人類史上最強のスパイス「胡椒」を求めカンボジアへ
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    2019.03.19

    人類史上最強のスパイス「胡椒」を求めカンボジアへ

    以前、本誌で「フライパンひとつでできる!スパイスなおつまみ」や「野外料理アルミホイル包み蒸しカレー」などを提案したスパイス料理研究家のカワムラケンジと申します。

    今回は2013年頃、僕が主宰していたバイリンガルマガジン『スパイスジャーナル14』や、ネットマガジン『職人味術館』で密着取材させていただいたことのある『KURATA PEPPER』のことをお話ししたいと思います。

    KURATA PEPPER』とはカンボジアにある、おそらく世界唯一の胡椒専門カンパニー。創業者はなんと日本人で、倉田浩伸さんという方です。20192月、農園収穫体験・見学イベントがあるというので行ってまいりました。今回はその模様をお届けします!

    ブドウのようになってました、生きた胡椒。

    胡椒はおそらく世界でもっとも使われているベストスパイスであろう。けど、いざその正体を見たことがある人は世界広しといえさほど多くはない。胡椒って何?どんな植物?生はどんな大きさ?色は?やっぱり辛い!?

    というわけで、やってきたのはカンボジアの南部、タイランド湾にほど近いコッコン州・スラエアンベルの山麓地帯。217日、『KURATA PEPPER』の胡椒農園見学・収穫体験会(1)が開催された。

    東京の気温が67度Cなのに対し、こちらは連日日中35度Cの暑さ。ただいま午前10時過ぎ。すでに30度Cを超えている()。が、海が近いからか、ずっと爽やかな風が吹き続けていて気持ちがいい。

    農園は現在約6ha(東京ドームは約4.7ha)の広さに及ぶ。今回はその一角で収穫体験が行なわれた。

    胡椒の正体は、高さ34メートルほどの木であった。正確にはつる性の植物だから、支えとなる木に巻きつきながら伸びている。

    そしてブドウの房のようにたわわにぶら~んとなっているのだ。色は鮮やかな緑色。中には12粒のみオレンジ色に熟しているものもあった。1粒が直径35ミリほどの大きさで、一つの房が短ければ5センチほど、長いもので10センチ以上ある。

    鼻を近づけてみると、うっすらとフルーティーな香りがした。噛むととても弾力があって、パーンと弾けたと思うとわずかに甘酢っぱさが漂いつつ、じんわりと辛みが伝わってきた。でも、決して苦しい辛さじゃない。普段日本でも目にしている乾いた胡椒のほうがはるかに辛い。

    「胡椒は緑色の若いものほど辛みがやさしくフルーティーなんです。これが赤く熟していくと辛みが増していく。今日は一部完熟もありますが、できるだけ若い緑胡椒(2)を収穫していただいたほうがいいと思いま~す!」

    どこからともなく倉田浩伸さんの声が拡声器を通して聞こえてくる。

    『KURATA PEPPER』代表の倉田浩伸さん。

    本日の参加者は総勢40名。カンボジア、その近隣諸国に在住している日本人、そのご家族、中にはわざわざ日本から飛んできたというホットな胡椒ファンも。

    子供たちは約1メートル間隔で植えられている胡椒の木の合間を縫うように駆け回り、葉の下からのぞき込んでは、胡椒の房をつまんでぽきっと採取している。子供たちにとっては普段おそらく苦手な胡椒も、このように強い日差しと爽やかな風に揺れる生きた緑胡椒は可愛い果実なのだ。

    収穫方法は倉田さんが教えてくれる。
    「いいですか~!このように胡椒の房と蔓を結ぶ小さな枝が外へ向いているのですが、こいつを逆に蔓のほうへ奥へ向かって折ると、ほらっ、簡単にぽきっと採れますから。間違っても力ずくで手前に引っ張らないようにお願いします!下手をすると蔓ごとずるずる~って大変なことになってしまうので~!」

    最初はちょっと手こずるが、うまくいくと確かに簡単にぽきっと折れる。収穫した分はお土産としてもって帰ることができる。

    「食べるのは苦手だけど採るのは楽しい」

    収穫体験会を終えると、次は密林の中を歩いてしばらく進み、ドリアンやカシューナッツの木などとも出会えた。

    「へぇ、カシューナッツって果実の下に飛び出て成長するんだ~」

    さて農園を後にした我々は、バスで約30分ほどのところにあるレストラン『ピクニック』でさらに嬉しいランチを頂く。

    30人ほどが入れそうな高床式の東屋のようなスペース二棟に、赤や緑のカラフルなゴザが敷いてあり、みんなで大皿をシェアしながら頂くカンボジア式の食事である。

    料理ももちろんカンボジアオリジナル。たっぷりの生の緑胡椒とイカの炒め物。子供も安心して食べられるオムレツ。地の生野菜。そして地の淡水魚と野菜、ハーブの爽やかなスープ。牛肉の黒胡椒がたっぷりとかかったグリルなど。これらを思い思い自分の皿に取りライスと共に頂く。気が付けば、年齢も性別も関係なくみなさんと楽しく話しながら和気藹々。名前も知らないのに、すごくいい時間を分かち合えた。

    帰りは『KURATA PEPPER』プノンペン本店までチャーターしているバスで戻る。レストランからざっと130キロほどだが、ゆうに3時間ほどかかる。最近のプノンペンは渋滞が深刻化しており、下手をすると4時間以上かかることも。

    バス車内では隙を見て時折倉田さんがレクチャーしてくれる。黒胡椒とは今日収穫した緑胡椒を天日干ししてできている。真っ赤に完熟した胡椒を水に浸けて発酵させ皮がむけたものが白胡椒になる。いわゆるピンクペッパーは胡椒とは関係のない別種。プノンペンは熱帯モンスーン気候なのに対し農園のあるあたりは熱帯雨林気候に属する。豊富な雨量と曇天、そして土壌がアルカリ性であることが良質な胡椒を育てる。などなど興味深い話がわんさか。大人も子供も実に楽しいアツい胡椒のアウトドアであった。

    次回は「倉田浩伸さん。カンボジアで胡椒再興までの道のり」と「カワムラケンジの緑胡椒レシピ」をお届けします。

    1『クラタペッパー農園見学・収穫体験ツアー』
    2011
    年から開催しており、今まで大使館の職員や西洋の農業大学の教授、地元のカンボジア人や日本人、周辺諸国に住む日本人などが参加している。収穫した胡椒はお土産に。お昼はレストランで胡椒料理を含むカンボジア郷土料理が楽しめる。バス代込みで35ドル。応募はクラタペッパーHPから可能。毎年2月前後に開催される。

    2『緑胡椒』
    オンラインショップから購入可能。現在1か月に1回のペースで出荷。真空パックになっていて冷蔵なら約1週間、冷凍なら約1か月保存可能とのこと。50g入りが10パックとなって14,040(税、送料込)。新鮮な実を弓削多醤油の木桶仕込み有機醤油と角谷文治郎商店の三河みりんだけで煮た「生胡椒のしょうゆ漬け」も絶品。看板商品のライプペッパー20g入り972
    http://kuratapepper.jp

    KURATA PEPPER

    1994年創業。カンボジア原種を徹底したオーガニック自然農法で栽培する。最近では人気TV番組でも紹介されるなど、日本国内でもぐんぐん知名度上昇中。現在、国内での販売も可能となり商品も着々と増えている。日本に取扱店あり。業務用等の相談はウェブサイトから受け付けている。
    http://www.kuratapepper.com

    プノンペン本店 8:0019:00 無休
    #35B Street 606, Boeung Kok 2, Tuol Kouk, Phnom Penh CAMBODIA 12152

    プロフィール
    カワムラケンジ 

    10代の頃から様々な飲食の現場で経験を積み、20代からレシピ開発や飲食業の運営や経営、また物を書くようにもなる。2010年、スパイスをテーマに料理、旅、ヨーガ、科学など多角的にとらえた世界初のバイリンガルミニマガジン「スパイスジャーナル」を創刊(18)。著書に『絶対おいしいスパイスレシピ』(2015年木楽舎)、『おいしい&ヘルシー!はじめてのスパイスブック』(2018年幻冬舎)がある。
    www.kawamurakenji.net

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