採って楽しい 食べて美味しい 野生の食菌、探してみよう!
一般的に、キノコのシーズンといえば「秋」。私の実家でも、落葉広葉樹が色づき始め、朝に冷えを感じるようになると、「そろそろ山に入ってみるか」と祖父か祖母が言い出したものです。
といっても、マツタケやマイタケなんてほぼ見つからず、ハナイグチ、クリタケ、チャナメツムタケといった、いわば「雑キノコ」が獲物のメイン。シモフリシメジやシャカシメジは見つかるといいな、という感じ。山から帰って、これらをきれいに掃除して、その晩は、軽く湯がいておろし醤油和えで一杯、それから鍋物と炊き込みご飯、というのが定番でした。
関東近郊の里山がメインフィールドになってから、「夏キノコ」の楽しさ、おいしさに気がつきました。今回紹介する「チチタケ」も、夏のキノコのひとつ。真夏から初秋までがシーズンです。
ある年の7月。短い帰省をして、いつもは秋に入る山に出かけてみました。暮らしていた頃は秋にしか入ったことがなかったため、見慣れたはずの山も様子が違って見えます。
シモフリシメジのポイントに入ると、赤茶色のキノコが群生に出会いました。ビロードっぽい手触りの傘の中心にくぼみがあり、折り取ると、傘の裏や軸から白い乳液が滴ります。チチタケに間違いありません。この日はかなりの量を採取することができました。
味をしめて、翌年、同じ時期に同じ山に向かうと、前年より少し早めにシーズンインしていたようで、早朝にもかかわらず、先行者の車が至る所に。いずれも栃木県か群馬県のナンバーです。当地では、誰も見向きもしないチチタケも、この2県ではチタケと呼ばれ異常なレベルの熱量で愛されているとは聞いていました。ぼちぼち距離はあるので、みんな徹夜で車を飛ばしてきたのでしょう。すごい情熱です。つい先日も、栃木県で小さめのものが数本のパックが数千円で販売されているという情報がSNSで回ってきて、仰天したものです。
さて、このチチタケ、栃木では、主に、茄子と一緒に煮込む「チタケうどん」で食べられているそうです。茄子と炒め煮にすると、強烈な甘みと旨味が出て、さらにちょっと干し魚的な独特の芳香もあって、汁が信じられないくらい旨くなります。
しかし、それ以外の料理にしようとすると、なかなかに曲者。このキノコ、とにかく食感が悪いのです。軸も傘もぼそぼそしていて、コルクみたい。知らないで食べるとちょっとめげるレベル。
では、出汁だけ取って本体は外しちゃえばいいのかというと、そういうわけにもいかない。というのも、独特の香りは、本体に残っていて、出汁にはほとんど移らない。この香りがないと、のっぺりと甘ったるいだけのどこかつまらない味になるのです。
うどんに少しばかり飽きてきたある日、とあるフレンチの料理人から教わった手法が、目からウロコでした。まずチチタケを丸ごと冷凍してからミキサーで粉砕。それを使って、手鍋で炊き込みご飯にするというもの。これにより、食感の問題はクリア。甘みも香りも完全に生かしたままいただくことができます。
チチタケがなくても、手鍋で炊く飯は、米粒がバリッと立って実に旨いので、是非お試しください。チチタケ以外のキノコでやる場合は、ミキサーにかけちゃダメ。そのまま入れて炊き込んでください。市販のシメジとかマイタケとかを使う場合は、天然物に比べて味も香りも薄いので、複数の種類を混ぜた方が美味しく仕上がります。また、塩の代わりに醤油を使い、味醂をほんの少し入れて味を補ってください。
最近は、コンフィもかなり有効な手段と気がつきましたが、これは別の機会にご紹介できればと思います。
チチタケの炊き込みご飯 手鍋バージョン
材料
チチタケ・・・2本
米・・・一合
鰹出汁・・・200ml
塩・・・ひとつまみ
作り方
①チチタケは丸ごと冷凍しておく。それをミキサーで粉砕し、粉末状にする。
②米は研いでから水につけて30分ほど吸水させ、ざるに上げてよく水を切る。
③手鍋に米と鰹出汁を入れ、火にかける。沸騰したらチチタケを入れ、塩をひとつまみ振って蓋をして、弱火にして10分加熱し火を止める。蓋は開けずに5分蒸らしたら、ざっくり混ぜて完成。