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ピラニアから古代魚まで!アマゾン川は淡水魚の宝庫
世界最大の熱帯雨林であるアマゾン。長さは約6,800kmでナイル川と世界一を競い、支流はブラジル、ベネズエラなど9カ国にまたがって、流域面積はおよそ705万平方キロメートルと世界最大。そのうち550万平方キロメートルが熱帯雨林である。
これらの大河は、いうまでもなく淡水魚の宝庫である。アマゾン川やオリノコ川など南米の河川には、まだ記載されていない新種の魚はたくさん生息しているが、少なくとも2,500種以上の淡水魚が住んでいる。
そのうち1,000種は有名なピラニアを含むカラシン類、さらに1,000種はナマズ類である。ブラジル・アマゾネス州の中心都市であるマナウスの魚市場には、目を見張るほどに多様な魚たちが並んでいる。
ピラルクー(Arapaima gigas)やシルバーアロワナ(Osteoglossum bicirrhosum)など1億年の間、ほとんど姿が変わっていない「古代魚」と呼ばれる巨魚もたくさん売られている。生きた個体なら観賞用としていくらで取り引されるのだろうと下衆な考えが頭をよぎる。
マナウスの市場では「古代魚」も人気食材なのだ
野生のピラルクーは、昔は弓矢、現在はおもには刺し網で捕獲されるが、腐るのが遅いことでも有名だ。熱帯の気候下で、生でも丸1日は大丈夫という。
マナウスの魚市場では、生のピラルクーを三枚におろして切り身にしたものだけではなく、生干しされた三枚おろしのピラルクーや、それをロールに巻いて縛ったものが売られていて、冷蔵設備がない場所にでも輸送できる魚として重宝されている。
白身のしっかりとした肉質で、フライでもムニエルでもとてもおいしい。ピラルクーの頭部もたまに市場に並んでいて、煮るとコラーゲンたっぷりのスープができるそうだ。
植民地時代に伝わったブラジル流ブイヤベース「カウデラーダ」
わたしが好きなピラルクー料理は、「カウデラーダ」である。カウデラーダは、一種のブイヤベースだ。ブラジル料理は、もとの宗主国であるポルトガルの料理を基本としている。カウデラーダもポルトガル料理で、大型魚の切り身をトマトとともに、ジャガイモ、タマネギ、ピーマンなどを加えて土鍋で煮込んだものだ。
もとはマダラやヒラメなどポルトガルで手に入る海の魚を使っていたものだろうが、マナウスではアマゾン川の淡水魚を使うようになった。
魚の旨味、トマトのフレッシュな酸味、塩胡椒のシンプルな味つけで、ゆで卵がアクセントになっている。薬味にはコリアンダーや小ネギが散らされる。カウデラーダにはさまざまな魚が使われるが、まったく煮崩れしないピラルクーのシコシコした食感と旨味がたまらない。
ピラルクーの生食料理「セビーチェ」
一度だけ、新鮮なピラルクーの「セビーチェ」を食べたことがある。
セビーチェは、ペルー発祥といわれる魚の生食料理のひとつである。たっぷりのレモン汁にニンニクとコリアンダー、トウガラシを入れて、塩と胡椒で味を整えたものに、薄く切った生魚を漬ける。漬けすぎて身が白く濁らないようにして、生っぽい感じを保つことが肝要だ。
マナウス市内のレストランでも滅多に食べることはできないが、この店のセビーチェはピラルクーの身を丁寧に削いで、上にケッパーを散らしたおしゃれな一品だった。味はカワハギの薄造りといったところか。
怪魚の養殖を成功させたのは日系人だった
ピラルクーは、体長4.5m、重さ200kgにも達する世界有数の大型淡水魚である。性成熟は体長1.7m、重さ40kg以上で、生後4〜5年程度必要とされる。強力な捕食者であるが、食用のために乱獲されて野外では著しく減少しており、現在は養殖が盛んである。
マナウスなどのアマゾナス州だけではなく、サンパウロ近郊でも養殖されているという。ピラルクー養殖業の成功には、日系ブラジル人の貢献が大きいと聞いた。