琵琶湖の固有種ホンモロコは、世界一おいしいコイ科の魚だ!
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    2025.03.22

    琵琶湖の固有種ホンモロコは、世界一おいしいコイ科の魚だ!

    琵琶湖の固有種ホンモロコは、世界一おいしいコイ科の魚だ!
    元来、琵琶湖の固有種であったホンモロコは、コイ科の淡水魚の中で世界一うまいともいわれる。大きな個体でも15cmにしかならないが、琵琶湖では毎年2月頃から初夏にかけて独特の沖曳き漁がたけなわとなる。天ぷら、佃煮などにもされるが、湯本貴和さんは黄醤油で食べた老舗旅館の素焼きのが忘れられないという。

    冬の「琵琶湖の深呼吸」は湖の健康の証し

    毎年2月になると、新聞各紙の滋賀県版で「琵琶湖の深呼吸」ということばが現れる。琵琶湖の最深部は100mを超えている。夏には琵琶湖の湖面が暖められて表層水の比重が軽くなるため、底層への沈み込みとそれに伴う酸素や栄養塩などの輸送が滞ってしまう。

    その結果、夏場の底では水に溶けている溶存酸素量(DO)が著しく低い状態である無酸素状態が続き、湖底に生息しているスジエビやイサザなどが死んでしまうこともある。

    「琵琶湖の深呼吸」とは、琵琶湖の全層循環のことである。冬の気温低下で表層の水が冷やされて下層へと沈んでいくことで起こり、酸素を含んだ表層の湖水が底層まで循環するのだ。

    1979年度に調査を始めて以来、暖冬であった2018年度と2019年度には全層循環が観測されなかった。猛暑の夏に引き続き、一向に寒くならない2024年度も大いに心配されたが、全層循環が2025214日に確認されたと滋賀県が発表した。

    「しぶき氷」が見られる頃、ホンモロコが旬になる

    上の2点は2021年1月10日に琵琶湖東岸草津市の志那で見られた「しぶき氷」。

    1月から2月上旬にかけての冷え込みと、強風によって水がかき混ぜられたことで起こったとみられる。このころ、琵琶湖の東岸で見られるのが「しぶき氷」である。

    「しぶき氷」は氷点下の環境で湖の波しぶきが強い北西風で飛ばされて、沿岸の樹木や岩に氷結する現象である。一年のうち、わずかに数日しか見られず、しかもだいたい午前中で消えてしまう。

    2025年も「しぶき氷」は、26日、8日と琵琶湖東岸で見られている。強い冷え込みで起こる全層循環は琵琶湖の生態系に健全さをもたらし、同じ条件下で現れる「しぶき氷」はその美しい吉兆なのだ。

    この冬から春にかけて旬を迎えるのが、ホンモロコ(Gnathopogon caerulescens)である。本来は琵琶湖の固有種であるが、島根県宍道湖に放流されたとか、全国的に養殖が盛んとなるにつれ、養殖のための池や田から逸出した個体も増えている。

    激減した琵琶湖の固有種ホンモロコ

    絵師・大野麥風(1888~1976)による木版画集『大日本魚類画集』に収められた「モロコ」(1941)。琵琶湖のホンモロコである。麥風は東京・本郷で生まれ育つも、関東大震災で被災した後、関西に移住して琵琶湖の魚も描いた。提供/Japan Art Open Database

    ホンモロコは水温が低下する冬には沖合の水深5090mの深層で過ごすが、3月から5月にかけて沖合から湖岸に近づくようになり、沿岸のヨシ帯や内湖のごく浅い水域で産卵する。孵化した稚魚は沿岸域で成長し、秋になると沖合に移動する。

    季節によって大きく移動するホンモロコは、それぞれ漁法が異なる。11〜4月にかけての寒モロコは、沖曳き(ちゅうびき)網漁で獲る。

    水深4080mの沖合で夜明けから午前中にかけて、長さ800mのロープのついた長さ3040mの袋状の網を仕掛ける。船の動力では引き回さず、漁船を固定してロープを巻いて網を上げる。

    モロコ類のほかにワカサギ、イサザ、ゴリ、エビ類を漁獲する。34月と811月の春と秋は、刺網(小糸網)漁である。春は水深710mの浅場、夏・秋は水深10〜15mの底付近に、小糸網と呼ばれる刺網を仕掛けて獲る。

    春は夕方に設置して翌朝に、夏・秋は夜中の2時ごろ設置して夜明けごろに取り上げる。鮮度を保つために水温の高い時期は設置時間を短くする。魞(えり)漁では、3月〜4月に沖合から湖岸にホンモロコが移動する時期に獲れる。46月の産卵期は、場所によってホンモロコは禁漁になる。

    ホンモロコ漁の最盛期には年間350tを超える漁獲量だったが、1995年からは激減し、2004年には5tにまで落ち込んだ。

    外来魚による卵や稚魚の食害、産卵場所のヨシ帯の減少、琵琶湖の水位操作による卵の干出などの原因が挙げられている。近年では外来魚の駆除や水田放流などの努力で資源回復の兆しがみられるとのこと。

    どんな料理でもうまい!

    ホンモロコの佃煮。

    ホンモロコの天ぷら。

    『琵琶湖の魚類図鑑』(サンライズ社)によると、「世界一おいしいコイ科魚」であるホンモロコ。顔先がとがり、口が前向きなのが大きな特徴だ。

    湖底で底生生物を食べる他のモロコ類とは違って、成魚は水深5m以深の沖合の中層を遊泳し、もっぱら動物プランクトンを食べている。そのため泥臭さが一切なく、天ぷらや佃煮、南蛮漬け、昆布巻きなど、どんな料理でもうまい。

    忘れられない老舗旅館の素焼き

    老舗旅館の「丁子屋」の2階で素焼きにするホンモロコ。

    素焼きになったホンモロコ。

    しかし、シンプルに焼いて生姜醤油で食べる素焼きがいちばんではないか。滋賀県高島市にある創業300年を超える老舗旅館の「丁子屋」の2階で、おかみさんに焼いていただいたホンモロコの味は忘れられない。

    小さなコンロであぶると、琵琶湖の寒モロコは滲み出る脂でこんがりと焼けて、寒い湖西ならではの味である。浅い水田などで飼育している養殖ホンモロコとはまったくの別物だ。

    ※特に記載のない写真は湯本貴和さんの撮影です。

    協力/滋賀県立琵琶湖博物館 https://www.biwahaku.jp

    湯本貴和さん

    1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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