいな感じよ。
ーそれは自慢ですね。旅はその後も?
高校卒業してキャバレーで2か月くらいバイトして稼いだお金でバイクを買った。18歳でバイク旅に。そのころはいってみれば水平移動の旅だったんだけど、大学に入ってから垂直に、上方向に興味が湧いてきた。大学の先生に初めて山に連れて行って貰って感動してね。たぶん5月くらいだったと思うけど、残雪期の大雪山。緑がちょっと出てきていて、それが綺麗で感動した。これは最高だ!って。高校大学と器械体操に打ち込んでたんだけど、山登りもしたいなって思うようになった。
「僕を採らないと後悔しますよ…」旅行会社に就職
ー大学卒業してすぐ就職したんですか?
もともと将来は学校の先生か、旅行会社に入りたいと思ってた。それもあって高校のときにはじめは教育大学を目指していたけど、一浪して二浪して…最終的には先生の道は諦めた。別の大学に入って、もうひとつの夢の旅行会社にしよう!って。大学の時に山に登った体験から、山を登る旅行会社がいいなと。北海道内には数社あって、ノマドって会社が楽しそうだと思った。ノマドは、創業30年くらいの会社で山岳と秘境を専門にしている旅行会社。でもノマドは新入社員を募集していなかった。
ー募集していないのに、どうしたんですか?
ノマドに電話してみたの。就職したいんで、会って下さい!話しだけでも聞かせて下さい!って。そしたら、「いまうちは新入社員募集していないし、忙しいから」と、全く取り合ってくれなくて、忙しいの一点張り。それで、いつも忙しいなら1か月後に行っても今日行っても一緒ですね?と。すぐに会社に行ってみた。
ーその行動力、脱帽です。ノマドの方に話しは聞いてもらえたんですか?
向こうにしてみれば、変なヤツが来たなと思ってたと思う。当時のノマドは山男の集団!という感じで山岳部のOBみたいな猛者がいるようなところだった。行ってみたら同じ大学の卒業生がいたりしたから、そこを突破口に猛烈に売り込んだ。最後には「僕を採らないと後悔しますよ。ゆくゆく活躍する人材なんで…」と言い残して。おれも必死だったからね。
会社を後にして外に出たら、「お~い」と呼ぶ声がして振り返ると、ノマドの人が窓から顔を出していて「お前、採用だ~!」と。
ーははは。なんだかマンガみたいですね。そして卒業して、晴れてノマドの社員として働き始めるんですね。
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奈良さんは1997年に株式会社ノマドに就職し、14年間勤めることになります…。その後はキリマンジャロやデナリ、エルブルースなど海外の高山に登頂、アリューシャン列島やグリーンランド遠征など数々の冒険を経験。2011年から2013年までの2年間、第53次南極越冬隊にフィールドアシスタントとしても行かれていました。そして…2014年にサッポロッジをオープンさせます。
就職後の話しの続きの冒険譚は、ぜひともサッポロッジで直接聞いてみてください!
SappoLodge(サッポロッジ)
北海道札幌市中央区南5条東1丁目1−4
電話/ 011(211)4314
info@sappolodge.com
営業時間/18:00~26:00
フードラストオーダー 24:00
ドリンクラストオーダー 25:30
※構成・撮影/須藤ナオミ