体長は1m、重さ30kgにもなるという。猛魚で知られるピラニアの仲間と同じカラシン類だ。幼魚のときはピラニアに擬態もするという。
しかし、肉食ではなく、なんと主な食餌は樹木が川に落とす果実である。この珍魚、じつは浸水林と共生して樹木の繁栄に大きな貢献をしているのだ。博覧強記のナチュラリスト、湯本貴和さんの連載第2回はアマゾン続編。珍魚をバーベキュー好きのブラジル人にならって炭火焼きで喰らった!
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樹木が落とす果実を食べる魚コロソマが、アマゾンの浸水林を育てた
アマゾン熱帯雨林は、「川の森」だ。季節によって大きく水量を変化させるアマゾン川は、1年間に十数mの幅で川岸を削り、同時に十数mの幅の川原を堆積させる。アマゾン川流域で最大の都市・マナウスの船着場では、年間の水位差は10m以上に達する。
川のそばにはイガポと呼ばれる浸水林が発達し、雨季の終わりで水位が高い時期には樹木が上の枝まで水に浸かるが、乾季が始まると根元が陸地になるサイクルを繰り返している。イガポでは、雨季には森のなかに迷路のように入り組んだ細流ができて、ブラジルでタンバキと呼ばれるコロソマ(Colossoma macropomum)が樹木の果実を食べて種子を運ぶ。
乾季にはその種子が発芽して定着するわけだ。コロソマが種子を運ぶ距離は5kmを超えると推算されていて、アフリカゾウを含むすべての動物と比べても最長である。魚を種子の運び屋にする極めてユニークな生態系が、アマゾン川やもうひとつの大河・オリノコ川などの南米の熱帯雨林に存在している。
幼魚のときには、なんと近縁のピラニアに擬態して捕食を避ける!
コロソマは、猛魚で知られるピラニアの仲間と同じカラシン類に分類される。大きなもので体長1m、重さ30kgにまで成長する。市場で売られているのは、40〜60cmクラスのものが多い。体高が高くて、一見ピラニアに似ている。
実際、幼魚は銀色で胸が赤いピラニアに擬態して、共食いを避けるピラニアによる捕食を免れるとされている。肉食で群れをつくるピラニアと違って、植物質中心の雑食で単独生活者である。現在は野外で捕獲されるだけではなく、養殖もされている。
炭火で焼けば脂が滴り身離れがよく、まるで氷見の寒ブリ!
ところでこのコロソマ、南米の淡水魚でもっともうまい魚ではないかと高い評価を受けている。マナウスの魚市場でもコロソマは山のように積まれていて、いつもたいへんな人だかりだ。脂の乗った白身の魚で、マナウスにやってきた日本の超有名人は「氷見の寒ブリに匹敵するでギョざいます」とおっしゃったとか。
市内のレストランではフライやカウデラーダ(土鍋で煮たブラジル流ブイヤベース)など、どんな料理にも重宝されているが、野外でバーベキューをするのが大好きなブラジル人にとって炭火で焼いたタンバキはご馳走のひとつである。しっかりと身離れがよく、脂が滴るように旨味が強いコロソマはたしかに寒ブリの塩焼きを想起させ、醤油を持参していないのをいつも悔いることになる。
これぞ日本人の執念! 南米調査が長くなった研究者がコロソマの刺身をつくった
さて、わたしが初めて南米の熱帯雨林に調査に出かけたのは1993年である。コロンビアのマカレナという場所だ。最寄りの街から、船外機エンジンのついた木造ボートに乗る丸一日がかりの旅で、途中で水深の浅い場所は降りてボートを押すという遠隔地だった。
そこのトタン屋根で壁のない調査基地で3ヶ月半の間、新世界ザルなどを追っていた。当時は村から運んできた食材を使って、研究者が交替で食事を作っていた。
みんな調査で忙しいので滅多に釣りなどはしなかったが、乾季にはイチジクの果嚢(いわゆる果実)を餌にしてコロソマを釣ることがあった。ここではカチャマという名で呼ばれるコロソマとの最初の出会いで、果実を食べる魚としてたいへん印象に残った。このカチャマだが、寄生虫を丁寧に避けながら刺身で食べるのはマカレナ最高のご馳走だった。
南米での調査経験の長い霊長類学の先輩が、日系移民の知恵として編み出されたコロソマの刺身という日本風の食べ方を南米大陸のどこかで見出したのだった。うまい魚は刺身で食べたいという、日本人の執念のようなものを強く感じた。
※冒頭の博物画はコロソマに近縁のピラニアの仲間.19世紀中葉のイギリス人によるアマゾン水系の探検記より。ハーバード大学図書館蔵 W.Jardine’The Naturalists Library vol.39 Fishes of British Guiana part1′ 1852