コンゴ人が仕事そっちのけで採るキノコとは?シャキシャキした食感でおいしいぞ!
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    2025.02.23

    コンゴ人が仕事そっちのけで採るキノコとは?シャキシャキした食感でおいしいぞ!

    コンゴ人が仕事そっちのけで採るキノコとは?シャキシャキした食感でおいしいぞ!
    日本人によるアフリカの類人猿調査に協力した現地人には仕事に集中してもらったそうだが、どうしても「副業」を許さざるを得ないときがあった。そのひとつが雨季、キノコを見つけたときだったという。彼らが集めてきたキノコの中には、きわめて特殊な生態のうえ、一度食べたら忘れられないほど旨い逸品もあった!

    トラッカーたちは研究のパートナー

    屋根用のヤシ

    屋根葺き用のヤシ(ペト Sclerosperma mannii)を集めるトラッカーのコイ・イソルカ氏。彼は植物に詳しいので、わたしと歩くことが多かった。

    ワンバでは、ボノボを調査するときにはトラッカーたちと歩く。トラッカーとは、ボノボを探索して追跡することに習熟した特別な村人のことだ。彼らの森での知識と身体能力なしでは、ボノボ調査自体が成立しない。

    加納隆至さんが調査を始めてから研究は次々と若い世代に引き継がれてきたが、トラッカーの仕事も父親から息子や娘婿へ、あるいは甥やいとこへと引き継がれてきた。

    駆け出しのトラッカーは、初めは見習いで調査について歩くことから始まって、そのうちボノボの生態や行動を熟知するようになり、次第にわたしたちがトラッカーになにを求めているかも理解して、研究に欠かせないパートナーとなっていく。

    ボノボの調査ではトラッカーは2交代制だった

    内戦による中断にもかかわらず、調査再開時にはトラッカーが集まって日本の研究者たちと互いの無事を喜び合ったと聞いている。

    時代によってトラッカーの使われ方は違うが、わたしが滞在した2012年と2014年では、早朝に研究者と一緒に出かけたトラッカーたちは、無線で連絡をとりあって昼過ぎに別組トラッカーたちに引き継いで、引き継ぎ組が夕方、ボノボがベッドをつくって休むところまでを見届ける。

    翌日は寝場所まで行ったトラッカーたちが早朝に研究者と出かけてボノボを追跡し、昼過ぎに別組のトラッカーたちに引き継ぐという2交代制だった。

    ボノボは非常に広い範囲を移動するので、いったん見失うと森のなかを無闇に歩き回ってもなかなか見つけ出すことはできない。そのため、ベッドからベッドへ確実に追跡しておくのが一番である。

    キノコと幼虫を見つけたときだけは調査中断

    イトトロイ1

    キノコシロアリと共生するイトトロイ(シロアリタケ Termitomyces属)を採取したコイ・イソルカ氏。

    トラッカーはボノボ探索および追跡中は漁撈や採集などの「副業」禁止なのだが、どうしても止めることができなかったのがマイェボ(キノコの総称)とビンジョ(幼虫の総称)の採集である。

    マイェボもビンジョも、一過性のものである。この刹那に採集を見送ったら、次回採れるかはなはだ怪しいというより、まず無理である。

    そのため、マイェボとビンジョの採集は緊急を要しており、「またあとで」などと悠長なことを言っている場合ではないのだ。

    実際、ここで見たマイェボやビンジョは、雨季と乾季それぞれ2ヶ月ぐらいの滞在で出会ったのはたいてい一度きりで、大多数は二度とお目にかかることはなかった。

    一度食べたら忘れられないシロアリタケ

    イトトロイ2

    イトトロイと呼ばれるシロアリタケ(Termitomyces属)は、シロアリの巣から生えているので柄が長い。

    まずキノコで特筆されるのは、イトトロイ(シロアリタケ)である。シロアリタケ(Termitomyces属)は、アフリカから東アジアにかけての熱帯・亜熱帯地域に広く分布する。

    その生態はきわめて特殊で、キノコシロアリ亜科のシロアリと共生している。シロアリの巣内にある菌園と呼ばれる部屋で菌糸が増殖し、雨季に胞子をつける子実体、いわゆるキノコを発生させる。

    このシロアリタケ属の子実体は東南アジアでもたいへん美味なキノコとして有名で、キノコとしては桁外れの値段がつく。シロアリと共生しているために栽培が困難であり、現在も人工栽培に向けたさまざまな研究がおこなわれている。

    とにかくおいしいキノコで、シャキシャキした食感とくせのない独特の旨味が一度食べたら忘れられない。

    他の食用キノコは小さく、煮物やスープに!

    雨の多い季節には森のなかはキノコだらけになるが、トラッカーたちが好んで集めるキノコは数種に限られる。シロアリタケ以外の食用キノコはひとつひとつが小さいため、まとめて煮物かスープにして食べられる。

    ボコロンジェンバ

    ワンバの熱帯雨林に生えるキノコで、ボコロンジェンバと呼ばれていた。ヒトヨタケの仲間か。

    キノコのごった煮

    森のキノコのごった煮。雨季にはキノコがたくさん出るので、複数のキノコをごった煮にしている。

    村人たちは「キノコの女王」には手をつけない

    しかし、食菌のはずなのに村人がまったく手をつけないキノコもある。それがキヌガサタケの仲間だ。中国では宮廷料理などで高級食材として扱われており、「キノコの女王」と呼ぶ人もいる。

    キヌガサダケ

    白いレースを纏ったような美しい姿のキヌガサタケの仲間。中国では賞味されるが、ここではンダコ・ヤ・コンゴリ(マンネンヒツヤスデの家)と呼ばれて、だれも顧みない。臭いグラバは昆虫などを引き寄せて、胞子を運ばせる。

    白いレースを纏ったような美しい姿である。でもワンバの人たちはまったく顧みないどころか、ンダコ・ヤ・コンゴリ(マンネンヒツヤスデの家)と悪口を言う。

    おそらく胞子を含んだ粘液(グレバ)が悪臭を放つためかと思われる。そうしてみれば、グレバの臭いにもめげずに、そこに美味を見出した中国はすごい。

    ボノボが掘り出したのはトリュフの仲間!

    ボノボとシンボキロ

    シンボキロを掘り当てて、口に入れたボノボ。

    ボノボにも固執するキノコがある。シンボキロという地中生菌だ。トリュフの仲間で、地中に丸い子実体をつける。2020年にHysterangium bonoboという新種として記載された。学名に種小名に、ボノボが使われている。種小名は形容詞なので、「ボノボのHysterangium属菌」という意味である。

    湿地林とふつうの森林の境にシンボキロを掘る特別の場所があり、そこでボノボは脇目もふらず30分以上も一心に土を掘る。

    シンボキロ

    ボノボの大好きなシンボキロ(Hysterangium bonobo)。トリュフに似た地中生菌で、ボノボなどの動物が掘り起こして胞子を散布すると考えられている。2020年に新種記載されたので、わたしが見たこの時点では未記載種だったわけである。

    得られたシンボキロはボノボにとって特殊な食べ物で、肉などの滅多に獲れない貴重な食べ物と同様、持ち主におねだりをする。

    わたしが手に入れたシンボキロはまだ未熟なのか無味無臭だったが、胞子が熟してくるとイノシシがトリュフを掘らざるを得なくする特別な刺激があるに違いない。

    湯本貴和さん

    1959年徳島県生まれ。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後は「フリーのナチュラリスト」を標榜。旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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