レンガ工場や造船所など、バングラデシュのさまざまな産業の現場で働く労働者の人々の姿を取材し続けている、写真家の吉田亮人さん。前回に続くインタビューの後編では、2016年春に刊行する新作写真集『Tannery』で取材した皮なめし工場で働く人々の状況と、バングラデシュと私たちの社会の間をつなぐ関係について、お話を伺います。
——吉田さんが取材で接しているバングラデシュの人たちって、どんな感じの方々なんですか?
吉田亮人さん(以下吉田):人なつこいです。写真を撮られるのも好きですね。だから、撮りやすいんですよ、すごく。どの現場に行っても、嫌がられることはほとんどないです。僕自身もずんずん入り込んでいく方ですし。
——彼らとのコミュニケーションは英語ですか? それともベンガル語?
吉田:片言の英語で話します。向こうは英語をしゃべれない人が多いので、身振り手振りで伝えたり、少し英語をしゃべれる人を見つけて通訳してもらったりしています。
——彼らと一緒に働いてみたりしました?
吉田:試しにレンガを何個か運んだりはしてみましたけど、彼らのようにやるのは無理ですね。だから、一緒にごはんを食べたり、煙草を吸ったり、お茶を飲んだり、カードゲームをしたり……そういう時間を共有するようにしていました。
——撮影の現場では、いつもどんなことを心がけているんですか?
吉田:自分は撮影者というより「カメラを持った従業員」なんだという意識ですね。実際に口に出して言ってたんですよ。「僕はスタッフだから」と。彼らはそれぞれの役割、僕はカメラ、同じ空間で同じ仕事を見つめる。そこは一緒なんだと僕なりにアピールしています。彼らと同じ条件、同じ大変さをなるべく……客観的ではなく主観的に感じようとしています。ジャーナリズムを目指しているわけではないので、客観的に事実を伝えるというより、自分がその現場で体験した出来事をリアルに自分の主観で伝えたいという思いがあるので。近ければ近いほど、今まで見えてなかったものが見えることってあるじゃないですか。そんな風に考えながら撮っていると、彼らにとって僕が目障りな存在じゃなくなってくる瞬間というのがあるんですよ。
——彼らを撮っていて……どうですか? 何を感じますか?
吉田:どの現場でも常にそうなんですが、とにかく、カッコイイ……というと陳腐な言葉に聞こえますけど、神々しいというか。こんなにも美しい佇まいの人間たちが、この場所に存在するんだ、と。カメラを向けていると鳥肌が立ってきて、ファインダーをのぞきながら、知らない間に涙が出ている時もあって。本当にすごいもの、本当に美しいものに出会った時って、そういう感情になるんじゃないかと思います。
——撮りながら涙が出てくる光景って、すごいですね……。
吉田:僕自身は、働いている人たちの気持の持ちように共感しているつもりなんです。自分には到底できないことを、彼らはいとも簡単に、しかも毎日やっているわけですよね。僕たちには当たり前でないことを、当たり前のように淡々とやっているすごさ……彼らの尊厳みたいなものを、「任せろ!」という気持で撮っているんです。「僕が絶対、一番いい形であなたの姿を撮ってあげるから!」と。そういう気持はいつも持っています。