凍結したザンスカール川の上を辿るチャダルを歩き続けた僕たちは、折り返し地点となるザンスカールのカルシャという村で、1日休養することにしました。それまでの道程ではあまりパッとしなかった天候も、この日は嘘のようにすっきりと晴れ渡り、雪に覆われたザンスカールの山々が、目に痛いほど眩しく輝いていました。
村の背後の岩山には、チベット仏教ゲルク派に属する大僧院、カルシャ・ゴンパがあります。まるで要塞のような勇壮な佇まいのこの僧院には、約100名の僧侶たちが在籍していて、日々の修行に励んでいます。
カルシャ・ゴンパで出会った少年僧。カメラを持っている僕を見るとはにかんで、柱の陰に隠れながら笑っていました。彼がかぶっている独特の形状のフェルトの帽子は、ザンスカールの僧侶たちがよくかぶっているものです。それにしても、二の腕がものすごく寒そう(笑)。
民家の屋根の雪かきをしている女性。ザンスカールの奥地はラダックなど周辺の地域に比べると積雪量がやや多く、雪かきをしないでいると屋根が壊れてしまう場合もあるので、大事な作業です。
水場から湧く冷たい水で、手を真っ赤にしながら洗濯をしている女性。こんな天気のいい日でなければ、冬のザンスカールでは洗濯すらまともにできません。「冷たい?」と彼女に聞くと、「冷たいわよー!」と返されました。当たり前のことを聞いてしまってすみません。
村の中を、てくてくと歩きまわっていた子犬。たぶん、野良犬の子です。こんなに厳しい環境の土地で、したたかに生き抜いている生命の強さ、たくましさに、あらためて心を打たれました。
村の空き地で遊んでいた子供たちに、現地の言葉で声をかけると、びっくりした様子で集まってきて、とびきりの笑顔を揃って見せてくれました。チャダルというと、氷の川の上を旅するという特殊な側面がクローズアップされがちですが、僕にとってのチャダルは、カルシャでこの子供たちに出会うために必要な道程にすぎなかったのかもしれない、と思いました。
次回は、再びチャダルを旅して帰路についた時の様子と、チャダルやザンスカールを取り巻くさまざまな課題について紹介します。
【氷の回廊チャダル1】
【氷の回廊チャダル2】
【氷の回廊チャダル4】
山本高樹 Takaki Yamamoto
著述家・編集者・写真家。インド北部のラダック地方の取材がライフワーク。2016年3月下旬に著書『ラダックの風息 空の果てで暮らした日々』の増補新装版を雷鳥社より刊行予定。
http://ymtk.jp/ladakh/