北極行16回を数える”北極男”荻田泰永さんが語る「北極海の怖ろしさ」
探検家・関野吉晴さんが、時代に風穴を開けるような「現代の冒険者たち」に会いに行き、徹底的に話を訊き、現代における冒険の存在意義を問い直す──BE-PAL1月号掲載の連載第6回目は、ひたすら北極を歩き続ける唯一無二の北極冒険家・荻田泰永さんです。
「常に氷が動き、音を立てている」――荻田さんが魅せられた北極の怖さ・難しさに関野さんが迫ります。その対談の一部をご紹介します。
関野吉晴/せきの・よしはる
1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人びとのルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。
荻田泰永/おぎた・やすなが
1977年神奈川県生まれ。カナダ北極圏やグリーンランド、北極海を中心に主に単独徒歩による冒険を行なう。2000年から2019年までの20年間の北極行は16回を数える。2017年度植村直己冒険賞を受賞。著書に『北極男』(講談社)、『考える脚』(KADOKAWA)がある。
2度目の北極点への挑戦では、出発直後に怖くなってボロボロ泣いた
関野 荻田さんは2012年と2014年の2度、北極点無補給単独徒歩到達に挑戦しています。北極海の氷の上って、どのようなところなのですか?
荻田 足元は海です。氷の厚さは平均すると2mぐらいありますが、北極海の深さは2000~3000mですから、その表面が薄い膜のように凍っているだけ。だから、氷は激しく動きます。海流で流れますし、風の作用もすごく受けます。そして、流れている氷同士がぶつかりあって、むちゃくちゃに積み上がったり、あちこちで割れたりします。ブリザードのときなど1日で20kmぐらい流されますし、それが3~4日続くと60~70km流されることもざらです。わたしは2000年から通い始めて、2012年までの12年間は、カナダ北極圏の島しょ部を歩いていました。そこでも凍った海の上を歩くのですが、島がたくさんあるので、氷の動きが制限されています。それに対して北極海は、カナダから対岸のロシアまで何もありません。だから氷の動き方もはんぱないんです。…というのは、知識としては持っていました。植村直己さんや大場さんをはじめ、北極冒険の先達の本は当然読んでいましたから。でも、知っているのと実際に体験するのとでは全然違います。2012年、初めて北極海に出たら、本当に怖ろしかった。常に周囲で氷がギーギー、ミシミシ、バキバキと音を立てて、激しいときは、ビルを重機で解体するぐらいの音がします。テントで寝ていると、遠くのほうから氷がうねる音が近づいてきては遠ざかる。それが一晩に何度も続き、朝起きるとテントの周りの風景が一変していることも珍しくありません。結局、技術的には通用していても、初めてのわたしには精神的に手に負えないと感じる場面があって、17日目にリタイアしました。
関野 2014年の2度目の挑戦では、出発直後に泣いたそうですね。
荻田 怖くて怖くてボロボロ泣きました(笑)。
この続きは、発売中のBE-PAL1月号に掲載!
公式YouTubeで対談の一部を配信中!
以下の動画で、誌面に掲載しきれなかったこぼれ話をお楽しみください。