ラダックの東部、平均標高4000メートルを越えるチャンタン高原には、中国との暫定の国境をまたいでチベットまで続く全長約130キロの巨大な湖、パンゴン・ツォが横たわっています。日本でも大ヒットしたインド映画『きっと、うまくいく』のラストシーンの舞台に選ばれてから一躍有名になったこの湖には、多くの旅行者が訪れるようになりました。
パンゴン・ツォの湖畔には、2010年頃から外国人が入れるようになったばかりの村、メラクがあります。今回はそのメラクに数日滞在して、この辺境の湖のほとりで人々がどんな暮らしをしているのか、見学させてもらうことにしました。
ラダックの中心地レーからパンゴン・ツォに行くには、標高5320メートルの峠、チャン・ラを越えなければなりません。その麓の入口にあるサクティの村を見下ろしながら、車は次第に高度を上げていきます。
腕時計の高度計の表示が5000メートルを超えた頃、ふと窓の外を見ると、断崖の上からブルーシープの群れがこちらを見下ろしていました。標高5000メートルの世界も、ブルーシープたちにとっては当たり前の日常なのでしょう。
チャン・ラに到達。5色のタルチョ(祈祷旗)が結わえ付けられたチョルテン(仏塔)がありました。ここには簡素なレストハウスもあり、チャイ(ミルクティー)を飲むことができます。
チャン・ラを下り、タンツェという町のチェックポスト(外国人はここで事前に取得しておいた入域許可証を提示する必要があります)を過ぎてしばらく進むと、パンゴン・ツォの最北端、現地でビューポイントなどと呼ばれる地点に着きます。レーから日帰りでパンゴン・ツォを訪れる旅行者は、ここで湖の景観を楽しんだ後、同じ道をレーまで引き返します。
ビューポイントからメラクへは、湖に沿ってさらに20キロ南下しなければなりません。途中から路面は急に悪くなり、振動で車の天井に頭をぶつけそうになるほどのデコボコ道が続きます。
夕方、ようやくメラクに着いた時には、湖の対岸のチベットに連なる山々から低い雲の塊が押し寄せ、村に冷たい雨を降らせていました。夏だというのに、ダウンジャケットが欲しくなるほどの寒さ。この村を取り巻く自然の厳しさを、いきなり思い知らされました。
▼著者プロフィール
山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年春に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』の増補新装版を雷鳥社より刊行予定。
http://ymtk.jp/ladakh/