世界的な聖地・パワースポット、セドナに住んで23年になる写心家・NANAさんは、セドナの大自然をガイドしながら、住んでいる人だけが触れられる四季折々のセドナの大自然を写真に収めています。日本から「自分を変えたい」と考えて、セドナにやってくる人たちが多いそう。「新しい自分」を求めてやって来る人たちの願いは叶うのか? NANAさんにお伺いしました。
――セドナには、日本からどんな人が来るんですか?
NANAーースピリチュアルなパワースポットとして注目されるようになってから、やはり、セドナでヴォルテックス(渦)と言われるエネルギーを感じてみたい、そして「人生を変えたい」という方が多くいらっしゃいますね。
「今、自分がやっている仕事はこのままでいいのか?」とか「本当に自分がしたいことは何なんだろう?」と模索している時に、日常からちょっと離れて、パワースポットで大地のパワーを感じれば、自分が変われるんじゃないか、という期待があるのかもしれません。
――「自分を変えたい」という人たちの期待は、実現するんですか?
NANAーーすでに「自分の人生を変えたい」と想っていらっしゃる方は、その想いが加速する、ということはあるかもしれません。
去年、セドナにいらしたKさんは、病院で助産師として働いていましたが、病院の方針と自分の想いが噛み合わず、苦しい想いをしていました。「それなら、自立したらいいんじゃない?」と私が言ったら、「それも考えている」とのことでした。その後、「オーガニックやクリスタルなど自然の素材にもこだわった、助産院ではない「holistic salon」をやって、女性たちをサポートします!「body.mind.soul」のすべてを、健康美として、赤ちゃんからお年寄りまでの全ての女性がイキイキすることが目的です」とご報告をいただきました。私もとても嬉しかったです。
某有名化粧品会社に勤めていたHさんは、ご自身がだんだん自然派になってきた時に、自分の会社の化粧品を自分で使うのも、人に勧めるのも辛くなって、思い切って仕事を辞めてセドナに来ました。「これからどうしたらいいか、セドナに来て考えたかった」と言っていました。一緒にハイクに行った時、「あなたの好きなことは何?」と聞いたら、「ヨガ!」と言うので、私は、「じゃ、それを仕事にしたら?」と言ったんです。「私にできますか?」と本人は半信半疑だったけど、「あなただったら似合うと思う!」と伝えたら、「ナナさんに言われたら出来そうな気がする!」と。そして、彼女は、本当に、日本に戻ってからヨガのインストラクターになって、現在は素敵な男性とのご縁があって結婚し、今は、幸せな家庭を築きながら、ヨガ瞑想や心の学びを伝えていらっしゃるんです。こういうご報告をいただくと、「本当に良かったなあ」と、私もとても幸せな気持ちになります。
例を挙げれば、もっともっとありますが、セドナの雄大な自然の中で本来の自分と向き合って、本当に自分がやりたいことに気づいた時に「自分がどう行動するか」で、人生の方向を変えられるのだと想います。
――具体的には、どうしたら「本来の自分」と向き合えるんでしょう?
NANAーーそうですねえ。まずは自分から余計なものを削ぎ落としていく・・・ことでしょうか?
私たちは成長する間に、学校教育、親、社会などから「こうあるべき」というたくさんの条件付けを受けてきているので、そういう外から求められる理想や期待に応えることをさて置いて、本当に自分がワクワクすること、頭ではなく体がポジティブに反応することを見つければ、本来の自分と出逢えるのではないかと想います。
自分を浄化して、余計なものを削ぎ落として、人生の転機にしたい、ということで、スウェットロッジを体験したい、という方たちが増えています。ネイティブ・アメリカンの浄化の儀式と言われるスウェットロッジでは、母なる大地の子宮を象徴するテントの中に入って、祈り、焼けた石に水をかけ、蒸気を出して汗をかくんです。それで、自分に必要なくなったあらゆるネガティブなエネルギーを体の外に出すんですね。それは、生まれ変わりの「魂の再生」の儀式でもあります。
スウェットロッジを体験したいという方たちは、癒し、リセット、再生、リバースなどを求めていらっしゃるんだと想います。
――スウェットロッジには、余計なものを手放す、引き算的な効果があるんですね?
NANAーースウェットロッジの中は真っ暗で、目に見えないものを感じる体験をします。ロッジを建ててくださる長老やシャーマンからタバコの葉っぱを少しずついただき、そこに祈りを込めて、グランドファーザー・ファイヤー(火)にその祈りを込めたタバコを捧げます。その煙は祈りと共に天に昇ります。そして焼けた溶岩に水をかけることで蒸気が充満しますから、水、大地、空気のエレメントを自分の中に取り込み、母なる大地、父なる天とつながります。サウナのように汗がドッと出てきて、熱さに身を任せていると、一種のトランス状態になり、その中で歌い、祈りを捧げる。意識が飛んで、あちら側とのベールがとても薄くなるんだと想います。祈りながら汗をかくことで、自分に必要のなくなったエネルギーが自分から出ていく感覚でしょうか。
――「自分の中の余計なもの」が抜けていくと、人はどう変わるんでしょうか?
NANAーー自分の体と、母なる大地と、自然のエレメント。それだけが究極的には生きていくのに必要不可欠なものなんだ、ということを体感します。それは言い換えれば、自分の人生にとって余計なものが見えてくることだと思うんです。そして、あるがままの自分を自分自身が認めてあげることができるようになったとき、自分の命の価値を感じることができるようになる。そうすると、ただ、「自分が取り替え可能なパーツのように働いている感覚の方がおかしい」と感じられるんじゃないかと想います。「自分はパーツでいたくない」「自分らしく生きたい」という感覚が蘇るんじゃないかしら。
――――パーツになっていると思っていても抜けられないのは、主に経済的な不安が大きいと思うのですが?
NANAーーもちろん、生活していく上でお金を稼ぐことは大切です。でも、そこだけにフォーカスしてしまうと、お金で換算できないと価値が見えなくなっていって、効率の合わないものはどんどん排除されてしまいますよね。でもね、地球そのものの命を感じられるような雄大な景色を見た時、いい意味で、なんだか、自分の抱えている問題なんか、どうでもよくなっちゃうんですよね(笑)。
生活の中で目の前のことしか見えないと、どうしても近視眼的になっちゃうでしょ。そうすると、不安のループに入ってしまう。でも、人智を超えた雄大な景色を目の当たりにすると、自分で決めつけていた枠が取り払われちゃうんじゃないかな。そうすると、「ま、なんとかなるだろう」って想えてくるんです。そうするとストレスから解放されて、リラックスしたマインドになって、解決策やいいアイディアも浮かんでくる。
NANAーー自分が作っていた境界線がなくなった時に見えてくる風景。今まで見ていた風景が違って見えてくる。そんな体験をした時、自分の人生を、別の目で見られるようになるんだと思います。雄大な光景を目の前にした時に、「自分の人生は会社生活がすべて」という「井の中の蛙」状態から抜け出て、もっと広い世界に触れて、別の道が見えたりするんです。「本音の自分のやりたいことはこっちだった」とわかったら、私は「それ、やってみれば?大丈夫、そっちに行けばいいんだよ」とちょっとだけ背中を押してあげる感じかな。でもね、本当に背中を押してくれているのは、マザーアースだと想う。
――でも、簡単に「自分のやりたいことをやる」といっても、難しいですよね。
NANAーー会社で働くことが悪いと言っているわけではありません。やりたいことは会社にいてもできるでしょう?自分にとってやりがいのある仕事なら素晴らしいと想います。ただ、取り替え可能な部品のような感覚しか持てずに、働いていても生き甲斐がないとしたら、それは自分を生きているとは言えないのではないかと想います。お金を稼ぐ手段と割り切って、そのお金を自分の好きなことに使うという人もいるかもしれません。とにかく、自分の体と自分の魂が喜んでいるか、が基準ですよね。
大切なのは、人の期待を裏切ったとしても、自分の魂を裏切らずに生きられるかどうか。
――そういう考え方は、ネイティブ的な思考なんですか?
NANAーー自分の魂を裏切らない生き方、という考えは、昔のネイティブの長老たちが語ってきたことであるとは想いますが、今のネイティブの人たちは、自分たちの部族のアイデンティティ、本来の自分を喪失している人たちがたくさんいます。居留区内ではアルコールの売買が禁止されているにも関わらず、アル中も大きな問題です。特にネイティブ的な考え方、という訳ではなく、それは人種を超えて、普遍的なものじゃないですか?
ただ、現代の私たちは、何のために生きるのか、ということを見失ってしまっている人が多いと想うんです。生きていくための場所、つまり家賃や家のローンのために稼がなくてはならない、というところにどうしてもフォーカスが行ってしまう。それは、私たちが「バースライト(生まれながらの権利)」を失ってしまったからだと想うんです。
ーーバースライト(生まれながらの権利)って、どんなものですか?
NANAーーネイティブの居留区には、住所がないんです。生まれた土地の空いているところに家を建てて住める。つまり、彼らには「バースライト(生まれながらの権利)」があるってことですよね。大地はマザーアースのもので、誰のものでもなく、同時に、みんなのものである、という感覚。生まれた土地で生きる権利が「バースライト」なんです。
考えてみたら、本当におかしいですよね?月の土地が売り出されるなんて話も聞いたことがありますが、一体、誰のもので、誰に売る権利があるわけ?それって、本当は地球でも同じじゃないですか?
ネイティブの人たちの「すべてはグレート・スピリットからお預りしているもの」であり「土地は人間の所有物ではない」という「バースライト」の感覚を、私たち、現代人は失っていますよね。言い換えれば、私たちは、「バースライト」を失ってしまったために、セコセコと一生働いて、大地とつながる感覚を失わされてしまった、と言えるかもしれません。
――そうは言っても、今の世界で「バースライト」を復活するのは難しくないですか?
NANAーー自然とともに、自分たちお互いを守ろうとするネイティブ的な考え方を「部族意識」とか「共同体的感覚」と呼ぶとしたら、人間が自然を支配し、人間が人間を支配するという「国家意識」の誕生によって、大地を所有するようになってきた、と言えるかもしれません。それと同時に「バースライト」の感覚も失われたように想います。
でも、「バースライト」は失ってしまったとしても、環境問題が大きな課題になっている今、「部族意識」や「共同体的感覚」を復活させることは、地球の存続にもつながってくると想います。
――最近、よく言われるサスティナビリティ(持続可能性)に通じる考え方ですね?
NANAーー今はよく、サスティナビリティと言われますが、私たち自身がサスティナブルであるためには、ネイティブ的な「部族意識」や「共同体的感覚」を取り戻すことが大切だと思います。プリミティブに感じるかもしれませんが、ネイティブの人たちというのは、国家社会を創ろうと想えばできたのに、それを選ばなかった集合的意識体なのではないでしょうか。昔の日本人もそうだったんじゃないでしょうか?
日本は今、約800万戸の空き家があって、田舎では場所によっては無料で家を提供してくれる地域も出てきましたよね。持ち主のいない空き家が、これからますます日本では大きな問題になると言われていますが、見方を変えると、ローカルの自治体やコミュニティによる空き家の有効利用は、「バースライト」の復活に少しだけ近づいているような気がして、私は、素晴らしいと想います。
――たしかに、ネイティブの人たちの感覚と日本人の感覚には共通点があると感じますね。
NANAーー昔は、おばあちゃんなんかに「何をしてもお天道様が見ているよ」とか言われたものですよね。それはネイティブのグレートスピリット、すべての命に繋がる人智を超えた存在に通じる感覚だと想います。そして八百万の神は「All my relations」という感覚に通じるものがあると想うんです。
NANAーーすべての命が自分とつながっていると感じるときに、ひとつの命としての自分が浮き彫りになってきます。そうして本来の自分に戻った時に、自分自身の魂が再生していく。
日常生活の中では、なかなか、この感覚を取り戻せない。だからセドナにやってきてそういう体験をしたい、と想う人が多くなっているのではないかな、と想っています。そして、一度得た感覚は細胞レベルに刻まれます。
雄大な光景を目の当たりにし、「魂の再生」を体感した時、自分の生き方を変えることができるようになるんです。「セドナに来て、人生が変わった」と多くの方がおっしゃるのは、意識的、無意識的に関わらず、自然の中で生かされている自分の命を感じ、本来の自分というか、あるがままの自分として生きることを選ぶことができるようになった結果なんだと想います。。
◯ NANA プロフィール
東京生まれ。高校卒業後、スウェーデンに渡り、美術学校へ。その後、ストックホルム大学で、スウェーデン語と民族学を学ぶ。帰国後、アメリカ人と結婚し、アメリカ、アリゾナ州セドナに移り住む。セドナの自然を案内しながら、セドナ、そして北アリゾナの自然を撮り続けている。その他、ウエディング写真、ホームページ用写真、記念写真の撮影も行いながら、大自然の美しさを通して、命の尊さを伝えたいと想っている。写心(写真)家・ガイドの他に、誘導瞑想、エネルギーワーク、地元のサイキックなどのセッションの通訳、そして自らもヒューマンデザイン・リーディングというセッションを行う。
NanaさんのHPは、sedonana.com インスタグラムは、sedonanaworld
写真/NANA
構成/ 尾崎 靖(エディトリアル・ディレクター)